To you
脇目も振らず一生懸命に走り職員室の近くに着いた。
パッと見た感じ誰かいる雰囲気はなく、本当に上坂がいるのか疑うほどだった。
そうか…先生に呼ばれているとゆめが言っていたから既に職員室の中にいる可能性もあるな。
外からじゃ職員室の中の様子は見えないし、だからと言って特に用もなく職員室に入る事は出来ない…。
「少し待ってみるか…」
だがよく考えてみると上坂が先生に呼び出しをくらうとは珍しい気がする。彼女は授業や課題を真面目に取り組んでいる。きっと、模試の成績も言う事なしだろう。
そんな天才に先生は何の為に呼びつけたのか…??
十分ほど経っていただろうか。
ようやく、職員室の扉から待ち望んでいた姿が見えた。
「え、蒼井君…?」
上坂はどうしてここにいるのかと言う顔をしている。無理もない。
もし偶然出会ったならば、特に疑問も抱かずに俺を認識出来ただろうが…。
「…上坂さんに用事があって。ごめん。こんな真似して」
こんな待ち伏せをする事は非常識に値する行為である事は俺も承知している。上坂に嫌われるかもしれないしこれからさらに避けられるかもしれない。けれど…
「ううん。それで用事って?」
何だ?上坂の様子がどこかおかしく思う。
視線?表情?動作?何がいつもと違う?
いや、何がじゃない。全て−上坂が別人の様に見えているみたいだ。
周囲を気にし、声が震えるのを防ぐ様に暗く小声で話している。
やはり…何かあるんじゃないか?単に俺は上坂に嫌われたのだと思っていたが…こんなにも態度が変わるなんて何か他の理由も疑うべきだ。
「先生に何で呼ばれ−」
「あー!上坂さんじゃん!それと…蒼井、凪くん!なになに〜?二人でこんな場所で何してるの〜?」
俺のセリフをわざと遮り、俺達の間に踏み入る乱入者がやって来た。
昨日一方的に名前の確認を迫ってきた金髪女子とその連れが2人ほど後ろにいた。
俺と上坂との少し気まずい空気など気にもせずエンジン全開にしてこちらを見ている。
「……」
「て言うか君、誰?」
上坂は聞かれても全く答えようとせず目を瞑っていた。
昨日は遊びに誘われていたのもあったし、俺以上には仲が良いのだと思っていたのだが…。
「そうだよね!蒼井凪くんとは違うクラスだから分かんないよね!」
「私は真帆!まーちゃんとかって呼んでもらって構わないよー」
こんなにも太陽の様に熱く輝いている…ザ・陽キャ。俺が一番苦手としている生き物だ。俗に言う一軍女子である。
一軍女子というのは相手のことをなどお構いなしに自分の考えを尊重する生き物らしい。
げんに担任の先生へのプレゼント資金で1人○○円用意してねーと勝手に俺達の承諾なしに決めたり集合写真を撮る時の決めポーズを強制されたりとトラウマでしかない。
「真帆さん。俺達今、話をしてたんだ…だから上坂さんに用事があるなら後にしてくれないか」
「…そっか。話をしてたんだね!ごめんねー何か割り込んじゃったみたいで」
「…してません」
「−え?」
黙り込んでいた上坂の口から理解し難い言葉が聞こえた。
俺は言葉の意味を考えるよりも先に一つ言葉を漏らしていた。
「…私は蒼井君とお話をしていた訳ではありません…失礼します」
「…!!ちょ、ちょっと!待って上坂さん…」
もう嫌だ…上坂が俺から逃げる様に去っていく姿を見たくない。だから、必死になり上坂を呼び止めようと声をかけた……けれど、足を止める事なく俺の前から姿を消した。
「あーあ。行っちゃったね……」
何とも思っていない、どうでもいい事の様に言う真帆を見ると、どこからか怒りが湧いてきた。
「…なぜ邪魔をした」
「…ふふ。何言ってんのよ。邪魔何も、上坂さんが自分でキミとは話してない〜って言ってたじゃん」
「それは…アンタがそう言わせたんじゃないか…?」
何も証明できる根拠はないが、上坂の声音や表情から、思いがけず原因を目の前にいる真帆にぶつけていた。
「私?心外だな〜。私は上坂さんの姿が見えたから話しかけに行こうとしてたけだよ〜そしたら男の子と話してるのかなって思って少し気になって来ただけだよ!」
「男の子と話していたから…?それだけの理由でどうして気になる?誰が誰と喋ろうがお前には関係ないはすだ」
「…蒼井凪君って女心分かってないよね。友達が私の知らない男子と話してたら色々と気になるでしょ〜?」
女子というのはそう言うものなのか?俺には分からない。当たり前だ…俺は女子ではなく男子なのだから。
たとえ俺が数少ない女子友達が他の男子と話している姿を見たからといって駆け寄ろうとは思いもしない。
「…そうなのか」
「そうなの!」
「…けどお前は今、上坂さんが男の子と話していたからと言ったな?だがどうだ?お前からの質問に上坂さんは俺とは話などしていないと答えた」
「何か…矛盾していないか?」
「……君。しつこいよ?揚げ足取りをするのは構わないけれど…そんな事で自分の欲求を満たして幸せ?」
「何言ってんだよ…」
「ふふ。どうしたの?そんな怖い顔して…図星で何も言い返せないって顔、してるね!そんな〜女心の分からない惨めな君に1つ忠告」
「上坂さんは君の事が嫌いだよ」
「根も葉もない事言うなって顔してるね〜」
「でも、残念…はいこれ」
『私…凪君の事が嫌いで…出来ればもう話しかけて欲しくないんです』
「って事だから。相談受けてたんだよね〜彼女から。はい!忠告終わりー。それじゃね!!」
「……」
真帆がポケットから取り出したスマホには確かに俺を拒絶する上坂がいた。スマホからの音声で多少粗さはあるが…間違いない本人の声だった。
俺は勘違い…をしていたのか…。
高校生活…漫画やアニメと違ってクラスの端っこにいるボッチは万年クラスの余所者扱いされたまま卒業するんだと思っていた。卒業アルバムを取っておくほどの思い出などないまま…。
けれど、夢中になって机に向かう君に出会い…初めて興味という感情が生まれた。
そんな君を目で追う中で、仲良くなりたいと少し思っていた。
そう…俺は偉大な君と『友達』になれた事が凄く嬉しかったんだ。誇らしかった。
だから…今とてつもなく、
「苦しい」
結局友達だと思っていたのは俺の一方的なものに過ぎなかったと言うのか。
「…せめて…直接言って欲しかった」
直ぐに諦めがつくものではない。
失恋…とは違うが大切なモノが奪われた…いや、何と言葉で表現すれば良いのだろう。
けれど、…あれだけ上坂は勉強に集中しているって言うのに、友達なんてお荷物にしかならないよな。
最初は愛想よく対応してくれたのは俺と会ったばかりで社交辞令の様なものだったんだろう。
ただ今はもう、クラスの余所者扱い受けてる俺と話している所を余程見られたくないのだろう。
それに、男子からも人気だと言われていたぐらいだ…俺よりもカッコよくてコミュ力も高く、勉強にも長けている生徒に告白でもされたのだろう。
……。
…。
前も言っただろう?
この胸の空虚感なんて、少し月日が経てばいつの間にか埋め合わせされてるんだよ。
俺には体育祭準備が残っている。
何もかも感情を殺して俺はグラウンドへ向かった。
続く。
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