桃華とそら
「…な、なんだと!!お主はしーちゃんを知らないとそう言うのか!」
「いやいや、本当にしーちゃんって名前を初めて知ったもんだから…」
どうやら俺は間違った返答をしてしまったらしい。
桃華とそらと名乗った二人の女子生徒が俺の身体を突き抜けてしまいそうな程の鋭い目つきで睨んでいる。
「…本当なのですか?本当にしーちゃんの事を知らないのですか?本当に!」
青髪の方は怒りと言うより、失望したと言う顔をしている。
「…うーん」
もうこれは、知らなくても、しーちゃん知ってます!と、答えた方が早い気がする…。
いや、そう答えたとしてもしーちゃんが人なのかも分からない。もしかすると、猫に付けている名前かもしれないし…二人が育てていた花につけた名前かもしれないのだ!
「…ぅ…っ…」
ピンク髪の方が泣き出した。
「…桃華…泣かないで下さい……私まで…っ」
青髪の方も泣き出した。
突然、周囲にいた生徒は俺を、極悪非道な人間と言う目を向けてこちらを見ている。
…俺の自己管理意識が低かった。やはりコイツらは真帆の使いであり、こうやって俺を貶めるのが目的だったのだろう。
そう、『男である俺が、か弱い女を泣かした』と言う事実を不特定多数の生徒に披露し、俺の居場所をこの学校中から無くす事。それが真帆の狙いだったに違いない。
「…してやられたな…」
「お前たち…もう目的は済んだはずだ。せめてその嘘泣きをやめてくれ」
「…ぅ…っ!!失礼な!嘘泣きなんかじゃありません!」
「しーちゃんは騙されてたんだ〜。す、少し見た目が良くて仕草とか香りとか人への気遣いとかが良いからって…調子に乗りやがって…!」
「いや、失礼って…本当の事じゃないか!お前たちは真帆の使いなんだろう?お前たちの主が考えた罠を俺にこうして見事にやりきったんだから、もう目的は果たされたはすだろう!」
「「……?目…的?」」
一体何を言っているのだろうと言う目で訴えかけられた。
「…ねぇ〜一つ聞いてもい〜?」
ピンク髪が目をキョロキョロさせ、戸惑いながら問いかけてきた。
「真帆って言うのは…山本真帆の事を言ってたりする?」
「当たり前だ。俺は今からそいつに、上坂汐恩をこれ以上苦しめないで欲しいと説得しに行こうとしていたんだ!」
「…まぁけど、こうして真帆の使いであるお前たちの罠にハマってしまった訳なんだがな…」
「……」
二人の少女の目はもう、目の前が現実ではなく幻想を見ている様な、朦朧としていた。
しばらくして…。
「なんだぁ〜私達が勘違いしちゃってたのかぁ〜」
「蒼井凪君本当にすみませんでした!しーちゃんの大切な友人に対して無礼な発言をしてしまい、どの様にして償えばよいのか……」
「いやいや、そこまで重く受け止めなくていいから。それに、俺だって変な奴だったから、無愛想な態度をとってしまったしな…」
これからは桃色と青ではなく、桃華とそらと名前で呼んでいこうと決めた。
「…そんな蒼井凪君が謝る事じゃ−」
「「変な奴?って言いましたか?」」
息ぴったりと声を揃えて言うあたり、さぞかし二人は仲が良いんだろうな。
「ま、まぁそれは置いといて桃華とそらがしーちゃん…上坂汐恩の友達って事は分かった」
「それで、どうして二人は友達の一人もいない様な俺を探していたんだ」
二人の表情があからさまに困惑している。
「蒼井凪君って変人だね」
「ちょ!桃華っ…そう言うのはもっとオブラートに包んで−」
「私は褒めてるの。でも、私には彼は陰の雰囲気を醸している様に見えるけれど、実は心の奥には人を思いやる気遣いの出来た、スマートな人間なのよ」
勝手に考察し、行先不明の正解に辿り着いている。
「ま、桃華の言う通りそう言う事だ」
「はぁ…」
俺が口を開けば開くほど、俺に対するそらの表情が暗くなっているのが分かる。
「そ、それで私達が貴方を探していたのは他でもありません。しーちゃんを助けて下さい」
心の中ではどんな風に俺を思っているのか分からないが彼女の真剣な眼差しに釘付けになっていた。
「言われなくても助けにいく。俺はそのつもりで今ここにいるんだ」
「その割には蒼井凪君、私達が話しかける前からずーーーーっと廊下に立ってた気がするけどね〜」
「……それで、二人は一緒に行かないのか?」
隣で桃色が頬を大きく膨らましているのを無視し、そらに投げかけた。
「…私は…行けません」
「どうして?二人だって上坂汐恩を助けたいんじゃ−」
「…私達は山本真帆には近づけないんです」
続く。
11/17 11時に投稿します。




