第124話 錬絶のナイフ②
湯浴びをして、ストレージポーチに入れていた私服に着替える。
店に上がると、客が2人来ていたので、話はまだせず接客をした。
客が全員帰ったところでカウンター内に行き、ヴィヴィの横に座った。
「それで、話とは何かな?」
「ん~、長くなるけど、まずはコレ」
俺はストレージポーチから布の包みを出し、包みを開いて見せる。
「これは……魔鉄だね。それに、この柄は反魂石か。反魂木より貴重且つ有用な素材だよ」
ヴィヴィは目を輝かせる。
「凄いじゃないか! 一夜にして両方とも集めるなんて……! 反魂石も十分な量だ。ビー玉サイズで1回分は賄えるというのに、その4倍のサイズはあるぞ……」
「喜んでもらえて良かったよ」
「それで?」
ヴィヴィは笑顔から一転、真剣な顔つきになる。
「こんなヤバい魔剣をどこで手に入れた?」
その頬には一滴の汗がある。
「ハッキリ言ってこれを作った人間は化物だ。この私が、『化物』なんてくだらない言い回しをする程にね」
「あの天上天下唯我独尊のヴィヴィ様が化物と仰るのでしたら、俺からしたら神様レベルですね」
「その通りだ」
コイツ……。
「錬成物には錬成式が組み込まれている。錬成式とはその錬成物を成り立てているいわば『つなぎ』のようなものだね。この錬成式が甘いと錬成物に継ぎ目が出来たり、部分部分によって感触に差異が生まれたりする。他にも色々と淀みが生まれるんだ。1流の錬金術師ならパッと見ただけでその錬成物の錬成式の完成度がわかるものさ」
確かに俺とヴィヴィだと同じようにコップを作っても、全然強度とか、滑らかさとかが変わる。ヴィヴィの作るコップはどこか上品で、俺のコップはどこか品が無い。形は同じなのに、なんとなくわかってしまう。俺とヴィヴィの差はこの錬成式の差なのだろう。
「この魔剣には『淀みが一切無い』。パーフェクトだ。魔剣なんて錬成の難しい物でこの完成度はあり得ない。かと言って、自然に出来た魔剣でも無い。一体誰がこんなものを作った?」
「アゲハ=シロガネだよ」
「アゲハさん……!?」
ヴィヴィの頬が赤くなる。
そういやヴィヴィにとって、爺さんは『最も尊敬する錬金術師』だったな。
「ダメだ……一体何がどうなって君の手元にアゲハさんが作った魔剣があるのか、私の頭脳をもってしても一切わからない……」
「説明するよ」
店番をしつつ、話をして、客が来たら中断、客が帰ったら続きを話すを繰り返す。
一通り話し終える頃には20時を回っていた。
「ユグドラシルに入ったらユグドラシルが君をアゲハさんだと誤認して90階に転移。90階にはムショという人の魂が入れられたフェアリードールが居て、そのフェアリードールに案内してもらってアゲハさんのアトリエへ……魔剣はそこで手に入れたと」
「ああ」
「それで、外に出たら不正アクセス疑惑でユンセルというユグドラシルの門番に襲われ気絶。起きたら尋問されたが、無実を証明して釈放。そして今に至る……か」
「尋問って程厳しくはされなかったよ」
ヴィヴィはカウンター内の椅子に深く座り、カップに入れた紅茶を口にする。
「君って、ひょっとしてトラブルメーカー?」
「言うな。俺ももしかしたらとは思っている……それでどうだ? ムショのこと、なんとかできそうか?」
「フェアリードールか。残念だが、アレを作るのにはまだまだ時間が掛かる。色々と足りていないからね」
「そうか」
「だが在学中、3年以内には作るさ」
3年。アイツにとっては短い時間だろうか。
「いや、ムショとやらに会えれば技術的問題はなんとかなるかもしれない。そうすれば更に製造期間は短くできる」
「本当か?」
「見本があるとないとでは全然違うからね。だが、会えないだろ。今の状況でまた意図的に不正アクセスしようものなら、最悪死刑もあり得る」
「マジか」
「ユグドラシルはそれだけの聖域なんだ。特に最上階に近い部分はね。……それにしてもラタトスク、ユグドラシルの『鍵』か。ラタトスクについて黙っていたのは正解だよ」
「理由は?」
「ユグドラシルの最上階に何があるかは公表されていない。恐らく、この世界でユグドラシルの最上階について知っているのはジャック校長ただ1人。あんなに派手好きの校長が、ユグドラシルの上にあるものについては全く喋らない。聞かれても答えない。それだけの秘密ってことさ。その秘密を暴く鍵、ラタトスク。ジャック校長にとってはかなーりまずいものだろう。口を滑らせていたら、ムショって人形は殺されていただろうし、君と、その場に居たレイン副校長の命も危うかっただろう」
「レイン副校長までは流石に無いだろ……」
「わからないさ。それだけの重要機密だった可能性はある。そして、その秘密を暴きかけていたアゲハさん……正直関わりたくないね。ここらを掘り下げるとあっという間に3回は死にそうだ」
おちゃらけて笑うけど、ヴィヴィの言葉には緊張があった。
話して巻き込んだのは悪かったかも。
「話すんじゃなかった。なんて思ってないよね?」
ぎくり。
「話して良かったに決まっているだろう。私は『無知』を嫌悪する。知らなければ良かった、なんてことは基本無い。覚えておきたまえ」
「……そういや、そういう奴でございましたね」
心配して損した。
「さて!」
ヴィヴィは手を叩く。
「本題に戻ろう。錬絶のナイフ造りだ。素材は全て揃った。後は作るだけだ」
「作り方は手記に全部載っていたよな。つっても、製法は知らない言語で書かれていたから読めなかったんだよな。あれ、多分錬金術師の言語だよな」
「違うよ。馬鹿でもわかるただの暗号さ」
じゃあわからなかった俺は馬鹿以下か?
「今回も君と私のタッグでいくよ、イロハ君。錬絶のナイフを作るためには、君の色を見切る瞳が必要になる」




