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妖狐のハンコウキ  作者: 烏丸 和臣
第二章 神鳴衆
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秘密兵器

 ここは列島中央部の山脈、そこにある第三秘密通信基地の中は今、想像を絶するほど重い空気が充満していた。


「ようやく見つけたぞ……クソ野郎ぉ……」


 まるで肺を内側から貫くような殺気を放っているのは……お頭。


「大丸殿、落ち着いてくだされ。ログがあるからといってここに奴がいるわけでもあるまい……」


 そう言ってお頭を宥めたのはあの老人。しかしお頭が返したのは氷のように冷たく、ナイフのように鋭い殺気。


「お頭……お気持ちは理解いたしますが、どうか落ち着きください」


 それに百合さんも加わった。そうして少しの沈黙が流れた後、その空気が軽くなる。


「……すまないな、少し冷静さを欠いていた。プロテはここでデータの解析を引き続き頼む。他の皆は近くにある未確認物体の調査に向かってくれ」


『はい!』


 そうして護衛に必要な人数を残して3つの小隊に分かれた。


「行きましょう」


 僕、龍樹さん、百合さん、桐崎隊長、暗愚アンク、天兵、そして美麗と小隊を組んで出発した。


 ◆◇◆◇


 山道を移動している時、暗愚が僕の肩を組んでくる。

 そして小声で話してきた。


「なぁなぁ、あのすっげぇ綺麗なお姉さん誰よ! お前知り合い⁈」


 どうやら美麗に一目惚れしたらしい(勿論、元半グレでありキャバクラのオーナーであったことは知らない)。


「まぁ連れてきたのは確かに僕たちだけど……どうしたんだ?」


「いやお前さ、あんだけ綺麗な人だぜ⁈ 大人っぽい雰囲気で、歩き方も綺麗だしさぁ……何も思わねぇ方が難しいって!」


「んー……そうか?」

(俺チャカ向けられてから微塵もそんなこと思わないんだけど……)


「いや絶対そうだって!」


 なんだかずっと緊張していた影響もあるのか、この平和な瞬間に違和感を感じ得ない。


「あらぁ、一体何のお話をしてるのかしらぁ?」


 その時、後ろから美麗が音もなく近づいてきた。


「び、びび、びびびびびっ美麗さん⁈ い、いや何の話っってて。そんな、大した話じゃなな。無いっすよ!」


(すげぇ、面白いくらいテンパってやがる)

 もはや挙動不審どころでは無い。わざとなのかと疑うほどに暗愚の目は泳ぎ、冷や汗をかいていた。


「ふふ、そうなのぉ? お姉さんには教えてくれないんだぁ?」


 美麗は妖艶な笑みを浮かべて暗愚を揶揄う。


「あわわわわわ。そ、そんなぁ……」


「ふふ、可愛いコ……」


 そして、美麗は微笑みながら先に行ってしまった。


「あ……あぁ……」


 暗愚の表情がどんどん暗くなっていく。


「……大丈夫か?」


「オレ、キラワレタ?」


「うーん……分かんね」


「わぁぁぁぁぁぁ……」


 ◆◇◆◇


 そうして歩いていると太陽が高くのぼり、昼を知らせていた。


「もうそろそろお昼ですね。休憩いたしましょうか」


「はい」


 そして薪を集め、火を起こす準備をしていた。


「さてと、あとは食材だけど……あれ? 龍樹さんは?」


 辺りを見回すとさっきまでいたはずの龍樹さんがいない。


「ションベンにでも行ったんじゃねぇの?」


 暗愚が気にもせず立ちあがろうとした瞬間、


 ―ドォォォォォォォン!!―


 空気そのものが波打ったかのような衝撃が周囲を揺らした。


「なっ⁈」「おっと……」


 アンクは見事にひっくり返り、僕も立っていられなくなる。


(なんなんだ今の……)

 僕は警戒しながらも衝撃音の聞こえた方に歩みを進める。

 すると茂みの奥から激しい衝突音が聞こえる。


「なんだ⁈」


 そして茂みの奥を覗いた瞬間、衝撃の光景が飛び込んでくる!


「残ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」


「グォォォォォォォォォォォオ!!」

 なんとそこで……上裸の龍樹さんが2mはありそうなヒグマと相撲をとっていたのだ!


