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青い春など春ではない  作者: 猫屋の宿
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胸の苦しみ



「あ!凪、もう作業は始まってるよ。一体どこに…」


「……凪?」


「ん?遅れちゃってごめん。少し先生にお説教くらってててな」


こんな分かりやすい戯言は他のやつならともかく、陽翔にはお見通しだろう。俺の返答に頷きながらも納得のいっていない表情をむけていた。


「また勉強のことかい?」


「ああ。次のテストで赤点取れば留年だとか言われた。あれは、教師による生徒への脅迫だな」


「あはは。凪が本気を出せば学校の定期考査なんて余裕だと思ってるけど」


「それはもう昔の話であって、今の俺が仮の仮に本気で勉強をしたとしても全教科赤点回避は難しいだろうな」


何となく陽翔やくるみは昔の俺を話題にする事を避けている。少し前の俺は勉強は苦痛など感じる事なく、むしろ楽しんでいたかもしれない。勉強はスポーツなどの技量が試されるのと違い、努力した分結果が現れて、おまけに良い順位を取ればみんなに褒められる。最高の娯楽であった。

だから、輝いていた過去とは違い錆びきった今の俺に対して気を遣ってくれているのだろう。


「ほら、早く作業に戻るぞ」


「…うん」


誰にだって隠したい事の一つや二つぐらいある。

たとえ相手が親友だとしてもだ。


それから残りの作業を行い今日の仕事を終え再び教室に戻った。

その中には上坂汐音の姿もあった。先ほどの事など気にしていない素振りで他の生徒と話している。


「上坂さん…他にも友達出来てたんだな…」

その姿を見て不思議と俺は心が苦しくなった。


−どうして?

この気持ちの正体が俺には分からず動揺していた。上坂が他の生徒と話していようが俺には直接関係のない事…なのに…心が思考するのを拒絶している。


もう上坂は俺と違って一人じゃない…この体育祭準備期間に彼女は成長していた。

そんな今ではクラスでボッチ陰キャに話しかけなくても、周りからも慕われている友達人気の高い生徒と話している方が上坂も楽しいに違いない。

…俺はどうしちまったんだ。ここは上坂の成長を嬉しく思うところじゃないか。これからさらに友達を作って、高校を卒業した後も交流が続いて、同窓会で久しぶりに会えば、当時仲の良かった友達同士で笑って過ごして、結婚式の時には高校の友達を招待して…俺とは違う生き方を手に入れている。

友達がいなければ同窓会に行ってもたいして話す事などなく今と同じ端っこで一人になるに違いない。結婚式も同様に友達のいない俺に招待する人などいない…。

だけど…だけど…その未来図に俺はいないってのを思い知らされると喪失感に溺れそうになるほどだった。

俺は−


「凪せーんぱい!って先輩?聞いてますかー先輩ー?」


俺のテンションの低さなど気にもせず、何度も俺を呼んでいる。


「なんだ佐藤」


「あ、先輩今面倒くさいって顔しましたね…こんなに可愛い後輩が呼び続けてるのにひどーい」


頬を軽く膨らませこちらを見つめる。

何だか最近の佐藤は距離感が近い気がする。なんか、こう物理的な距離感と言うより言葉による親近感?らしさを思う様になった。


「ごめんごめん。ちょっと今考え事してて。それで?そんなに俺を呼んで何かあったのか?」


「何かあった…そうなんです!私今日この後先生に呼ばれてしまいまして!今日は凪先輩と帰れそうにないんです!!寂しいですよね?分かります分かります!私もさみ−」


「そうかそうか。報告ご苦労。それじゃあ今日は先に帰っておく!?」


「ちょっと待って下さいよ先輩。そんな簡単に帰らせる訳ないじゃないですか〜?ね?」


え、怖い怖い。佐藤の表情を見る限り『お前それでも先輩か?何か一言ぐらいあるだろ?』って言いたそうだ。こんな可愛い目で見つめているくせに俺の脳内世界に酷い言葉で直接語りかけてきやがる。


「そうだな…頑張れ応援してる」


「むー…まぁいいでしょう。頑張ってきますね先輩!」


納得しきっていないものの、及第点に届いたのかニコリと笑ってくれていた。

きっと先生から呼ばれた理由は図書委員会についてだろう。

前回の委員会では彼女を副委員長に推薦した。彼女の性格的にリーダーシップ力を活かし委員長にする事でも良かったがそうなると一つ問題が発生する。彼女の補佐役である副委員長の抜擢が困難になってしまう事だ。

彼女を委員長にしてしまえば副委員長の事を置いていってしまう可能性も考慮した結果、俺は副委員長に彼女を推薦した。

先生には俺から推薦した事を言わないで欲しいとは伝えたが…。


何はともあれ今日は一人で帰宅、になりそうだ。

上坂に一言声をかけたい…けれどそんな勇気など俺には持ち合わせていなかった。

一人で下足場に向かい自分の靴を取り出す。


「お?凪じゃん」


「…和人。今日はもう部活終わったのか?」


「それがさ〜今日うちの顧問が練習中にブチギレて途中で帰ったから、俺らも帰ろうぜ〜ってなって」


「マジか」


「っふ。まぁ運動部に限らず部活ってのはそう言う事もあんだよ。俺は今日疲労が溜まってるせいか練習の集中力切れてたし早く終わって丁度良かったけど」


顧問が練習を投げ出していいのか?部活動をしていた事がない為、そう言うのがよくある事なのかも分からないが…。


「俺に部活動なんて絶対無理だな…」


「そうか?割とお前体力テストは結構いいじゃん。運動部でもないお前がシャトルラン100回超えた時は俺らもビビってたし」


「……そうだな」


「…?なんか今日元気ねぇだろ?」


「いや…そんな事」


「飯…」


「え?」


「今から飯食いに行かね!」


珍しく和人からご飯に誘われた俺は少し心が軽くなった気がした。


「行く」





続く。


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