ゼウスの再臨と黒い獣
ここは列島中央部の山脈、その中で僕達はとある作業を行なっていた。
「さーて、まずは材料の確保をする班と修理班に別れようか」
「分かりました」
そうして修理班になった僕は百合さんや天兵と共にゼウスの修理を始めた。
「えーっと、まずこの穴をどうにかしないとな……」
僕の目の前には機首下部に空いていた巨大な穴。
「おそらく砲弾、もしくは弾丸が貫通した跡でしょう。それを取り除いてからですね」
そうして僕はその穴の中に腕を突っ込んだ。
(反対側に貫通したような穴はなかった。つまりここの奥にきっと……)
突き破られた鉄の歪な跡が少しずつ腕を削っていく。
「……あった!」
その瞬間、僕の指先が謎の物体に触れた。そしてそれを刺激しないようにそっと引き抜く。
「って、マジかよおい……」
僕の引き抜いた物体。それはなんと手に収まりきらないほどのミサイルだ。
「ヨウタ、これはどこに……って。おいおいマジかよ……」
「て、天兵。どうしよう……これ……」
もし下手に刺激を与えれば一発でドカン。僕達は粉微塵に吹き飛ぶ。
「……じゃんけんで捨てよう」「そうしよう」
そして実に久々のじゃんけん大会だ。
「最初はグー……」「ジャン、ケン!」
「パー!」「チョキ!」
「クッソ負けたぁ!」「よっしゃ勝ったぁ!」
そうして僕がミサイルを捨てることになった。
(クソがぁ……)
僕は恐る恐る森の奥へ向かい、ミサイルを振りかぶった。
「爆発すんなよぉ!」
そして思いっきり茂みに向かって投げた! その次の瞬間、赤い爆炎と共に轟音が鳴り響いた。
―ドォォォォォォォン!!―
煙が晴れた後、僕達はなんとか無傷だった。
「ふぅ……」「危なかったな」
そうして作業に戻った。
◆◇◆◇
「よし、ある程度良しかな……」「後は資材班が鉄板と銅線を持ってきてくれれば……」
その時、龍樹さん達が戻ってきた。その手には巨大な鉄板と銅板が握られている。
「あ! お帰りなさ……い……?」
僕はそれに気づいて振り返るとその目に信じられないものが飛び込んできた。
「よぉ……必要そうなやつ持ってきたぜ……」
龍樹さんのその体は火傷の痕と煤で覆われていたのだ。
「た、龍樹さん⁈ どうされたんですかそのお怪我!」
僕の脳内であらゆる可能性が渦巻く。
(敵襲? まさか奴らの罠? いや、もしかしたら未知の生物が……)
戦前とは似ても似つかぬこの世界はいつ何が起ころうとも不思議ではない。
「いや、なんか材料探してたらな……」
そうして龍樹さんが語り始める。
◆◇◆◇
一時間くらい前に茂みの中から鉄板を見つけてよ。
「お、ちょうどいい感じだな」
そうして持ち帰ろうとしたら……。
ーヒュゥゥゥゥゥ……ー
「なんだぁ?」
変な音がして振り返ると空中のでかいミサイルが俺めがけて落ちてくるんだよ。
「……うっそだろおい!」
さっきまで雲一つねぇ綺麗で平和な青空だったのに急に平和の対義語みてぇな物が降ってくるからそりゃ驚いたさ。
「クソがぁぁぁぁあ!」
逃げようと思ったがとても無理だ。でもせめてって思ってよ、思いっきり前に飛んだんだ!
次の瞬間、空が真っ赤に染まった。
「ぐぅぅぅぅぅぅぅ!」
何とか軽減できたが腐ってもミサイルだ。結果、こんな傷だらけになっちまった。
◆◇◆◇
「なんであそこでミサイルなんか降ってきたのかは知らんが、マジで肝が冷えたぜ……」
そう語る龍樹さんの正面で、僕たちは滝のように冷や汗をかきながら同じことを考えていた。
((あのミサイルじゃねぇかぁ……))
そう、先ほどの話の犯人は自分たちだと理解したのである。
「ソレハサイナンダッタナ」「まぁ、龍樹君ならば大丈夫でしょう」「たまには空からミサイルも降ってくるんじゃない? 知らないけれど……」
皆がそう言っている中、僕たちは小声で一つのことに合意した。
「「この秘密、墓まで持ってこう……」」
かくしてこの件の犯人は分からずじまいとなった。
◆◇◆◇
「ココトココヲツナギ、最後ニ塞イダラ……完成ダ」
それから三時間ほど経ち、ゼウスの修理が完了した。
「早いとこ行こうぜ、なんだか危ない気配があるしな」
龍樹さんはそう言って鬱蒼と茂る森の中を見つめた。確かに日も傾き、どんな化け物がいても不思議じゃない雰囲気だ。長居するのは得策とは言えない。
幸いエネルギーは片道分残っていたため、操縦は隊長に任せて僕たちはゼウスに乗り込んだ。
「うわぁ……」
ゼウスの中に乗り込み、僕は感嘆の声を漏らす。
中は少し汚れているものの適度な広さがあり、小さなころに夢見たであろう景色があるようなワクワクに包まれる。
「圧巻だな……」
普段は無表情な天兵すらもその瞳の奥にある高ぶりを隠せてはいない。
「うっひょぉぉぉぉお! さいっこう!」
暗愚も中で飛び跳ねている。
「全員座ッタカ? 行クゾ」
そして隊長が操縦席に座り、スイッチを押した。その瞬間、両翼の先端にあった物体がゆっくりと向きを変える。そしてそれの下部からなんとアフターバーナーが出てきたのだ!
「えぇ⁈」「嘘……」「カッコ良すぎるだろおい……」
形としては戦前のオスプレイに似ているのだろう……しかしプロペラよりもずっと力強い音を立てて船体が宙に浮いた。
(こんなものが使われていたのか……)
そして十分な高度に達した瞬間、船体が前進を始めた。始めはゆっくりだったがそのまま加速して翼のバーナーも後ろ向きになっていた。
「うわっはっはっはっは! 楽しいぃ!」
その巨体からは考えられないほどの出力と速度で進むゼウスに鼓動の高鳴りを抑えられない。
「ふふ、はしゃいじゃって……」
フライトも安定していた時、美麗は静かに窓から森を眺めていた。しかしその瞬間、その双眸が異質なものを捉えた。
(何……あれ……)
それは森の木々を薙ぎ倒しながら高速で進む黒い影。
(熊とも……狼とも違う。もっと人に近い……)
美麗がその影を見失わないように注視する。すると森が少し途切れた場所でその全貌が明らかになる。
「ガウッ……グルルルル……」
それは熊程の巨大な体躯に狼のような爪と牙を持った怪物だった。
(あれは……一体……)
美麗は改造人間でもなければ特段実戦経験を積んだわけでもない。だがそれでも、彼女はその異質さと脅威を鮮明に感じ取ったのだ。
(……戻ったら報告しないとね)
美麗はその場で騒ごうとはしなかった。彼女は理解していたのだ、ここで無理に進路を変えればゼウスを失う危険性があることを……そして、全滅の危険があることを……。
そしてこの黒い獣が僕らの新たな障壁となる。
さて、いかがでしたでしょうか?
今回は日常&ギャグパート、ほんの少しシリアスを加えました。最近様々な方の小説や作品に出逢いますがそのどれもに届きそうもなく戦慄しております……。
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