(……は?)

 僕はその瞬間、頭の中が真っ白になり思考を放棄した。


「頑張れー」「残ッタ残ッタ」「相撲なんて久しぶりに見ました」「やっちまえぇえ!」


 よく見ると隊長が行司を行い、百合さん、天兵、美麗が楽しそうに観戦している。


「おーいヨウタ、何やってんだ? ってなんだこりゃぁぁぁぁぁぁぁあ⁈」


 すると暗愚が遅れてやってきて顎が外れるほど驚愕している。


(確かに熊と相撲を取るとは言ってたけど……ガチだとは思わねぇだろうよ……)

 僕はもう半分諦めたように溜息をつくと試合が動き出す!


「グォォォオ……ォォォォォオ!!」

 なんと熊が一歩踏み出し、力の均衡を崩した! そのまま爪を龍樹さんの背中にめり込ませながら押していく!


「ふぬぬぬぬぬっ!」

 土俵際ギリギリ、龍樹さんは全身の筋肉を隆起させて踏み止まった。

 その瞬間、龍樹さんの全身からまるで噴火したようにエーテルが噴き出す!


「號ぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!」

 そして熊を豪快に持ち上げた!


「どっせぇぇぇぇぇぇえい!!」

 そのまま熊を土俵に背中から叩きつける! その威力はまさに規格外。二メートルを超える熊、体重はおそらく600㎏は超えるであろうその巨体に龍樹さんは完勝したのだ。


(マジかよ……)

 僕達はただただ呆気に取られるしかない。

 すると熊が茂みの奥から大量の川魚と木の実を引きずってきた。

 どうやら昼食の材料をかけた相撲だったらしい。今まで力で負けたことがないのだろう、熊はしょんぼりしながら龍樹さんに食糧を明け渡した。


「サーンキュ! 皆、運ぶの手伝ってくれ」


 そのまま火を囲んで昼食だ。川魚は内臓を取り出して串に刺し、塩を振って塩焼きに。

 木の実は甘いものは水で濯ぎ、他のものは炊いて柔らかくした。


『いただきまーす!』


 その食事は本当に美味しく、五臓六腑に染み渡る。川魚の脂と塩味が味覚を通して神経を駆け巡り、木の実独特の食感と複雑な味がクセになる。


「旨え!」「美味しいですね」「魚もう一本もーらい!」「暗愚テメェそれ美麗の分だぞ!」「えぇぇえ⁈」「取られたぁ……」「ヤッタナ暗愚……」「ちょっ、まっ、えぇ……」


 そうして食事を終えた僕たちは反応のあった未確認物体の元へ向かった。


 ◆◇◆◇


「反応があったのはここら辺ですね……」


 茂みを掻き分けて進むと少し開けた場所に出る。


「……え?」


 次の瞬間、僕の目に衝撃のものが飛び込んでくる。


「なんだ? これは……」


 それは飛行機のような鉄の塊。しかしそれには巨大な穴が空き、苔や蔦が無機質な表面を彩っていた。


「ナルホド、ココニアッタノカ」


 すると桐崎隊長がその物体に近づいた。


「なんなのですか? これは」


 百合さんがそう聞くと隊長は振り向かずに答えた。


「コレハ特別攻撃型最新鋭輸送機、通称「ゼウス」。我ラ神鳴衆ガ使用シテイタ飛行機ダ」


 そして静かにそう告げた。


「ゼウス……」


 神鳴衆の100人、その足になったのだと考えると少し目の前の鉄塊が輝いているように見えた。


「こんな場所に不時着してたんですねぇ」


 暗愚が近づいて割れた窓から中の様子を覗く。


「これ上手く直せればまた飛べるんじゃないんすか?」


「ヤッテミル価値ハ十分ニアル」


「よっしゃ! やってやろうぜ!」


 そして隊長指揮の元、ゼウスの修理が始まった。

さて、いかがでしたでしょうか?

今回は秘密兵器、そうゼウスこそがその秘密兵器です。今までヨウタ達には歩きとワイヤーで移動してもらいましたが……このまま行くと伊能忠敬よりも歩くことになりそうなのもあって登場させました。

これからまた飛行機の勉強しておかないと……。

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