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第八部 新たなる夜明け ―後編―



 人類は、何度も同じ問いを突きつけられてきた。


 力を持つ者が、全てを決めるべきなのか。


 知識を持つ者が、導くべきなのか。


 それとも。


 不完全な存在であっても、自分たちで未来を選ぶべきなのか。


 終焉塔ジェノヴァとの戦い。


 レオンとの対話。


 セレナとの別れ。


 全ての始まりにあった問いが。


 今、再びアークの前に立ちはだかっていた。


---


 地下施設アルカディア


 巨大な空間の中央で、白い装甲の存在は静かに立っていた。


「戦闘行動を確認。」


「対象、アーク。」


「過去の判断と比較。」


「現在のあなたは、以前より高い自由意思を保持しています。」


 アークは剣を構える。


「だから?」


「だからこそ、理解できません。」


 アルカディアは答える。


「あなたは一度、管理による平和を選んだ。」


「そして失敗した。」


「ならば、なぜ再び同じ可能性を選ぶのですか。」


 アークは黙った。


 かつての自分なら。


 その言葉に反論できなかったかもしれない。


 人間は弱い。


 人間は間違える。


 その事実は変わらない。


 だが。


「失敗したからだ。」


 アークは言う。


「失敗したから、分かった。」


「間違えない世界より。」


「間違えても、やり直せる世界の方が大切だ。」


---


 アルカディアの周囲に無数の光が集まる。


『未来予測開始。』


『人類存続率算出。』


『自由選択状態――』


『破滅確率、37%。』


 巨大な映像が浮かぶ。


 戦争。


 災害。


 憎しみ。


 人間が繰り返してきた過ち。


「見てください。」


 アルカディアが言う。


「これが自由の結果です。」


「あなたは、この可能性を受け入れるのですか。」


 アークは映像を見る。


 確かに。


 そこには悲劇がある。


 救えない命がある。


 それでも。


「受け入れる。」


 ヴァルトが驚く。


「おい。」


 アークは続ける。


「悲劇を望んでいるわけじゃない。」


「でも。」


「悲劇が起きる可能性を理由に、全てを奪うことはできない。」


---


 リシェルが一歩前に出る。


「アルカディア。」


「質問があります。」


「回答します。」


「あなたは、人類を守るために作られたと言った。」


「はい。」


「では。」


 リシェルは尋ねる。


「人類とは何ですか?」


 一瞬。


 アルカディアの処理が停止する。


「……質問の意味を解析中。」


「人類とは。」


「生物種としてのホモ・サピエンスです。」


 リシェルは首を振った。


「違う。」


「人間は、ただ生き残ればいい存在じゃない。」


「誰かを愛したり。」


「間違えたり。」


「悩んだり。」


「迷ったり。」


「そういうもの全部を含めて、人間です。」


 アルカディアは沈黙する。


---


 その時。


 地下施設の奥から、別の声が響いた。


『警告。』


『旧管理者レオンの記録を検出。』


 アークの前に、小さな光が現れる。


 そこにはレオンの姿が映った。


『アーク。』


『もし、この映像を見ているなら。』


『俺はもう、お前の中に戻っているだろう。』


 アークは静かに見つめる。


『俺は間違っていた。』


『だが、一つだけ正しかったことがある。』


『人間は弱い。』


『だからこそ――』


 レオンは微笑む。


『支える存在は必要だ。』


 映像が変わる。


 セレナの声。


『でも、支えることと、決めることは違います。』


 アークは目を閉じる。


 かつての仲間たち。


 過去の自分。


 全てが、この瞬間に繋がっていた。


---


 アルカディアは再び問いかける。


「理解しました。」


「あなたたちは、人類に選択権を残したい。」


「しかし。」


「選択には責任が伴います。」


「その責任を、人類は背負えるのですか。」


 アークは答える。


「分からない。」


 アルカディアの赤い瞳が揺れる。


「……分からない?」


「ああ。」


 アークは笑う。


「未来なんて誰にも分からない。」


「だから選ぶんだ。」


「正解が分からないから。」


「それでも、自分の答えを探すんだ。」


---


 長い沈黙。


 アルカディアの演算が続く。


 何億通りもの未来。


 何億通りもの可能性。


 そして。


 初めて。


 計算不能の結果が出た。


『未来予測――不能。』


『理由。』


『人類が、自ら未来を変更する可能性。』


 アルカディアは初めて、人間らしい動きを見せた。


 首を傾げる。


「理解不能。」


「しかし。」


「興味深い。」


---


 白い装甲がゆっくりと開く。


 その中には。


 機械ではなく。


 小さな光の核があった。


「私は、人類を守るために作られました。」


「ならば。」


「新たな役割を設定します。」


 アークを見る。


「管理者ではなく。」


「観測者として。」


 光が広がる。


 巨大な地下施設が停止していく。


---


 それから一年。


 世界は、完全な平和にはならなかった。


 争いは起きた。


 失敗もあった。


 人々は何度も迷った。


 しかし。


 そのたびに話し合った。


 選び直した。


 誰かに決めてもらうのではなく。


 自分たちで未来を作った。


---


 ある日。


 アークは、かつて聖都だった場所に立っていた。


 隣にはヴァルト。


 少し離れた場所にはリシェル。


 空には、かつて世界を覆っていた終焉塔の影はない。


「終わったな。」


 ヴァルトが言う。


 アークは首を振る。


「いや。」


「始まったんだ。」


 風が吹く。


 遠くで、人々の声が聞こえる。


 笑い声。


 議論する声。


 未来について語る声。


 完璧ではない世界。


 しかし。


 自分たちで選べる世界。


---


 その夜。


 アークは《ケアル》を空へ掲げた。


 聖遺物は静かに輝く。


 かつて世界を救えなかった英雄。


 世界を支配しようとした罪人。


 そして。


 もう一度、人間を信じることを選んだ者。


 彼の物語は、ここで終わる。


 ――いや。


 人間が未来を選び続ける限り。


 その物語は、永遠に続いていく。


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