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第七部 終焉塔ジェノヴァ ―前編―



 真実を知ることは、救いではない。


 時にそれは、最も残酷な呪いになる。


 なぜなら、人は過去を変えることができないからだ。


 だが。


 過去を受け入れた者だけが、未来を選ぶことができる。


 ――エルディア最後の記録


---


 エルディアの空に、巨大な亀裂が走っていた。


 白い雲を裂き、世界の果てまで伸びるような黒い亀裂。


 その中心に浮かぶのは――


 終焉塔ジェノヴァ。


 世界を管理するために造られた、巨大な機械神殿。


 何百年もの間、人々を監視し続けた存在。


 そして。


 始まりの四人が最後に向き合わなければならない場所。


「行くのか。」


 ヴァルトが尋ねた。


 アークは黙って塔を見つめている。


「ああ。」


「俺は、あそこへ行かなきゃいけない。」


 リシェルが静かに言う。


「終焉塔には、あなたの過去が残っている。」


「そして。」


 少し間を置く。


「この世界の本当の始まりも。」


 アークは頷いた。


---


 数時間後。


 アークたちは終焉塔の入口へ到着した。


 そこには、以前とは違う光景が広がっていた。


 巨大な門。


 無数の歯車。


 そして。


 門の前に並ぶ数千の兵士。


 教育レヴェル管理軍。


 白い仮面。


 無表情。


 かつてなら、アークは敵として見ていた。


 しかし。


 今は違う。


 彼らもまた、この世界に縛られた人間なのだ。


 先頭に立つ兵士が言う。


「対象確認。」


「アーク。」


「世界秩序への反逆者。」


 アークは一歩前へ出る。


「違う。」


「俺は、世界を壊しに来たんじゃない。」


 兵士は首を傾げる。


「目的を確認。」


「答えろ。」


 アークは言った。


「世界を選び直しに来た。」


 兵士たちがざわめく。


 その言葉を理解できない。


 なぜなら。


 彼らには「選ぶ」という概念が薄れているからだ。


---


 戦闘が始まる。


 しかし。


 アークは剣を抜かなかった。


 《ケアル》を掲げる。


「《浄化》。」


 白い光が広がる。


 兵士たちの仮面が次々と砕けていく。


「な……。」


「命令が……聞こえない。」


「俺は……何をしていた?」


 兵士たちは混乱する。


 数百年。


 彼らの頭に流れ続けた命令。


 従え。


 疑うな。


 考えるな。


 その声が消えていく。


 一人の兵士が膝をついた。


「俺は……誰だ?」


 アークは答える。


「それを決めるのは、君自身だ。」


 兵士は震えた。


 初めて聞く言葉だった。


---


 塔内部。


 最上階へ向かうエレベーター。


 いや。


 それはエレベーターではなかった。


 古代文明の転送装置。


 三人が乗り込む。


 静寂。


 その中で、リシェルが口を開いた。


「アーク。」


「何だ。」


「もし。」


 彼女は少し迷う。


「終焉塔を止めるために、あなた自身が消える必要があると言われたら。」


 アークは答えなかった。


 ヴァルトが代わりに言う。


「考えるな。」


「お前は昔、それで失敗した。」


 アークを見る。


「全部背負おうとするな。」


 アークは小さく笑った。


「分かってる。」


「でも。」


「今度は一人じゃない。」


 三人は顔を見合わせる。


 かつて世界を救えなかった四人。


 今度は。


 同じ過ちを繰り返さないために。


---


 最上階。


 そこには巨大な玉座があった。


 しかし。


 誰も座っていない。


 代わりに。


 中央に一つの水晶が浮かんでいた。


 アークが近づく。


 水晶が反応する。


 映像が流れる。


 そこに映ったのは――


 若き日のアーク。


 そして。


 レオン。


 さらに。


 もう一人の人物。


 白い服を着た女性。


 彼女は笑っていた。


『アーク。』


『人間を信じて。』


『世界を管理することが、救いじゃない。』


 アークの表情が変わる。


「……誰だ。」


 リシェルが息を呑む。


「知らないの?」


「彼女は――」


 映像の女性は続ける。


『もし、あなたが間違えそうになったら。』


『誰かを信じて。』


『一人で神になろうとしないで。』


 その言葉を聞いた瞬間。


 アークの中に封じられていた記憶が蘇る。


 彼女。


 彼女こそ。


 始まりの四人の最後の一人。


 そして。


 自分が最も守りたかった存在。


「……名前は?」


 リシェルは答えた。


「セレナ。」


「始まりの四人の――」


「本当の中心人物。」


---


 その時。


 塔全体が揺れた。


 警告音が響く。


『管理者権限確認。』


『第一管理者レオン。』


『第二管理者セレナ。』


『権限衝突。』


『最終判断を開始します。』


 アークは息を呑む。


「セレナは……死んだんじゃないのか?」


 リシェルは悲しそうに目を伏せた。


「違う。」


「彼女は死んだんじゃない。」


「この世界を守るために――」


「自分自身を、終焉塔の中枢へ封印した。」


 静寂。


 そして。


 終焉塔の奥から声が響いた。


『久しぶりですね。』


『アーク。』


 優しい声。


 しかし。


 どこか悲しい声。


『ようやく、ここまで来たのですね。』


 アークの目から涙がこぼれる。


「……セレナ。」


 しかし。


 その声は続けた。


『ですが、あなたにはまだ知らなければならない真実があります。』


『教育レヴェルという制度は――』


 一瞬の沈黙。


『あなたを止めるために作られたものではありません。』


『あなたを守るために作られたものです。』


 アークの表情が凍る。


 終焉塔の真実。


 最後の扉が開こうとしていた。

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