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青い春など春ではない  作者: 猫屋の宿
24/35

真実



「おばちゃん!チャーハンとギョウザのセットを二つ!」


俺は和人に連れられ中華屋さんに来た。

壁には色褪せたメニュー表が掛かっており、値段も時が経つに連れて変わったのだろう。色褪せた壁とは対照的に値段表は真っ白かった。それが、ここのお店の歴史を物語っていた。


「……」


「ここはな、部活終わりによく来る店なんだよ。味はもちろん、店の雰囲気も良くて結構気に入ってるんだ」


俺が萎れている様子を見て和人が気を遣ってくれたのだろうか明るい声で話している。


「…」


「…お前、なんか嫌な事でもあったのかよ」


「え?いや、そんな事はない」


「じゃあ、勉強で躓いたのか?」


「いや、違う」


「だったら、失恋でもしたのかよ」


「…いや…違う」


その途端和人がなぜかフッと頬を緩めていた。


「まぁ…そんなとこだと思ってけどさー」


「だから、違うって」


ちょうどその時先ほど頼んだ料理が運ばれ、俺たちはとりあえず食事を摂ることにした。

和人の言うように生姜の効いた食べ応え抜群のチャーハンに口の中で広がるギョーザから滲み出る旨みは格別なものだった。

和人も俺も会話を交わす事なく、目の前の料理の虜にされていた。


「どうだ?うまかったろ」


和人の表情は幸せそうだった。人間はこんなにも旨い料理を食べるとこんなにも笑顔を見せる事が出来るのだと驚いた。


「凄く美味かった」




店の外に出ると空はすっかり茜色に染まり、気温も日中の蒸し暑さとは違い少し肌寒さを感じさせた。


「なあ、凪。少しよりたいとこあるんだけど」


そう言い俺は和人について行くと、どこか懐かしさのある公園に着いた。特別大きくもなく、遊具が沢山あるわけでもない、草は生い茂り、錆びた鉄棒と、風に揺られているブランコしかない誰の目にもとまらない寂しげな公園だった。


「和人?どうしてこんな場所に」


公園に着いてから和人は口を開く事なく突っ立っている。どこか、様子のおかしさを感じ取った俺は聞かずにはいられなかった。


「…」


今思えば突然俺をご飯に誘う所からなんとなく違和感はあった。友達とご飯ぐらい行くことに対しては何も思わなかったが和人の表情に引っかかっていた。

何か俺に伝えたいけれど、そう簡単に伝えれるものではない焦ったさの様なものを。


「和人?」


部活で鍛え上げられた腕力を発揮し俺の両肩を突然掴んで、強い眼差しを向け口を開けた。


「ごめん!!」


言葉の意味が理解できずにいた俺は、何も言葉を返せずただ困惑し棒の様に立つ事しか出来なかった。


「……え、えと…」


ただ、いつもは冗談ばかり言って場を和ませる和人がここまで真剣なのには何か深い理由がある事ぐらいは直ぐに分かった。

木が濡れていて制服が汚れるなんて事など気にする事なく俺達は近くの木製ベンチに腰を下ろした。

空を見上げるといつの間にか陽は沈み、曇りかかった夜空に時折うっすらと半月が顔を覗かせていた。


「俺の話をしてもいいか?」


無言で頷くと和人はゆっくりと話しはじめた。


「俺さ今年はサッカー部の部長と副キャプテンを任せてもらってるけど、去年まではまさか俺が部長になるなんて夢にも思わなかったんだ。うちのサッカー部は地方では敵なし、全国にも手が届くかもしれないって事もあって、部長になると内申書に書けたり、学校内では色々融通が効いたり、交友関係だって広がったり結構いいんだよ」


その話は噂程度ではあったが聞いた事があった。俺が和人と仲が良いことを知っていた女子がサッカー部の部長の連絡先を教えてほしいと聞いて来た事があった。

一軍女子がこんな俺に頼るって事はそれだけ和人の事を想っているのだろうとその時思った。


「ただ良い事ばかりじゃない。交友関係が広がると知りたくない事だって沢山耳に入る。ただ関係を維持する為に見て見ぬふりしたりノリを合わせたらしなければならない…」


苦悶の表情を浮かべ下を向いている和人の横顔は悲しさと同時に怒りを感じさせるものだった。


「…けど凪にそんな無慈悲な真似はもうしない!」


「…俺?」


突然、和人の口から俺の名前が出て困惑している。

話の流れ的に友達がほとんどいない俺が関わる様なシーンはなかったと思ったのだが…。


拳に力を入れ大きく息を吸い言葉を放った。


「上坂は脅されているんだ」




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