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青い春など春ではない  作者: 猫屋の宿
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ざわつき


体育祭まで残り10日。


この体育祭準備期間中は基本放課後は上坂と日常会話を少ししてから、作業を行い、最後に「また明日」と業務的な挨拶をしまた次の日…と言うようにバイト仲間のような距離感になっていた。

さらには、最近は後輩である佐藤と一緒に帰ることもルーティン化していた。

少し前に一緒にクレープを食べたあの日から佐藤の反応が少しおかしくなっている。

何というか…ボディタッチが少し多い…様な気がする。自意識過剰という訳ではないと思うが…佐藤は何も思っていないかもしれないが、俺は慣れていないせいか全く意識していないと言えば嘘になる。

どうせいつものからかっているだけなのだろうが…。


「凪先輩!お待たせしましたー」


「さ、帰りましょ?」


もう夜遅いと言うのにどうして彼女にはエネルギーが余っているのだろう。俺は既に活動限界を迎え学校のベンチでもいいから横になりたい気分だ。


「そうだな」


「もう…元気ないですね〜先輩眠いんですか?」


「ああ。今すぐにでも寝たい」


「それじゃあ…私が膝枕…してあげましょうか?」


ゆっくりと振り返り、上目遣いで俺に投げかけるように言った。

唐突に理解不能発言をする佐藤のおかげで眠気がどこかに吹っ飛んでいった。


「お、お前…何言ってんだよ…」


「私は冗談で言ってるんじゃないですよ。先輩なら…」


虜にされそうな甘えた目つきに飲み込まれそうになるほど巧みに相手を陥れようとする手法に女子の怖さを知った。


「ばか言うな。て言うか、佐藤の方は準備は順調なのか?」


「むー……順調だし」


あからさまに話題を変えた事に拗ねているのか強い口調で言い返した。


「そうか。ちなみに、佐藤は何の種目に出るんだ?」


「先輩気になるんですか〜?」


「ああ」


「ああって本当に気になってるんですか…?……私は紙に書いてる内容に合う人を連れて一緒にゴールするやつです」


「…借り物競走か…あれって本番までどんな内容か分かんないから怖いよなぁ…」


「そうですか?私は楽しみですよ。だってよくあるじゃないですか〜。紙を開けば好きな人って書かれて、女の子はドキドキしながらその人の元へ行き…中々勇気が出ずにもたついていると男の子が手を引っ張ってゴールへと向かうんです……はぁ楽しみしかないじゃないですか!」


「そんなマンガ世界のお約束的な展開が現実に存在する訳ないだろ。まず好きな人がそもそもいない場合はどうする?あんなのはあくまで漫画やアニメの中の架空の話で現実は身長が一番高い人とか担任の先生と言った該当者が必ずいる様な内容なんだよ」


そうでないと後々面倒な事になる恐れがある。曖昧で抽象的な内容だと、競技終了後に紙に書かれた内容を問われた時に何か起こる可能性もあるからだ。

例えば、好きな人という内容が本当にあったとすれば?競技終了後に内容を問われ、その後はすぐに拡散され場合によっては目をつけられてしまう恐れがある。


「先輩って現実的ですよね〜。考えてみて下さいよ。好きな人と無条件に手を繋いで走れるなんて幸せじゃないですか?」


「そもそも俺は恋愛に興味などない。ってか佐藤なら、そんな事ぐらい知ってるだろ〜?」


「……知ってますけど…まだそんな事言ってるんですか?もう高校生三年の夏に差し掛かろうとしているのに…勿体無いですよ」


「高校三年生の夏に差し掛かろうとしているのならば尚更恋愛に興味なんて持てるはずがない」


「でも、前に私が先輩と会った時に話していた女の子は友達…なんですか?」


前に会った時か…。

あの時も佐藤に友達なんですかと聞かれ俺は少なくともあの場に気まずい空気が作られていたのを鮮明に覚えている。


「ああ、友達だよ」


「…そうなんですか…。先輩って女の子の友達いらしたんですね…」


「え、ああ…。ってまた俺の事からかおうと……」


佐藤の顔が目に映った瞬間、続きの言葉を吐き出す事が出来なかった。


「…なんで泣いて−」


「…嬉し泣きですよ!先輩に友達が出来て嬉しくて……」


「嬉し泣きって…別に泣くほどじゃ…」


「あとすみません!私…親に買い物頼まれたので少し寄り道して帰るのでこの辺で…」


「買い物って……分かった。気をつけて帰れよー」


足早に立ち去っていく姿は不覚にも俺から逃げているように見えてしまった。これ以上声をかける事が出来ず、佐藤と別れた。

本人は嬉し泣きと言っていたが…それを快く受け入れる事が俺には出来ない。何だか分からないモノが俺の思考を錯乱させている。

そんなに俺に友達が出来たことに対して、嬉しくて泣くほどの思い入れでもあったのだろうか。

たしかに佐藤は委員会の際、顔を合わせる度に友達いないいじりを俺にしていたが……なるほど。

俺に友達が出来るとこれから先このいじりが出来なくなってしまうその悔しさから涙が出たのか。

少し納得のいく答えが導き出す事が出来、重くなっていた胸の内が軽くなったような気がした。

佐藤がそんなにもあのいじりに思い入れがあったとは意外であった。




「さぁ、体育祭まで残り10日をきりました。本番まで頑張ってやり抜きましょう!」


今日もいつもと変わらない体育祭準備が始まった。

ひとまず今の俺のやるべき事は勉強よりもこの体育祭に全力で取り組む事にする。

気が付けば俺はこの空間に慣れていた。初日は陽キャばかりの俺には息をする事さえ難しかった地獄の様な場所であったが、天国…とは言えないもののここにいる皆んなは同じ目標に向かって頑張っている同士だと思うと苦痛には感じなかった。


「あのさ、あんたが蒼井凪って言うの?」


突然、聞いた事のない声の持ち主に話しかけられて驚きが隠せず少し動揺していた。


「え、ああ。そうだけど」


相手は同じ三年生だろうか?長く伸びた金色に染まった毛先をくるくる指で巻いては解いてを繰り返している。

話し方から俺の苦手なタイプだとすぐさま判断しできた。


「ふーん」


「何ですか?」


「いーや。何でもない、じゃぁね」


一体、何だったんだ…。

この言葉以外に浮かぶものは無かった。

俺の名前を確認している様であったが…と言うよりそもそも相手は俺の名前を知っていた。こんなクラスの端っこにいそうな人まで普通は覚えてくれているはずないと考えると……



続く

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私の通っている学校の考査が終了したので今週より通常通り投稿していきます!!

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