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青い春など春ではない  作者: 猫屋の宿
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ゆらゆら

「あれ〜桃華ちゃんとそらちゃんはこんな所で何してるの〜」


不安そうに声を吐き出す中、背中から聞き馴染みのある声が聴こえた。


「…ゆめ先輩!?えーと、その蒼井凪さんに用件があって…別にサボってた訳では」


体育祭の準備の邪魔なのか、普段は下ろしている艶のある長い髪がツインテールスタイルにしている。それだけでなくスカートの裾を折っており、いつもより露出している部分が多く女子耐性のない俺は直視できなかった。


「ふ〜ん…」


「なんだよ」


ニヤリと含みのある笑みを浮かべ、こちらを覗く様に見ている。


「いいやぁ〜、蒼井凪クンは人気者やなぁ〜って思ってね」


「からかってるでしょ」


「ううん。だって今もこの状況見てよ。美少女3人から囲まれて、内心ちょっと嬉しいくせに」


「……そ、それにしても二人はゆめさんと知り合いなの?」


会話の矛先を変えて二人に言葉を投げかけていると、露骨に無視された事に苛立ったのか、まあまあ痛い腹チョップをくらった。


「知り合いというか、同じ放送委員会でその先輩と後輩って言う関係です」


「なるほどね。ゆめさんが先輩って何か想像できないな」


「っゔゔ…!!」


2度目の腹チョップをいただいた。


「…ほら、二人とも、本番まであまり時間ないから、体育祭準備に戻りなさい。まだ工夫できる所はとことん突き詰めて、最高の司会進行を努めるのよ」


「すみません。すぐに戻ります」


「後輩には案外厳しいんだな」


「…蒼井凪クン、そう言う趣味あるの」


「どの発言からその思考に辿り着くんだ」


俺の否定コメントを全く気にもせず、そうなんだねぇ〜と納得し満足の笑みを浮かべている。


「…それであの二人とは何話してたの?」


わずかな沈黙の後、足を一歩前に踏み出し、対照的に言葉のトーンを強めて言う。


ゆめさんは、前々の発言から上坂汐音の周囲からの評価が上がっている事を俺が認識する前から知ってるようだった。

その事から何かしら上坂に関係する情報を得ているかと思い、正直に伝えた。


「前にも蒼井凪クン、上坂汐音を助ける!って言ってたもんね」


「でもさ…」


声のトーンが下がると同時に、空気が凍りつく様な、緊張感が伝わった。


「1週間ぐらい経つけどまだ、行動にも移してないんだね。本当に助ける気…あるのかなって」


「……」


「ごめんね!少し意地悪な事言っちゃったかも」


「いや、悔しいけどゆめさんの言う通りだ」


「悔しいんだ」


クスッと笑うゆめさんの姿はいつもの何を考えているのか、予測できない不思議ちゃんだった。

けれど、俺は上坂を救うと豪語しながらも、日々の体育祭の作業に没頭する事で現実から逃げていた。

上坂に話しかけても避けられる、拒まれる事が怖かったからだ。

さっきだって、B棟に行く事さえも怖くて立ち止まっていた。

だからこそ、こんなにもドストレートに指摘されては何も言い返せない。


「あ、そうだそうだ。今日上坂さん、体育祭の放送機器の準備の手伝いお願いしててこれから合流するんだよね」


「これからって、もう体育祭準備の開始時間はとっくに過ぎてるんじゃ?」


「…ほんとだ!ま、まぁ上坂さん1人だけだし、後輩クン達が何とかしてくれてるよ…」


視線がキョロキョロと動き明らかに動揺している。

先程あれだけ後輩に厳しく指導していた当の本人が時間管理が緩いとは…。こんな先輩についていかなければならない後輩が可哀想だな…。


「1人って他の人は呼んでいないのか?」


「うん〜。去年体育祭なかったでしょー?それで上坂さん1年生の頃の体育祭の時も放送機器の準備してくれてて、色々詳しそうだったから。てへっ」


「てへって…マジでこんな所で道草なんか食わずに早く行くべきと思うのは俺がおかしいのか…?」


「…蒼井凪クンも来る?」


「…え」


「なになに〜恥ずかしいの?」


そんな準備もなく突然上坂と会えるかもしれない誘いに嬉しい高揚感とちょっとした怖さがあった。


「いや…俺の方も見回りの仕事があって…」


「ん〜だったら、こっちの仕事が終わったらメール、送るよ。上坂さんには今日は他の仕事は入れないように言ってたから、終わり次第そのまま帰ると思うよ」


お互い携帯を取り出し、メッセージアプリで友達交換を若干の緊張感を持ちながら行った。


「色々気遣わせてしまって悪い…」


「ほんとだよ〜もう。気遣ってあげたご褒美に今度最近オープンしたカフェに連れてってもらおうかなっ」


「分かった。約束する」


冗談まじりに放った言葉に思いの外、真剣な返答をされ戸惑いを隠せないでいる。


「…あれ…?おかしいな…。私今、デートの約束されちゃった??」


首を傾げ、自分で言葉を口から出すにつれて、頬が赤く染まってきている。


「デートじゃなくて、借りを返済する為の出かけみたいなもんだろ」


「…それをデートって言うんじゃん…」


「……ん?」


小声でぼそっと何か言っているようだが、上手く聞き取れない。

それよりも頭を下げて、首を揺らすと同時にピンク色のリボンで結ばれたツインテールがゆらゆら揺れている姿に目を奪われていた。


「なんか、可愛いな」


「か、かわいい……??凪クンそんな事急に言われても……ば、ばかっ」


「ちょ!ちょっと…!ゆめさん!どこ行く…の…」


俺の呼び声に全く反応せず、廊下を突き抜け、瞬く間にその姿は見えなくなった。



続く


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