本音 後半
「…それも…また…っ、ぅ、うそに決まってるっ……!」
家中に響き渡る大きさで泣き喚いていた小さな頃と違い、声を殺しながら涙を流している。
ひなの身体は小刻みに震えていた。
「……っ!!」
俺は気がつくとひなの頭を軽く撫でていた。
兄としてここ最近何もしてやる事が出来なかった。
いや、何も出来なかったんだ…。
棘のある言葉を向けられるのが怖くて避けていたのかもしれない。
その重い責任感をこうしてすっかり成長したひなの頭を撫でていて痛感させられた。
そして、いつまでも幼くて、毎日が楽しくてはしゃいでいたあの頃とは違う事も。
一緒に遊んで、喧嘩して…でもまたすぐ仲直りして…また遊んで…。
「…お兄ちゃん?」
「ぁ、ああ。ごめんすぐやめ−」
「え…」
考え事をしていたせいでひなの頭を撫で続けていた事に意識が無くなっていた。もう辞めてと拒絶される前に俺は咄嗟に頭から手を離した…のだが。
「…辞めないで……」
離そうとした手を握られ頭に押さえつけられた。
耳を赤く染め、こもった声で小さくそう呟いた。
言葉の如く、俺の返事は求めていない、誰に宛てた言葉でもない、無意識に飛び出したもののようだった。
「…雑炊、また作ってくれるか?」
手の動作を止める事なくひなに話しかけた。
口に出さずとも一瞬だが小さく首を縦に揺らしたのを見て、俺の問いかけに了承してくれた事が分かった。
「あ、」
「……?」
「追加でもう一つ頼んでもいい?」
また小さく首が揺れる。
言葉に出さないのは俺の頼みを聞きたくないと言う拒絶反応ではない事ぐらいすぐに感じ取れた。
「愛情入りでお願いします」
「…!!お、お兄ちゃんのバカ!」
脇腹を軽くチョップされた。
俺の冗談めいた口調に対し、妹から割と本気の「バカ」をくらったにも関わらず俺は心の底から笑っていた。
俺の笑い声につられて、ひなもケラケラと嬉し涙を流して笑っていた。
俺はあの雑炊を口にした時、本当に感じたんだ。
食べて欲しい人への気持ちのこもった味が。
-翌朝
…たしかにまた作ってくれとは言ったが…。
「こんな直ぐに作ってくれるとは…」
「あ、お兄ちゃん〜おはよう」
「ああ、おはよう」
制服の上からピンク色のフリフラのついたエプロンを着ていた妹がリビングに居た。
まだ起きてすぐとは思えない程のハイテンションに俺は何も口を開く事が出来なかった。
「あら〜なぎおはよう。今日はねぇ、ひなちゃんが朝食作ってくれたわよ〜。今日の天気予報…吹雪だったかしら」
誰よりも早く起きている母さんでさえまだ、眠そうだと言うのに。
「ねぇ…?私の作ったお料理美味しい?」
「ああ、すごく美味い」
正直、まだ寝起きで味覚が鈍っている為かあまり味がしない。
「ほんと!すごく嬉しい…お兄ちゃんに褒めてもらえて私すごく幸せ…」
お日様のように目を輝かせ、厚い雲に覆われたこちらの目を照らしている。
「そんなに喜んでもらえて俺も嬉しいよ…」
やばい、普段きちんと朝食を摂らないせいか、既にお腹の容量が限界に近づきていた。
「…?お兄ちゃん…?大丈夫?ご飯少なかった?」
もちろんひなは、俺が朝食を摂らなかいからすでに満腹と知らず、純粋に俺の心配をしてくれている。
「い、いや丁度良い。さすがひなだよ」
「えへへ。嬉しいなぁ〜。これからもお兄ちゃんに褒めて貰えるように明日からはもっと沢山料理作るね!」
「…え。ああ、まぁ、けどほどほど…にな?」
じゃないと…俺の命が…。
「…遠慮しなくて良いよお兄ちゃん!明日はもっと沢山作ってもっと褒めてもらって…頭なでなでしてもらって…」
どうやら…俺は良くない方向にひなを変えてしまったらしい…。
とは言ってもひなが作ってくれたご飯を残す訳にはいかない…それはこれからも…。
これだけ朝食が今後も増えるとなると…夜ご飯を少なめにして朝お腹を空かせるしかなさそうだ。
「母さん!今日の夜ご飯なんだけど−」
「ふふふ。私も燃えてきたわよ〜なぎ!今日の夜ご飯はカツ丼にお得意のカレーよ!」
それから凪をご飯時に見た者は誰一人ともいなかった。
end
お読みいただきありがとうございました。
本来は後半を投稿するつもりがなかったので1500字程度と短いお話になってしまいました。ご了承下さい。
また、誤字脱字報告してくれた方この場をお借りしてお礼申し上げます。
登場人物の名前だったり、漢字ミスなど指摘して下さりありがとうございました。




