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青い春など春ではない  作者: 猫屋の宿
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クレープ



今日の佐藤はいつも以上に意味不明な発言をする。

けれど、いつもなら何冗談言ってんだよと軽く受け流していたかもしれない佐藤の言葉に俺は軽く「いいよ」と承諾してしまった。佐藤耐性がついてしまったのだろうか…?

心の底で佐藤ならそんな事を言うのではないかと勘づいていた俺がいたのかもしれない。


「いいよ。で…どこに行くんだ?」


「え?いいんですか?てか、先輩適当すぎません?」


予想していた反応とは違って俺が照れたり喜んだりしなかったせいか、不服そうな表情を浮かべている。


「どうしたー?行かないのか…デート」


佐藤は俺が承諾してくれた喜びと、俺の反応があっさりしていて納得のいっていない感情が交錯している様だった。


「何…先輩の事だからてっきり慣れていないかと思ってたのに……」


「行かないなら帰るぞー」


「あ!行きますから!」


後輩の頼みを理由もなしに断るほど酷いやつじゃないからな……と言うのは建前で…本音を言うと今すぐにでもお家に帰りたい…。

え?だって俺、女子耐性皆無だし、そもそも委員会時と違って共通の話題がある訳でもないこの状況でどんな会話をしていればいいのかも知らないし。

なんか佐藤は少し楽しそうな空気を出してるけど?その分期待されちゃってるって事だよね…。

無理に決まっている。そう…その期待の分だけ俺に呆れる姿が容易に浮かぶ!


「それで…佐藤はどこに行きたいんだっけ?」


「えーと……先輩お腹空いてません?」


「そーだな。ずっと作業していたもんな。夜飯の時間にはちょうどいいな」


「ですよね!ではでは、私がエスコートしてあげますので凪先輩はおとなしく着いてきて下さい!!」


「そりゃありがたい」


いつも以上にご機嫌な様子を見て最悪のパターンは免れたと思うと緊張が解けて胸を撫で下ろした。


「ちなみにこっちの方面って…何があるんだよ?」


「え!凪先輩知らないんですか!?」


『凪先輩こんな事も知らないなんて…さては女の子と二人きりのデートに慣れている感を出しておきながら実は未経験なのでは!?』と、佐藤に疑われたかもしれない。


「あー、いや…ごめんごめん。ちょっと思い出せなくてな…ここ数ヶ月は勉強ばかりだったからかもな…」


咄嗟に出た、空気よりも軽い嘘を吐き出した。


「確かに凪先輩は受験生ですもんね。と言うか…凪先輩って受験勉強とかだるいわー、面倒だわーって言ってそうですけど?」


「最近は、割とやってるよ。キツイけどな〜…でも…何か勉強ってどんな小さな目標でもあれば鉛筆握るぐらいは出来るもんよ」


嘘に嘘を重ねてしまえば、いつか何が本当で何が嘘なのか混乱してしまい、会話が噛み合わなくなってしまうかもしれない。虚実を混ぜていい感じに会話を行う。これが本日の俺の使命である。


「先輩、鉛筆握るだけでは駄目ですよ。私、こう見えて!勉強する真面目ちゃんですので!」


「…こう見えてとか言っちゃうあたり佐藤っていいよな」


「え?何ですか急に!!」


車通り沿いの歩道を歩いているが、街灯が少ない為学校ほどはっきりとは見えないにも関わらず佐藤の横顔が赤らめているのが分かった。


「褒めただけだよ」


実際のところ佐藤は、生意気なくせして定期テストですは五本指に入る程の頭の持ち主である。

去年の学年末テストでは満点を見事に取った教科があったとか言っていた気がする。


「凪先輩って意地悪ですよね〜」


「その言葉そのままお返しします」


「いや!私は別に意地悪なんかじゃ…」


「なに、間に受けてるんだよ。十分佐藤は意地悪な後輩だよ」


少なくとも俺にとって意地悪な後輩は褒め言葉であった。変に気を使うぐらいなら少しおちょくってくれる後輩の方が何倍も居心地が良い。


「嬉しくないんですけど……」


しかし、佐藤は不服そうにこちらを睨んでいた。


「あ、先輩!ここです!!」


佐藤が指差したお店はどこにでもあるハンバーガーを主に売っているチェーン店であった。佐藤自身が案内すると言っていたので、俺の知らない大人の雰囲気のあるお店にでも行くのかと心構えていたんだが…。


