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色彩能力者の錬金術師  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第3章 千面道化襲来

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第104話 名誉挽回

 千面道化は四季森を抜け、コノハ研究所を草陰から覗き見ていた。


 ラビィの記憶より、コノハ研究所の全出入口は把握している。

 防衛班のメンバーも確認済み。

 体は不完全だが、それでも並みの人間を圧倒できるほどの身体能力はある。しかし相手の中にはジョシュアが居る。完全な状態でも手に余る相手だ。無策で突っ込んではいけないと千面道化は判断した。

 千面道化は下手にコソコソすることは逆に怪しいと考え、ラビィの姿で、ラビィの立ち振る舞いをコピーして、堂々と正面扉の方へ歩いていく。


――ピピ!


「え?」


 地面から謎の音が聞こえたと思ったら――足元が爆発した。


「なに!!?」


 想定外の一撃。

 爆風で体が大きく吹っ飛ぶ。そして飛ばされた先の地面でもまた、ピピ! と音が鳴った。


「!!?」


 さらに爆発が巻き起こる。


「これは、まずいっ!!」


 二連続で爆撃を受けた千面道化はその場に膝をつく。

 全身に火傷を負い、片目は焼け落ち、右足は激しく損傷している。


「終わりだ。千面道化」


 研究所の天井の上に、ジョシュアは立っている。


「この地雷は、フラムちゃんが錬成したのかな?」

「優秀だろ? ウチの生徒は」


 ジョシュアは銃を千面道化に向ける。


「クク……絶体絶命だ。凄い、凄いよ。僕がここまで成す術なく追い込まれるなんてね……!」

「これで、とどめだよ」


 ジョシュアは弾丸を発射する。

 千面道化は左足で地面を蹴り、小さく跳躍した。弾丸が外れる。


「無駄な足掻きだ」

「いいや、有意義な足掻きだよ」


 千面道化は右手で地面を触る。すると、ピピ! と地面から音がした。


「自分から……!?」


 地雷が爆発し、千面道化は爆風によって吹き飛ばされる。

 千面道化が吹き飛ばされた先は――


「まさか!?」


 保管棟。

 ジョシュアは千面道化の狙いを察する。


(狙いは、保管棟にあるホムンクルス素体か!)


 千面道化は保管棟に突っ込む。

 ジョシュアはすぐさま後を追い、保管棟に入るが――もう千面道化の姿はなかった。

 保管棟の培養カプセルの1つが割られ、中に居たはずのホムンクルス素体が行方不明。

 壁には逃走経路として使われたと思われる穴が空いている。


「完全に俺のポカだ! アイツらがやばい!」



 ---



 マントを羽織った2つの人影が研究所の地下にある通路を走っていた。

 コノハがいざという時のため、以前から用意していた緊急避難経路だ。しかし、その存在はラビィも知っている。ラビィも知っているということは、ラビィの記憶を抽出した千面道化にもこの経路の情報は伝わっているということ。


「見つけた」


 マントの2人の後ろを、裸の女性が追いかける。

 ホムンクルスの素体を奪った千面道化だ。

 千面道化が2人に近づくと、片方が振り返り、千面道化に殴り掛かった。


「片方は君か」


 両腕義手の男、アランはフードを脱ぐ。


「よくここがわかったね」

「あのメイドさんの記憶を奪って知っていたからね。いざという時はここを使うと」


 2人は握り拳を作り、突き出す。衝突する両者の拳。鋼の拳と融合体の拳は衝突すると甲高い音を響かせた。


「ここから先には行かせないよ」


 凄まじい格闘戦が繰り広げられる。

 アランは両拳のラッシュを繰り返し、千面道化がそれを避ける。が、千面道化は徐々に体勢を崩し、追い詰められていく。


「慣れない体に苦戦しているようだね!」


 アランは千面道化の腹に右拳をクリーンヒットさせる。


「ごふっ!」 


 千面道化は拳を喰らいながらも、アランの眼前に自身の握り拳を置いた。


「悪いね。君に割く時間はないんだ」


 千面道化は合わせていた拳を開き、手の中にしまい込んでいた物体を晒す。

 筒状の鉄塊。アランはすぐにその物体の正体を察知する。


「閃光筒!?」


 アランは咄嗟に目を閉じる。筒が弾け、強烈な閃光が舞い散る。

 次にアランが瞼を開いた時には千面道化の姿は無かった。


「ちっ!!」


 千面道化はアランを置き去りにし、もう1人の逃走者を追う。


「?」


 追いかけながら、千面道化は違和感を覚えた。

 ファウスト卿から聞いていた話では、ヴィヴィは運動能力に難ありだったはず。

 にもかかわらず、目の前の少女は中々の高スピードで走っている。


「……まさか。身長も体格も一致しているはず」


 千面道化は少女を捕まえ、仰向けに倒す。


「きゃっ!?」


 千面道化は少女に馬乗りになって、フードを捲った。


「お前……」


 二色髪。しかし、その顔つきはヴィヴィとは違った。千面道化は少女が被っていたカツラも剥がす。

 金髪の少女……比較的ヴィヴィと体格の近いルチアがそこに居た。


「姫様じゃない。なぜだ……お前は姫様よりも背が低かったはず!」

「あ・げ・ぞ・こ! こんぐらい、今時のレディなら普通にするわよ」


 べっ。と舌を出すルチア。


「……うぜぇな君。クソ雑魚の分際で」


 千面道化は笑顔のまま、ルチアの首を締め出す。


「ぐっ……は!?」

「天晴れ天晴れ。君達が囮になって、姫様は普通に森から逃がしたわけだ。もしくは研究所に隠れたままかな? 君の勇気に乾杯! お礼に苦しめて殺してあげるよ……」

「は、あっ……!?」


 ルチアの口角に泡が溜まる。その時、アランの鋼拳が千面道化の頬を殴り飛ばした。


「ルチア! 平気か!?」


 千面道化は舌打ちし、地下道を走って逃げだした。


「……これで、少しは役に立ったかしらね……」

「うん。どうやら僕は、君のことを少し誤解していたみたいだ。君は立派な人間だよ。ルチアさん」


 ルチアは微笑むと、そのまま気を失った。



 ---



 地下道から脱出した千面道化は四季森を走る。


「認める……認めるよ。僕が甘かった。教師から生徒に至るまで、これほど粒揃いだとはね……!」


 ジョシュアとコノハの戦闘力については頭にあった。

 しかし彼ら……イロハを始めとする生徒たち。彼らの能力が千面道化にとって誤算だった。

 特にイロハとフラムだ。自身の融合を一瞬で見破れるイロハ、そして弱点とも言える爆弾を容易に作れるフラム。彼らの存在が千面道化の行動にかなりの制限をかけている。


 そこにコノハのホムンクルスによる人海戦術が絡まると非常に厄介。アランは両腕が義肢のため、腕を掴んでも融合錬成をすることができないという軽い天敵。接近戦を仕掛けてこないジョシュアも難敵だ。


 時間をかければかけるほど、やれることは少なくなると千面道化は考える。しかし慎重に動かなければイロハに発見される。攻め込んでいるはずなのに、逆に袋小路に追い込まれつつある現状。


 とてつもないスリルの中、千面道化は笑う。


「ククク……見事なまでに天敵ばかりだ。楽しいねぇ」


 悦楽に歪む表情は、まさに悪魔のようだった。


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