表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青い春など春ではない  作者: 猫屋の宿
32/35

桃と空


体育祭まで残り5日。



一日ぶりの学校…たった一日来なかっただけなのに…初めてその教室に入る新学年の時のように一歩一歩がとてつもなく重くなっていた。

緊張しているのか鼓動が早まり、うまく思考が出来なくなっているのが分かる。

小さな一歩を積み重ね何とか自分の教室の扉に到着した。


「……」


扉を開けると、賑わっていた教室が静まり返った。クラス内の生徒が自分の方に視線を向けたかと思うと、何事も無かったように賑やかさが直ぐに戻った。


「…まぁな」


何となくは分かっていた…。


友達が沢山いる陽キャだったら、『体調大丈夫だったの〜?』『お前がいなかったからつまんなかったぞ』『〇〇君が学校にいないと楽しくないっ!』とか、声を沢山かけられるのだろうな…。


別に!そんな大勢から心配される方がいちいち面倒だし、逆に誰からも心配されない方が…気が……楽で…。


虚無感に耐えきれずこれ以上考える行為を辞めた。


「……蒼井君」





放課後


今日も上坂汐音は俺から避けるように行動していた。俺が話しかけようと試みると、ほかの生徒の所へ行き、近づかないでほしいと言われているみたいだった。


この事態を招く原因となった、リーダー的存在は和人とゆめさんの話を聞いてほとんど検討はついている。

それは、廊下を歩くだけで、男子は勿論、女子もまた彼女には逆らえない、周囲を照らす奇抜な金髪を揺らしている山本真帆に接近し、説得するかだ。


聞いた話では、真帆は誰よりもプライドが高く、自分の前に立つ者を決して許さない。どんな手段を使ってでも、目の前の対象を排除させ、服従させる…強欲の持ち主らしい。


ただ疑問があるのだが、どうして上坂汐音がその対象になったのかがまだ完全に分かっていない。

和人たちの話からは、上坂汐音という存在が今まで認識されていなかったが、ここ最近の体育祭準備期間前後から、特に男子から注目されており、それが真帆にとっては邪魔な存在として認識されたからではないかと言っていた。


だが、男子から注目されることは今まで他の女子でも度々あったのだ。

それは、文化祭の劇に出演するヒロインだったり、部活動で全国優勝した女子生徒だったり、すべて一時的ではあったが男子の注目の的になっていたことがあった。


上坂汐音もその一例にしか過ぎないと女子の話題に一番敏感な真帆が特に理解しているはずなのに。

現に、ゆめさんから聴いた話では、注目の的になったヒロインの女子生徒も、優勝した女子生徒にも真帆は一切口を出す事はなかったらしい。


「…だったらどうして」


さらに理解出来ないのが、除外の対象に男である俺が含まれている事だ。以前、上坂汐音と話している時がそうだった。今まで真帆は男子の事など気にもかけず、ただただ対象の排除に努めていた。


そんな学校一の王女様気取りの彼女に近づき、会話が出来る機会などあるのだろうか。


しかし、今は多くの生徒が本番前の体育祭の最終準備に取り組んでいる。いくら、女王様気取りの彼女でも教師からするとただの生徒なわけで準備に参加しないで、さぼったりなど出来ないだろう。


この時間に彼女に接近し、真相を聞き出し、上坂汐音を自由にしてくれる様に説得するしかない。


彼女のいるクラスは自分たちのいるA棟の向かい側、B棟にある。渡り廊下を歩くとすぐ目の前に、教室の入り口が現れる。


…。


本音を言うとすぐにでも彼女のクラスに行きたいのだが…友達がいない俺には渡り廊下を歩き、B棟に赴くと言うのは、覚悟と勇気で満たすほどの器量が必要だった。


いつもA棟ばかりにいる自分からすると、B棟は完全なアウェーなのだ。見知らぬ生徒が沢山いる中探し出すという行為は非常に高い壁であった。


それに、B棟はもしかしたらすでにもう彼女の手の内にあるかもしれない。そんなことになっている中、部外者が立ち入ってしまえば…。


「…はぁ」


自分の弱い部分がいつも足を引っ張り、明るい理想とは裏腹に、現実にはいつもあと少し勇気が出なかった自分を悔やむモノクロの世界が待っていた。

今だって、その勇気が出ずに立ち止まっている…いや、違うな。

自分はあと一歩だったんだ、あと少しの所までは来れたんだ、と臆病な自分に気づくのが怖くて「勇気が出なかった」と言っているだけだ。

臆病で自分の意志で行動が出来ない小心者と言う自分を誤魔化すために…。


そんな事を思いながら深いため息をついた時だった。


「失礼します。あなたが…蒼井凪君…でよろしかったでしょうか?」


いつの間にか目の前には、青空をそのまま髪に染めた様な濁りのない綺麗な青髪少女に、美しく上品さを漂わせる桃色に染まった髪を揺らした二人の女子生徒が俺を取り囲んでいた。


「そうだけど…えっと…!!」


ん?これは……もしかして、女王様野郎(真帆の事をここではそう呼ぶようにした)の使いなのでは!


「ふむふむ…君が蒼井君かぁ〜!」


ピンク髪の方が俺の周囲を観察するようにキョロキョロ見渡している。


その光景はずっと欲しかった玩具を目の当たりにした幼児のように目をキラキラと輝かせていた。


「…桃華(ももか)失礼ですよ」


それとは真反対に青髪の方は落ち着いていて、礼儀正しい真面目な雰囲気だ。この鋭い目つきに睨まれると思うだけで背筋が寒くなりそうだ。


「すみません。蒼井凪君。彼女は決して悪気がある訳ではないんです。ただ、」


「ただ?」


「桃華は、貴方の事が気になって気になって、夜も眠れず、心が張り裂けてしまいそうな辛い思いを貴方に会うたった今までしていたんです。ですから−」


「何を勝手なことをっ!それは私じゃなくてそらちゃんが言って−」


「少々口数が多い子でして…騒がくしてしまい申し訳ありません」


ピンク髪が何か話していた所、青髪が猛スピードでその口を塞ぎ込み、こちらには聞こえない小さな声でやり取りをしている。


…こいつら何なんだ。


「あの…俺これから用事があって…俺に用がないならもう行ってもいいか?」


その瞬間、言い合っていた二人の顔が突然こちらに向き、一呼吸すると大きく頭を下げて言った。


「しーちゃんを助けて下さい!」


「……しーちゃんって誰??」







次回は11/15 11時に投稿します。

引き続き宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