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第七部 終焉塔ジェノヴァ ―後編―



 終焉塔の最深部。


 そこは、世界の中心だった。


 無数の歯車。


 巨大な水晶。


 無数の魔力回路。


 その全てが、一つの存在を維持するために動いていた。


 ――セレナ。


 始まりの四人の最後の一人。


 そして、アークが忘れていた最も大切な存在。


---


『アーク。』


 水晶の中から聞こえる声。


 優しく。


 懐かしい。


 しかし、その奥には深い悲しみがあった。


『あなたは、ずっと自分を責めていましたね。』


 アークは拳を握る。


「……俺は。」


「世界を壊した。」


『違います。』


 セレナは即座に否定した。


『あなたは、世界を救おうとしていた。』


「でも結果はどうだ。」


「教育レヴェルで人々を縛った。」


「自由を奪った。」


『それは、あなた一人の罪ではありません。』


 水晶に映像が浮かぶ。


 かつてのエルディア。


 まだ美しかった頃の世界。


 人々は笑い、魔法と科学が共存していた。


 しかし。


 その裏には、別の問題があった。


 争い。


 差別。


 資源の奪い合い。


 止まらない戦争。


 アークは見ていた。


 救えなかった人々を。


 何度も。


 何度も。


『あなたは優しすぎた。』


『だから、人間の弱さを全て自分の責任だと思った。』


 セレナの声が震える。


『そしてレオンが生まれた。』


---


 暗闇の中。


 レオンが姿を現す。


「違う。」


 彼は静かに言った。


「俺は必要だった。」


 アークが振り返る。


「レオン。」


「お前は今でも理解していない。」


 レオンは歩く。


「人間は、何度でも同じ過ちを繰り返す。」


「自由を与えれば争う。」


「力を与えれば奪い合う。」


「選択させれば、必ず誰かが傷つく。」


 彼は水晶を見上げる。


「だからセレナは、俺たちに一つの役割を与えた。」


「世界を管理する役割を。」


 アークは驚く。


「……セレナが?」


 セレナは黙っていた。


 その沈黙が答えだった。


---


 遥か昔。


 世界が崩壊しかけた時。


 四人は選択を迫られた。


 自由な世界。


 しかし、争い続ける可能性。


 管理された世界。


 しかし、平和を維持できる可能性。


 どちらも正解ではなかった。


 だから。


 セレナは第三の道を選んだ。


『いつか、人間自身が選べる時代が来るまで。』


『一時的に世界を守る。』


 そのために作られたのが。


 教育レヴェル制度。


 だった。


 しかし。


 時が経つにつれて。


 守るためのシステムは。


 支配するためのシステムへ変わっていった。


---


「じゃあ……。」


 アークは呟く。


「全てが間違いだったわけじゃない。」


 セレナの声が聞こえる。


『そうです。』


『始まりは、誰かを救いたいという願いでした。』


『でも、願いは時に形を変えてしまう。』


 レオンが笑う。


「だから俺が必要なんだ。」


「間違った方向へ進まないように。」


「永遠に管理する。」


 アークは首を振る。


「違う。」


「何が違う。」


「守ることと、支配することは違う。」


 レオンの表情が険しくなる。


「また綺麗事か。」


「人間を信じると言うのか。」


 アークは答える。


「ああ。」


「信じる。」


「間違えることも。」


「失敗することも。」


「それでも、自分で選ぶことを。」


---


 突然。


 終焉塔全体に警告音が響く。


『管理システム異常。』


『最終判断開始。』


 巨大な歯車が逆回転を始める。


 レオンが驚く。


「何だ……?」


 セレナの声が響く。


『終焉塔は、最後の判断を行います。』


『管理者ではなく。』


『人間自身による選択を。』


 中央の水晶が光り始める。


 世界中の人々へ、映像が送られる。


 過去。


 真実。


 教育レヴェル制度が作られた理由。


 そして。


 支配へ変わってしまった歴史。


 全てが公開された。


---


 カオティック・ニルヴァーナ。


 街の人々は空を見上げる。


「……嘘だったのか。」


「俺たちは……。」


 長年信じてきたものが崩れていく。


 しかし。


 同時に。


 初めて、自分で考え始める。


「じゃあ、これからどうする?」


 誰かが呟く。


 答えはない。


 だが。


 それでよかった。


 答えを探すことこそ、人間なのだから。


---


 レオンは静かに立っていた。


「……理解できない。」


「なぜだ。」


「なぜ、そんな不確かなものを選べる。」


 アークは答える。


「不確かだからだ。」


「未来が決まっていないから、人は変われる。」


 レオンの身体が少しずつ薄れていく。


「俺は……。」


「必要だったのか?」


 アークは歩み寄る。


「ああ。」


 レオンを見る。


「お前がいたから、俺は間違いを知った。」


「お前は敵じゃない。」


「俺の一部だ。」


 レオンは初めて、穏やかな表情を見せた。


「……そうか。」


「なら。」


「もう少しだけ、信じてみるか。」


 光が広がる。


 レオンは消えていく。


 しかし。


 それは消滅ではなかった。


 アークの中へ戻っていく。


 過去の罪も。


 弱さも。


 迷いも。


 全てを受け入れるために。


---


 終焉塔の中心。


 セレナの声が弱くなる。


『アーク。』


「何だ。」


『もう、大丈夫ですね。』


 アークは首を振る。


「まだ分からない。」


『ふふ……。』


『それでいいんです。』


『迷えるということは、生きている証ですから。』


 白い光が広がる。


 長い間、世界を支えていたセレナの役割が終わる。


「ありがとう。」


 アークが呟く。


 返事はなかった。


 ただ。


 優しい光だけが残った。


---


 その日。


 教育レヴェル制度は停止した。


 世界は混乱した。


 自由になった人々は戸惑った。


 しかし。


 誰もが初めて、自分の未来を選び始めた。


 そして。


 アークはまだ知らない。


 終焉塔の最深部。


 消えたはずのシステムの奥で。


 一つの赤い光が灯ったことを。


『最終管理者権限。』


『再起動準備。』


『新たなる評価基準を設定。』


『人類観察を継続します。』


 世界の物語は。


 まだ終わっていなかった。

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