「…先輩やっぱり私と一緒にいるの嫌でしたか?」


俺が黙っていたせいで佐藤が良くない方向に勘違いしてしまっていた。


「違う違う。てっきりレストラン的な大人のお店にでも行くのかと思っていたから」


「大人のお店!?先輩ど、ど、どんな想像してるんですか!?」


「あ、いや違う!!大人のお店ってのはーそのー…そう!回らない寿司屋とか!あーいうお店ってこんな冴えない男子高校生だけだと行きにくいじゃん?」


『緊急非常事態発生。目の前の後輩の誤解を最優先に解決させろ。』

脳からこんな命令が伝えられた。

今のままでは俺は彼女でもない後輩からデートに誘われただけで、大人のお店に行く気満々になっている先輩になってしまう。

こんな事が周りに広がれば…友達、先生……上坂からも信頼だけでなく人間としてと扱ってもらえなくなるかもしれない!!


「誤魔化しても無駄ですから!私はただ、ただ先輩と一緒に……」



「クレープ美味しかったね〜」

「この季節にイチゴって珍しいけど、それがまた最高だよね〜」

「ほんとそれな!また食べ行こうよ!」



「え…ちょっと!?」


突然佐藤が俺の手を掴んで、お店の出入り口の隅に隠れたいのかしゃがむ様に言ってきた。


「佐藤?どうしたんだ…?」


小声で周りに聞こえない様に言ったが、佐藤には聞こえていないのか反応がなかった。

ふと、佐藤が見ている方向に目を向けるとそこには俺たちと同じ制服を着ている女子が三人程いるのが見えた。

ここのハンバーガー店から出てきたのだろう。このお店のロゴの入った袋を持っていた。

もしかすると、佐藤の知り合いなのか友達なのだろうか?

どちらにせよ、この状況を見られたくなかったから起こした行動であるのは間違いない。


「ねぇ先輩。巻き込んでしまってごめんなさい…」


俺はきっと忘れないだろう。斜め後ろから見た表情ではあったが、俺は全く別人の佐藤愛佳を見ていた。その表情から佐藤にとって今、深刻な事態が起きている事を肌で感じ取れた。

学校での誰とも親しく接していて鮮やかに輝いている佐藤ではなかった。映っていたのは孤独に包まれた色味の失われた佐藤だった。

何か事情というのがあるのだろう。変に深掘りしようとする意味もないしな…。


「後輩のミスは先輩のミスだからな。佐藤が気にすんな」


「凪先輩……」


それに、人には必ずしも表と裏がある。それはもちろん俺も同じで誰かに隠したい事、知られて欲しくない事などたくさんある。

しかし、俺は勝手に決めつけていた。彼女は学校で陽気に振る舞い、皆んなから慕われていてさぞかし学校生活が充実して送れているのだろう…と。

そんな彼女に誰にも知られたくないと思う程のもの等ある訳ないと。

この考えは非常に浅はかで彼女に対して失礼にあたいするものであった。

何か声をかけてあげるべきだろうか……。

ふと入り口の方を見てみるといつの間にか三人組女子生徒の姿はなかった。


「ほら……クレープ、食べに来たんじゃなかったか?」


しゃがんでいる佐藤の目には光るものが浮かんでいた。

どうして、彼女がここまで大変な思いをしているのか、さっきの三人組とどのような関係性なのか、そんな事を俺が知る権利は持っていなかった。

なんせ俺は彼女の事を理解していた気になっていただけの勘違い野郎だ。

無言で佐藤に手を差し伸べ、そっと俺の手を掴んだ。


「いただきます!ん〜美味しい〜」


「ハンバーガー店で、クレープ目当てで来るってのも珍しいな」


「凪先輩は、分かってませんねぇ。いまJKのトレンドがこのクレープ!なんですよ!」


「そう…なのか。それにしても、よくそんな甘さの塊を一人で食べれるな」


「塊って言う言い方やめて下さい。この生クリームとイチゴの相性抜群に良いんですから」


「そう…か」


「あの…凪先輩。笑わないで聴いてくれますか…」


頬が零れ落ちてしまいそうな笑みを浮かべながらクレープを小さい口でかぶりつきながら声のトーンを落として聞いてきた。


「どうしたの?」


「実は私、人見知りなんです。先輩にはどういう風に私が映っているのかは分かりませんが、人と話す時って会話を途切らせない様に話題考えたり、相手の機嫌伺ったりで色々と神経使うじゃないですか。それがとても苦手なんです…」


