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妖狐のハンコウキ  作者: 烏丸 和臣
第二章 神鳴衆
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出立

 ここは闇医者、後藤さんの病院。その一室だ。


「全く、傷塞がったって嘘じゃん……」


 ベッドの上にはシオンが横たわっている。実はあの後、花火も灯籠も全て終わった後帰ろうとしたらシオンの傷口から血が流れ出したのだ。

 どうやら治っていたのはほんの少しらしく、それ以降は腹筋に力を込めて耐えていたらしい。

 でもそれも長く続かず……結局治療を受けてここで寝ているのだ。


「シオン、大丈夫か?」


 そう言いながらお頭が病室に入ってくる。


「はい……なんとか……」


 そうしてシオンが少し起き上がる。すると他のみんなも入って来た。


「皆さんも、どうしたんですか?」


「全員揃って話をしておきたくてな。聞いてくれ」


 そうして部屋に集まった全員がお頭に注目する。


「前々から決めていたんだがな……今日から準備出来次第、街を出る! そして本格的に研究所の捜索と破壊に動く!」


 そしてそんな事を言ったのだ。


「……」「遂に……」「いよいよですか……」「おいおい……」「街の外に……」


 全員がその事に驚く。しかし、みんななんとなく分かっていた。僕達の本来の目的は研究所の破壊、そのために戦力を集めていたが……もう十分だ。

 そして何より、奴らも動き出している……マムシやマングース、能力を持った戦闘者が次々と現れ、僕達に牙を向いている。


「故に、この街の統治や旅に出るための支度、魔素苦マスクの特訓など様々な事を終え次第……この街を出る! 良いな!」


 お頭がいつも以上の気迫で僕達に覚悟を問う。


「行きましょう……奴らを根絶やしにする!」


『おぉ!!』


 それから僕達は手分けして準備を進めていった。


 ◆◇◆◇


 お頭と百合さんは久世代表、沢田さん、そして新たに佐々木組の組長となった梶野組長と共に話し合い、妖狐衆の解散とその後の処理を任せた。


「難しいですが、やりましょう」「私達に任せてください」「決して誰も不幸にしません!」


「ありがとうございます……皆さん」


 シマの方々にも僕達がいなくなる事、その後を近隣の組織が引き継ぐ事を伝えた。


 ◆◇◆◇


「弾丸届きました!」「こっちに乗せましょう……」


 リンさんと龍樹さんは旅の支度だ。お頭の話では街を出た後、速やかに神鳴衆かみなりしゅうと合流し、研究所の捜索……だが、あまり物資の補給は期待できないそうだ。

 僕やリンさんは銭湯でどうしても弾丸を消耗する。他にも大戦の影響で手付かずとなった都市も多いため万一のことを考えて支度は万全にしているのだ。


「運搬は青山達がしてくれるけど……色々と考えてやらないとな……」


 ◆◇◆◇


 同じ頃、俺とシオンは組み手をしていた。


「ハァァァァァア!!」


「よっしゃぁぁぁあ!!」

 別にサボってる訳じゃない。俺たちにとってはこっちが最優先事項だ。

 俺がこの街に来てから早4、5ヶ月。鍛錬は1日も欠かさず行い、猛者との戦闘も相まって脅威的な速さで成長していた。

 シオンも烏との戦闘で重心取りと能力の新たな極地に辿り着き、確実に成長している。


(でも、足りない……)

 そう、足りないのだ。研究所の刺客にはマングースやマムシを遥かに凌駕する程の実力者もいる。リンさんでもギリギリだったのだ、今の俺たちでは完全にお荷物。故に組み手や能力の研究で実力の底上げをしているのだ。

 同時に魔素苦マスクの奴らも特訓している。メニューはお馴染み、腕立て腹筋スクワット100回にロボの回避訓練、俺たちとの組み手だ。

 奴らと戦う必要はないにしても最低限の身体能力は必須。その監督役として俺とシオンが選ばれたのだ。


「82……83……」「がっ!」「こぺっ⁈」「ごぉ!」


 辛さは痛いほどわかるがこれを乗り越えなければ弾除けにすらならないのも事実。


「頑張れ……うおっ⁈」

 奴らを励まそうとした瞬間、シオンの小太刀が俺の喉に迫る!


「集中……死ぬよ」

 シオンはいつでも全力だ。


「分かってるよ!」

 俺も前へ飛び出す!


