夢の中
良い知らせと悪い知らせがあると言っておきながら結果的にどちらも良い事じゃないか、と言うシーンを見た事があるが…。
残念だが、陽翔からの真剣な眼差しを前にそんな事はありえないと悟ってしまった。
まずはどちらかを選ばなければならない。
どっちが良いのか?やはり、先にハッピーエンドな方を聞いて気分を上げその後にバッドエンドを受け入れた方がいいのだろうか?
いやいや、最後に暗い気持ちになるぐらいから先にバッドエンドの方を聞いた方が……。
「分かった…先にハッピーエンドの考えを聞かせてくれ」
「了解…ハッピーエンドの考えってのは誰にでも思いつく事かもしれないけど、気になっている子Bさんが普段は内気で誰とも自発的に関わろうとしないにも関わらず相談者Aさんには愛想良く振る舞っていた…けれどいつの間にそっけなくなった…。それはBさんがAさんの事を異性として意識してしまい、恋愛に慣れていないBさんはAさんと話そうとすると緊張してしまい…」
「冷たくなってしまったって事か?」
「そうだね。予備校のチャーターさんも言ってたよ。好きな人を目の前にすると目も合わせられなくなるって」
「…どうして好きな人を目の前にすると目を合わせられなくなるんだ?だって好きな人が目の前にいたら逆に話したくなるんじゃないのか?」
陽翔はやれやれっといた顔をしている。
俺は別に思った疑問を投げかけただけなのだが…。陽翔には分かってもらえないらしい。
「はぁ〜。凪は、本当素で言っているのか時々分からないよね。こう言うのを好き避けって言うんだよ」
「好き避け…」
相手を好き過ぎるが故に起きてしまうのだろうか。確かに好きな有名人を目の前にすれば平然と話しをする事は難しく…なるほど。そう思うと目を合わせるのも一苦労かもしれない…。
「ま、それがハッピーエンドな考えかな。嫌われたんじゃなく実は好意を持たれていたって事」
「最後の最後に大逆転したかの様な感動的な結末だな…」
「そうだね。僕としてはこう言う結末なら嬉しいんだけど…もう一つのバッドエンドの考えは…」
あれから、俺は黙々と体育祭準備に取り掛かった。
そして、作業時間残り半分になったところで休憩時間に入り俺は別の場所に移動した。
設営係は現在三ヶ所に分かれて作業を行っている。グラウンド組と教室組、学校の玄関組の三つである。とりあえず俺は教室組の方へ向かう事にした。
「……俺は気にしすぎなのか」
陽翔から言われたバッドエンドな結末、和人から言われた言葉があまりにも似ていて寒気が走った。単なる偶然だと信じたいが…信じた所で起きてしまう事は止まる事なく実際の事になってしまう。
それならば、理由なんかを探すより前に動くのみだ。
吹奏楽部の演奏や生徒指導部屋から聴こえる怒号を耳にしながら俺は教室に到着した。
「上坂さんいる〜?」
なんて大胆な事口にする事など出来るわけもなく俺は教室にいる生徒を横目で見ながら通り過ぎた。
いやいや…流石に無理だ。女子しかいない空間に陰キャでボッチの俺が突然入ってきたらどう思う!?
(あの人誰〜?)
(え、分かんない)
(何か私達の方見てない?)
(うわ、ほんと。それに目つきが気持ち悪いよね〜)
(それな〜。私、不審者がいますって職員室に言いに行こうかな)
(あはは。それいいじゃん!)
無慈悲に掃除機によって吸い取られるほこりたちの辛さが分かる気がする。生まれたいと言う願望なく生まれ、その元凶である人間に最終的に処理され……ほこりよお前達も辛いんだな…。
俺ならば君たちの事を理解できるよ……。
話が逸れてしまったが結局何が言いたいかと言うとそれほど辛いと言う事だ。
俺達は同じ人間…にも関わらず学校内、教室内には確かなカースト制度が存在している。
超進学校は分からないが大抵階級というのは生徒からの人気度で決まる。頭の良し悪しでは決まらないのが大抵のことだ。
コミュ力の低い俺は必然的に仲間=友達、がおらずクラス内の発言権は弱く、階級も自然に最下級に位置付けられる。
やっぱそんな俺にも接してくれるだけ佐藤はいい奴だったんだな〜…。
「あの…さっきからずっと教室の前通ってるけど何か用かな?」
「…!?」
思わず飛び跳ねてしまう程驚いてしまった。
もしかして…本当に気持ち悪がられてしまったのか…それもこれから後数日間顔合わせをするであろう陽キャが多数在籍している準備組メンバーだと言うのに…。
どうやら俺の残りの高校生活は学校に通う事さえ危ういかもしれない。
……。
…。
「あのー?話、聞いてますか?」
「え…っと。人間を探してて…このくらいの大きさデ、ふさフサシテテ…エート…」
風船の中に破裂しそうなほど溜まった水に針が刺され勢いよく溢れ出る様に目の前の彼女は笑っていた。
「ふさふさって、ワンちゃんでも探してるんですか?」
こんな優しい反応が返ってくると思わず、少し嬉しい気持ちになった。
「いやーちょっとテンパっちゃって…その、俺と同じクラスの上坂汐音って人を探してるんだけど…」
「上坂…汐音?あー私知ってるよ。あの、綺麗な子だよねー。可愛さと綺麗な見た目を兼ね備えた子で今男子からも人気だよねー。もしかして!君も上坂汐音って子を狙ってるのー?」
「いや…そう言う訳じゃないだけれど…」
話の情報量が多くて混乱してしまっていた。
今男子から人気だと?そんな事俺は聞いたり見たりした事ない。現に、上坂が他の男子から人気だとしても俺は、男子と話している姿を見た事がない。
目の前の半分意識を夢の中に置いていそうな彼女のでたらめだと思うのだが…。
少し、ほんの少し気になる。
「あの…今男子から人気があるって言ってたけれど、それって本当なの?」
「えー?本当だよ。上坂汐音しか勝たん!って、みーんな言ってるんだよ〜。おかげで他の女子達は少しピンチ!へへへ〜」
…なんなんだこの子は。同じ日本語を使っているとは思えないほど言っている事が理解出来なかった。
そもそも、しか勝たんってどう言う意味だ?上坂は誰かと勝負でもしていると言うのか。それに、女子達がピンチになりへへへ?
