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青い春など春ではない  作者: 猫屋の宿
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雑炊



「…ゴホッゴホッ………ぁぁ…。」


いつもの朝のだるさとは違った、身体全体が重く、思い通りに動かそうとすると何か分からない存在が拒絶している感覚はまるで自分の身体とは思えないぐらい奇妙なものだった。


ピピピ、ピピピと耳に響く電子音が部屋中に鳴り響く。


「38度か……」


体温計に表示された数字を見ると、より一層身体がだるくなった気がした。


それにしても、佐藤には悪い事をしてしまったな。

二人じゃ到底入りきれるはずがない傘だと言うのに、自分を犠牲にしながらも、俺を傘に入れてくれた…そんな優しさを俺は無駄にしてしまった…。

流石に俺の家まで着いてくるとなると申し訳なく思ってしまい、乗り掛かった船だからと言って後輩に甘えてばかりではいけないと強く思い、


「これ以上行くと佐藤の家も遠いし、俺の家ここから近いからこの辺までで大丈夫」


「だからって…」


佐藤が何か言おうと口を開けた瞬間、薄暗く不気味さを漂わせている雲の隙間から、一本の稲妻が光った。僅か後に、空全体を震わせる大きな音と同時に、より一層雨の勢いが雷に呼応するかの様に増した。


「俺50メートル7秒だから」


「…あ!凪先輩……」


たしか、あの後4.5分走って家に着いたんだっけ?

あんな決め台詞吐いておきながら……こんな状態になってしまい自分の幼さを自覚せざるを得なかった。


まぁ、明日学校に行った時に、きちんと謝ろう。

それに、佐藤の事だから帰り道に何か甘いものでも食べにいけば案外許してくれるかもしれない…。


部屋に飾ってある時計を見ると短針が8に差し掛かろうとしていた。もう、親やひなも家を出ているだろう。

俺は病人らしく布団の中で過ごし、安静に過ごす事に徹して、なるべく早く熱を冷まさなければならない。

軽くお茶を飲み、俺は眠りにつく事にした。


「……」


「……」



「……おに…私の…せいで……」




「…」



-正午


ずいぶん長く眠った気がして、普段は起こすのが憂鬱な身体も、風船の様に軽く上がった。

首あたりを軽く触ると、そこまで暑くなく、関節を動かした時の痛みもなく、今朝感じていただるさが嘘の様にどこかへ飛んでいた。

それにしても、たったの数時間寝ただけで、ここまで身体が回復しているとは…。俺には超回復の能力があったのか。

体温が下がり、調子付いて物事を考え始める事が出来ると、途端に空腹感が身体全身に伝わった。

そういえば、今朝は何も食べなかったんだっけ…?


しかし、朝と比べ体調は良くなったものの、半日以上布団で身体を横にしていると、立って歩こうとすると少しふらついてしまい、風邪が治ったと調子に乗っていた自分の楽観的な考えにハッと気付かされた。


リビングに入ると、いつもは皿を洗う音、テレビから流れる音、人の話し声、近所の犬の鳴き声、トラックが通る音…日常に数多くある音が何一つ存在しない閑散とした空間に呆然とし立ち尽くしてしまった。


「……あ」


リビングにあるテーブルにサランラップで包まれた皿が目に入った。

体調を崩していた自分の為に雑炊をお母さんが作ってくれたのだろう。丁寧にも、ご飯の上に刻みネギが載せられている。


小さい頃、熱を出した時に卵雑炊をお母さんがよく作ってくれていた。そんな昔の記憶を思い出しながら、レンジで温めて一口頬張った。


「……」


口に入れた瞬間、ホッとする暖かい味わいが広がり、自然に頬が緩んでしまいそうな、作ってくれた人の気持ちが伝わってくるようだった。


「美味い……ん?」


食べ進めていくと、鰹節?が入っており、穏やかな味に酸味のある爽やかさが効いておりさらに箸が進んだ。


しかし、今まで卵雑炊に鰹節が入っていた事なんて無かった。

お母さんが家に帰ったら一言お礼を言おうと決めた。




-夕方


「あら、もう体調は大丈夫なの?」


あのままリビングで寝てしまっていた様だ。目を開けると、仕事帰りのお母さんが安堵した表情を向けこちらを見ている。


「…うーん。何とか?」


「…はぁ。まだ病み上がりなんだから上で寝てなさい。夜ご飯になったら一度上に行くから」


「…分かった」



確かに体調は良くはなったが、数時間前までは身動きもままならずずっと横になっていたのだ。そのギャップにまだ身体が上手くついていけていなかった。


俺は素直にリビングから自分の部屋へ戻る事にした。


「…あ。お母さん」


「んー?」


「今日雑炊ありがとう…」


「……?雑炊…?」


お母さんは俺の言った事が見当もつかない様子だった。

俺もまた予想していた反応と異なり、頭の中が混乱していた。


「…だから、今日俺が寝込んでたからだろうけど、昔みたいに雑炊作ってくれてたじゃん」


「……」


それでもなお、お母さんは理解出来ていない様子でこちらを見ている。


「…凪?雑炊なんて作ってないわよ?」


「……え?それじゃあ、俺が食べた雑炊は誰が…」


感じたことの無い寒気に俺は身動きが取れなかった。









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