第127話 錬絶のナイフ⑤
投入作業は簡単だった。
手に素材を持ち、錬成色とマナポーションの色が一致したら投げ込むだけ。猶予は3秒もあるから失敗も無い。
全部の素材を投入し終え、蓋を閉める。ヴィヴィが窯のマナドラフトに手を合わせると、蓋の筒からシャボン玉が発射された。
俺の方にシャボン玉が落ちてきたので、シャボン玉を受け止める。シャボン玉は割れ、中の物が俺の手に収まる。
鞘を被ったナイフだ。片刃のナイフ。
柄と鞘は黒。刀身は白銀。刀身には赤い紋が入っている。
「成功、だよな?」
「どうだろう。実際に効果を確かめてみないとね。実験用の錬成物は用意してある」
錬絶のナイフは斬った錬成物を錬成前に戻せるらしい。
もし錬絶のナイフの錬成に成功していたのなら、錬成物を斬れば素材に戻る。
ヴィヴィは色々な錬成物を台車に乗せて持ってきた。剣と木像とクスリ餅だ。
「全て錬成物だ。これらをナイフで斬れば素材に戻るはずだよ」
「試してみるか」
俺は鞘を取り、抜身のナイフでまず木像を軽く斬りつけてみる。
しかし――
「ただ傷がついただけだな」
「マナは込めたかい?」
「込めてない」
「込めないとダメだ」
「どうやって込めるんだよ」
「虹の筆で絵具を出すのと同じ要領さ」
「なるほど」
俺はナイフにマナを込め、また軽く斬りつける。でも、
「戻らないね」
「戻らないな」
「もっと強く、断ち切るぐらいの勢いで斬ってみたまえ」
「わかった」
木像の首を断ち切る。
「斬れただけだな」
「ふむ」
ヴィヴィは椅子に座り、考え込む。
「……錬絶のナイフは対象の錬成式を破壊するもの。ならば、対象の錬成式をある程度理解している必要があるのかも」
「それなら俺よりお前の方が向いてるんじゃないか? お前ならぱっと見で錬成式の完成度とかわかるんだろ?」
「そうだね。それにその木像は自分で作った錬成物だ。錬成式は知り尽くしている」
ヴィヴィに錬絶のナイフを渡す。
ヴィヴィはナイフを振るい、首の無い木像に斬り込む。
ナイフと木像がぶつかった時、異変は起こった。
「「!?」」
木像から、多数の図形が浮かび出た。円、六角形、逆三角形。それぞれの図形には大量の読めない字が書き込まれている。
「これは……錬成式!? 錬成式が具現化しているのか!!」
浮かび上がり、光り出す錬成式。
錬成式がナイフを押し返す。ヴィヴィは負けじとナイフを押し付けるが、錬成式はバチバチと火花を発してナイフを押しのけようとする。
「くっ!?」
ヴィヴィは耐え切れず、ナイフを手から弾いてしまった。
「うおっ!?」
ナイフは俺の顔の横を通り抜け、壁に突き刺さった。
ナイフが離れると、錬成式は木像の中へ吸い込まれるようにして消えていった。
「……錬成式は捉えられたな。でも、破壊はできなかったか。何が足りなかったんだ?」
「シンプルに腕力な気がするよ」
ヴィヴィは俺にナイフを渡す。
「また俺か。俺は錬成式を具現化させることすらできなかったんだぞ」
「錬成式の具現化に必要なものはやはり錬成式の看破だと考える。イロハ君、さっきと同様に、錬成物の錬成色を見切るんだ」
「錬成色を……」
「加えて、錬成物の色ツヤ・ハリ、色の流れからその錬成物が作られた過程を想像する」
「無茶苦茶言うなよ……」
「大体でいいんだ。色から、対象の錬成式を感覚で捉えろ」
だから無茶苦茶だって。やってみるけどさ。
(まず色の観察)
色から情報を読み取るとか……いや、いつもやっていることか。
色から品質を、材質を、見切る。どんな素材で構築されているかを大まかに把握する。
(次に錬成色の観察)
まったく、これをやるのはきついってのに。
集中し、錬成色を見切る。
錬成色は……モスグリーン。
「仮想錬成式構築完了。マナ装填」
錬絶のナイフにマナを込める。
「いっけぇ!!!」
ナイフを木像にぶつける。すると、さっきと同じように錬成式が浮かび上がり、刃を止めてきた。
なるほど。硬い。鉄パイプに斬りかかっているような感触だ。
「よし。これなら、勢いを付ければ!」
1度、錬成式にナイフを弾かせる。弾かれてもナイフは手放さない。このまま勢いをつけて――
「イロハ君……!」
「錬・絶!!!」
思い切りナイフを振るう。
ナイフと木像が衝突すると錬成式が現れるが、俺は一太刀で、一瞬でナイフで錬成式を切り裂いた。
錬成式がバラバラに砕けていく。すると木像は瓦解し、木片と化した。
「凄い……これが、錬絶のナイフ」
「つ、疲れる……」
ともかく、錬成は成功していたってことだな。
「そのナイフは君が持っていなさい」
「お前が厳重に保管しておいた方がいいんじゃないか?」
「いや、いい。これからも我々の前には多くの障害が現れるだろう。でもそのナイフがあれば、大体の障害は突破できる。本当は私が管理したいが、私の腕力では扱えそうにも無いのでね。宝の持ち腐れだ」
そういうことなら預かっておこう。
こうして虹の筆に続き、錬絶のナイフも俺達は手に入れた。
爺さんの手記に記されたメニューは後5つ。