この子の話をまじめに意訳しようとすると頭がパンクしそうになる。
「そうなのか…それだと君も今はピンチって事なの?」
「…ん?私はね〜ピンチこそチャンスだと思うの〜。だから、私は甘いパンケーキをたくさん食べて、ダイエットしなきゃまずい!ってピンチな状況を作り上げて〜沢山運動するの!」
「た、確かにピンチこそチャンスだよなー……」
駄目だ…この人とは話のベクトルが全く違う様だ。
てっきり困り果てていた俺に救いを差し伸べてくれた優しい方だと思っていたのだが…まともに話す事さえ難しそうだ。
「俺はそろそろ行く所があるから…っえ!?」
「むー。もう少し話そうよ〜。私、君と話すの楽しいから逃がさないー」
この場から立ち去ろうとすると俺の左手を小さな両手で捕まえる様にぎゅっと握りしめてきた。
「ちょちょっと…何してるん…すか」
女子耐性が皆無な俺は変な口調になってしまい、もはやいつも通りの俺を貫き通す事は出来なかった。
「捕まえたー」
「ちょっと離して…下さいよ」
「お兄さん!2時間飲み放題!1000円ポッキリでいいよ!今ならこんなに可愛い女の子付きっすー」
「キャッチしないで下さいよ…」
「ほー君賢いねー。キャッチのモノマネと私が今君を物理的にキャッチ(捕まえる)してる事を掛けているのかー面白いね〜」
「何も面白くないから……」
きっとこの子は半分の夢の世界でキャッチの夢でも見ているのだろう。まだツッコみたい所は多々あるが面倒なのでスルーしておく。
「ほんと、俺行く所あるから…」
ここに上坂さんがいないのであれば、早急に立ち去る必要があった。
「分かったよー。上坂汐音って子は少し前に先生に呼ばれてるから職員室に行くーって言ってたよー。はい!」
「職員室か…教えてくれてありが−」
何だ?俺の目をじーっと見つめて、まるで犬が飼い主から餌を貰うのを待ち望んでいるかの様な瞳は…。
「お金なら渡さないからな」
「…もう〜。はい!これでいい〜」
「…!!何を…」
強引に右手を掴まれ目の前の彼女の頭を撫でる様に手を操作された。
何だこの小動物感は…。こうやって男子というのは虜になってしまうのだろうか…って!俺は何を考えているのだ。
今は我慢だ。上坂の情報を教えてくれた対価としてこのくらい受け入れなければ!!
「はい。これでもういいだろ……」
居場所を知ったならば尚更早く行かなければならない。これ以上ここに居続けることはなるべくしたくない。
この子も上機嫌になった事だしもう去ってもいいだろう。
「それじゃ…教えてくれてありがとう。俺は職員室に−」
「ねー。せっかくだから君の名前教えてよー」
「名前…?俺の名前は蒼井凪…これだけでいいか?」
「…君が。蒼井凪……」
「…?あの?」
「あ!ごめんねー。少し眠くなっちゃって…」
何だ?一瞬だが、目の前の子が別人の様に見えた様な…なんて事ある訳ないか。
「せっかくだから君の名前も教えてほしい」
「私の名前ー?そうだね〜名前。今はユメ、と名乗っておこうかな〜」
「そうか。ありがとう、ゆめ!」
俺は名刺交換を終えると急いで職員室へ向かった。
「…お腹すいちゃった。今日は美味しいご飯でも食べに行きますか〜」
続く。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
次回の更新日は金曜日になります。




