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青い春など春ではない  作者: 猫屋の宿
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覚悟




衝撃的な言葉を目の前にし、呼吸をするのを忘れるほど頭の中がグラグラと揺らいでいた。吐き気さえ思わせるぐらいそれは酷いものだった。


「……」


「黙っていて…ごめん」


俺からの視線を遮る様に顔を伏せている。

肌に僅かに冷たい風が触れ、今日の夜は何だか寒くなりそうな予感がした。


「その話、聞かせてくれないか」


和人がここまで追い詰められているのにはきっと何か理由があるはずに違いない。そんな和人を責める気にはなれなかった。


「最近の上坂さんってどんな感じだった?」


「え?最近の…そうだな、4月の頃と比べてよく笑う様になって、よく話す様になった…何だか周りから好かれるタイプだなって」


4月のクラス内にいた上坂と今の上坂は全く別人の様だった。周囲を気にも留めずただ自分の意思に従う雰囲気を大きく出していた。

それが今となっては、自分の意志よりも優先し周囲に溶け込もうとしている…その姿が愛おしく思われたのか周りの人も上坂と関わろうとしている。そんな相乗効果が働き、出会いたての頃の上坂はもうどこにも居ない様だった。


「でも…それが脅されているのと関係あるのか?」


「大有りなんだよ…少なくとも上坂さんが去年通常クラスにいた時は周りとコミュニケーションを自主的に求める様な性格じゃなかった」


「どうして…それを和人が…」


和人の口調はまるで昔から上坂汐恩を知っていた様なものを感じさせた。



俺達が新学年になりすぐの事だ。


『…知ってるか?3年生から新しく一人進学クラスに入った生徒がいるって話』


という会話をした事があった。


しかし、その時教室の前に座っていた上坂の事を俺は勿論、和人もあまり知らない様子だった。


「…さっきも言っただろ。部長になると交友関係も広がって知りたくない事も耳に入っちまう…」


授業が終わり次第、スポーツバッグを肩にからい、笑顔を見せて教室を後にし部活へ行く和人が、こんなにも辛い気持ちになっていた事に俺は全く気付かなかった。


和人にはクラスの中心で人気のある男女の友達が沢山いるにも関わらず、クラスの端っこにいる俺にまで構ってくれて、心配してくれたり、一緒に楽しさを共有したりしてくれていたと言うのに…。


「俺の方こそ何も気づいてあげられず悪かった」


突然の予期せぬ出来事に和人は少し驚いた表情を浮かべていた。


こうしてお互いに真剣に話し合う事なんてなかったから、何だかむず痒い気持ちになってしまう。


和人もそう思っているのか、俺の視線を意図的に逸らすかの様に目が合う事はなかった。


そしてこの後、俺は和人から、知っている事について教えてもらった。信じがたい言葉ばかりで、息苦しくなりながらも、重い言葉を必死に話してくれている和人に俺も一生懸命に耳を傾けた。


全てを話し終えてくれた時には空はすっかり暗くなり、半月だけが一段と大きく輝きを放っていた。


「和人…最後まで話してくれてありがとう」


「ほんと…俺は最低な事を凪にしてしまった…今更許してくれなんて言わない。ただ、上坂さんの事は悔しいけど俺にはどうにも出来ない。凪、お前にしか出来ない」


沈痛な面持ちでうつむく様は和人の誠実さが滲み出ていた。


「俺にしか…出来ない…」


「すまない…」


自分が目の前の現実から逃げた事で、自責の念に駆られ何度も謝罪をしている。


「なぁ、和人。お前は一つ勘違いしているぞ」


小さな吐息が漏れ、まるで別の言語を聞いたかの様な困った表情で俺と目があった。


「俺は和人の事を何も悪い事をしたなんて思っちゃいない…」


和人には和人なりの訳があった。それは表情を見て容易に分かる事だ。それより、むしろ…


「むしろ、和人には感謝している」


この言葉はその場を取り繕う為の飾った言葉なんかではない。


「俺は教室の端に一人でいる時、他にも仲の良い友達が沢山いるにも関わらず和人が嫌な顔せず話しかけに来てくれた事が本当に嬉しかった」


「凪…」


「だから…俺の方こそすまなかった!」


和人が辛かった時も、変わらず俺と話してくれて、俺の事を気にかけてくれていて、それが当たり前だと、和人らしいと、思っていた。

だが、俺のいない場所のアイツは交友関係を維持する為に苦しい経験や困難な日々を送っていた。それに気付かなかった、気付こうとしなかった俺に腹立たしさを感じる。


「いや、いや!お前は謝らなくて−」


腹立たしさを感じているからこそ…せめてもの償いをさせてくれ、和人。俺がお前から貰った優しさをこれだけで返せるかは分からない。

けれど…



「俺が上坂汐音と和人を救ってみせる」






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