雨
「いや、いや、俺と上坂さんはそんな喧嘩するほどの仲じゃないから」
「そーなんだ!てっきり友達かと思ってたよ私」
「友達…?」
「うん。だって友達なら誰だって殴り合いの喧嘩の一回や二回ぐらいするもんじゃん?」
「殴り合いって……」
それにしても、俺と上坂が友達…か。
ふと窓の向こうから写真に収めたいぐらい色とりどりの情景が浮かんできた。
『…サボりに来ちゃいました』
『…え!上坂さんが!?』
『…俺も…ごめん!実は俺も体調悪いのは嘘で準備に疲れて…サボってました!!』
『蒼井君もだったんですか!?』
『う、…うん』
『でしたら…私たち一緒ですね』
中庭が目に入る度に俺はこんな事ばかり思い出していた。
たった数日前の出来事のはずなのに…思い出す度に心に穴の空いたような寂寥感に苛まれる。
「…ぉ−ぃ…おーい!ちょーっぷ!」
「…ぅゔ!」
「何で殴って…」
「蒼井凪がどこか彷徨ってたから、私が捕まえてあげたの」
感謝しなさい!と、元気で白い歯を見せ笑いかける彼女がいつものゆめさんとは全く違った、ヒーローの様に心強く見えた。
「…ゆめさん。前にも一度聞いたかもしれないんだけど、覚えてる?」
『あの…今男子から人気があるって言ってたけれど、それって本当なの?』
『えー?本当だよ。上坂汐音しか勝たん!って、みーんな言ってるんだよ〜。おかげで他の女子達は少しピンチ!へへへ〜』
初めて出会った時、彼女にとっては何気ない会話の一コマにしか過ぎなかったかもしれないが、俺にとっては気にかかって仕方がなかった。
「てっきり蒼井凪くんは知ってるかと思ってた」
「俺が知ってる?」
「まぁそれもそっか……」
「…?ゆめさん…?」
「ううん何でもない!最近の上坂汐音は明るくなったと思わない?ずるいよね〜あんだけ容姿も整って、勉強も出来て、性格まで器用に使いこなせちゃうなんてさ?」
「…だから、女子たちはピンチって言ったのか」
「うーん。それもそうだけど…蒼井凪くんはもう知ってるんじゃないの?」
「…どうして」
「ふふ、そんな怖い顔しないでよ。私は別に君と仲良くなりたいだけなの」
「俺の質問に答えてくれ。どうして、そう思う」
諦める気のない蒼井凪に呆れたのか、参ったのか分からないがおもしろくない顔で答えた。
「その人はどう言ったのかは分からないけど、私も交友関係が広い…それだけ」
俺の考えていることなど全てお見通しだと胸に直接訴えかけてくる。
「それで蒼井凪くんはどうするつもりなの??」
「どうするって…上坂さんを助ける」
「…ふふ、面白いね。私やっぱ蒼井凪くんの事好き」
小雨がいつしか地を打つ鈍重な雨に変わり、憂鬱だと嘆いている空模様がすごく心地が良かった。
「あー、雨降ってきた!!」
「しーちゃん!早くこっち来ないと濡れちゃうよ!!」
「…雨」
「…?は!や!く!ほら…制服濡れちゃってるじゃん!」
私の腐った心と一緒に雨に流されちゃえば良いのに…。
「すみません!ボッーとしてしまってて」
「あーまたしーちゃん敬語使ってるー。前も言ったでしょ敬語禁止って!」
こんな重苦しい雨が降り続いてる中どうして彼女は、屈託のない笑顔を向けるのだろうか。
「ごめんなさ……ごめんね」
「しーちゃんは本当真面目さんだなぁ〜」
「でもでも、そう言う所も可愛いよねぇ〜」
そんな分かりやすい仮面外してしまえば良いのに。私に仕方なく仲良くしてあげているのも、あの人からの指示ぐらい私にも分かる。
本当は、私みたなパッとしないのと一緒に行動するよりも、仲のいい友達と行動したいに決まってる。
「しーちゃん…?」
「ごめんね。それじゃあ戻ろっか」
「…ねぇしーちゃん。何か悩み事があれば言ってね。私たち友達なんだからさ」
私は非情な人だと思う。
「うん、ありがと」
だって私はあなた達の名前を覚えていない。