 そうして各自で準備を着々と進めていた。


 ◆◇◆◇


 そうしていると結局1ヶ月が過ぎてしまった。


「後継ぎ完了……支度もOK……訓練も終わったな」


 今日が……出発の日だ。


「良し、行こうか」


『はい!』


 お頭の言葉で僕達は歩き出した。

 なんだか街を歩いていると色んな思い出が蘇ってくる。


(拓郎さんのうどん……安子おばあちゃんの定食屋……深淵アビス連合のアジトでの会合に、魔素苦マスクの奴らと会った空き家、初めての戦闘……全部覚えてる……)

 不思議と心が温かくなる。そうして歩いているとあの壁が見えてくる。


「あの壁を超えて来たんだよな……なんだか懐かしい……」


「あの時うるさかった……」


 シオンが愚痴をこぼす。


「ひどいなぁ。でも、今じゃ良い思い出だ……」


 そうしていると壁の前に誰かがいる……10人くらいだろうか……。


「なんだ?」


 そうして目を細めて見ると誰なのか分かる……。


「なっ、アイツら!」


 その正体は……なんと深淵アビス連合の幹部達だったのだ!


「止まれぇぇぇぇぇい!!」


 阿久比が僕達を止めて目の前に立ち塞がる。


「何なんだよ……くだらねぇ用じゃないだろうな?」


 お頭が奴と向かい合う。瞬間に空気が鋭さを帯びる……。


「お前ら、街出るんだってな。どうするつもりだ?」


「まだ決めてないな、でもお前達に関係があることじゃない。さっさと退きな」


 そのまま押し通ろうとするお頭を阿久比が止めた。


「それなら、俺たちがいても良いよな……連れてけよ」


 突如そんな事を言い出した。


「……は?」


 お頭は突然の言葉に戸惑い、思わず聞き返す。


「俺達も付いてくって言ってんだよ」


 もう一度聞いたがやっぱり分かんない。そんなのが罷り通ると思っているのだろうか……。


「何でだ? この旅は命懸け、そこまでして付いてくるのか?」


 お頭がとびきりの圧をかける。


「俺は故郷に戻りたい」「私もね、お姉ちゃん置いて来ちゃったから」「俺は哭星会の本部に行く……受けに回るつもりはない」


 するとリーダー3人が理由を述べる。


「……」


 それを聞いてもお頭の目は冷ややかなままだ。


「それに……神鳴衆が関係してるんだろ? なら一隊員として行かないとなぁ」


 そして奴が見せたのはあの時、お頭が阿久比に渡した神鳴衆のバッジ。


「この野郎……」


(ちゃっかり情報掴んでやがる……)

 神鳴衆が関わっていることは機密情報のはず……なのにコイツは当たり前のように知っているのだ。


「はぁ……分かったよ、連れてく。でも目的地に着いたら離れてもらうぞ」


「へいへーい」「お願いね」「無論」


 そうして予定外ではあるが3人加わり、妖狐衆6人、舎弟衆15人、深淵アビス連合3人の計24人で屋根の上に出る。


「正規の扉だとちょっと面倒だからな……上から行くぞ」


 そう言ってお頭が僕達に渡したのはシオンの使っていたあのフック銃。


「行くぞ!」


 そうして全員同時にフックを撃ち出し、壁の上に登る。

 その時、後ろから大歓声が聞こえる。


(何だ?)

 後ろを振り向くと街を埋め尽くすほどの人達が手を振っているのだ。


「ありがとよ〜!!」「元気でなぁぁ!」「教祖様お気をつけて!!」「また帰って来いよぉぉお!!」


 その言葉に不思議と胸が熱くなる。すると皆が目配せする。そして息を吸い込み、


『さよならぁぁぁぁぁぁぁあ!!』


 そう大声で答えた……そして同時に壁を降りる。そうしてゆっくりと新たな道を歩き始めた。

 この先の、壮絶な運命へと続く道を……。

さて、いかがでしたでしょうか?

今回は新章突入でございます! 今までが歓楽街でのヨウタ達の戦いや成長を描いた「第一章」。これからは新たな命が宿り始めた旧日本で行われる戦いを描いた「第二章」です! これからの戦いも楽しみにしていただけると嬉しいです。

それでは、感想や評価、ブックマーク登録などしていただけると嬉しいです。

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