「そうだったのか…何だかそれって俺と似てるな」


「え?先輩と一緒…??」


「え、むしろ今まで気付いてなかったの…?」


「先輩は、人見知りってよりもそもそも人と関わるのに興味がない種類の人間なのかなって思ってたので」


「ま、まぁ、間違っちゃいない…けど、学校にいたら1人1人違う考え持ってる人間ばっかなんだから、佐藤がいま感じている事なんか当たり前でむしろ全員と話続いたり仲良くできたりする方が凄いと思うぞ」


「そうなんですかね…」


「ああ。そうだ。だから、俺は数少ない気の合う人だけど付き合う事に決めてそれ以外は切り捨てた。そっちの方が楽だしな…」


こんなにも本音をポロッと漏らしてしまうのはなぜだろうと、佐藤に伝えながら思った。


「でも、佐藤は苦手な中でも俺と違って切り捨てずに悩みながらも立ち向かおうとしているんだな。偉いぞ〜」


俺の実体験と慰めの言葉が佐藤に届く事はないと思うが、目の前で美味しいクレープを食べながら悲しいか細い声音で話している姿をみると伝えられる事は伝えなきゃと思った。


だが、俺は佐藤と違って人見知りどころかもっとタチの悪い人嫌いであるが…話題を考えるとか相手がどう思っているとか気にしなくても良い部分を過剰に意識してしまう。


でも大体そう言うのって自分が相手よりも劣っているとか釣り合ってないとか、自分に自信を持っていないからだろう。


だから、相手は普通に話したいだけでもこちらからすると自分よりもポテンシャルの高い人だからちゃんと楽しんでいるんだろうか、とかウザがられてないか、とか…自分よりも相手ばかり気にしてしまう。


そう言う生活をしていたせいか、一つ学んだ事がある。


言葉はどんな治療薬にもなればどんな武器にもなる事だ。


例えば「ありがとう」と言われ大半の人は喜んだり和やかな気持ちになるだろう。

けれど、このありがとうと言う言葉さえも小馬鹿にした様な口調であったり、薄っぺらい言葉−本音でなかったり、その場限りでしかなかったりそういうのが伝わると相手を傷つけてしまう武器に変わってしまう。


言葉には責任を持たなければならない。


「…凪先輩…ありがとうございます…慰めてくれたついでに頭撫でてください」


「それは無理」


心配とは裏腹に佐藤はすっかりいつものテンションに戻っている様子だった。


佐藤も落ち着き、俺も頼んでいたハンバーガーを手に取る。

よくよく考えれば後輩とは言え女子と放課後こうして二人…というシチュエーションは周りからはカップルと認識されていてもおかしくないのではないか…そんな事を考えていると変に意識してしまいそうになっていた。


「先輩?どうして顔赤くしてるんですか?」


「え?あー…ちょっとここ暑くて」


必死に誤魔化そうと、恐らく、いや絶対に気付くであろう薄っぺらい嘘を吐いた。


「あれですか?もしかして先輩…私に見惚れちゃいました?」


「ばか。俺が年下の後輩に見惚れる訳あるか」


「え!?先輩って年上のお姉さんが好きなんですか!?」


「いや…別に年上が好きって訳でもないけど…」


「ふふ…と言う事はやはり私に見惚れていたんですね〜」


「だから…どう、して…そうなる」


佐藤の顔を見た途端、身体の体温が上がっていくのが分かった。

このあざとい顔に、いつもと違った佐藤の一面に俺は照れていた。


「先輩って…」


「ん?どうかしたか?」


「いいえ!何でもないですよ〜。ねぇ、先輩これお返しです」


「え?お返しって…」


佐藤は食べかけのクレープをこちらに差し伸べようとしている。

きっと俺に食べさせようとしているのだろう…しかし、これを俺が食べてしまうと間接的ではあるが…キスと近い行為になってしまうのではないだろうか…。


「クレープ…先輩美味しそうに見てたんで。流石に後輩からのアーンを拒否する程酷い先輩じゃないですもんね〜」


「…いや…流石にな…」


「うん。やっぱり−」


何だ…この甘さは。気づけば口の中で生クリームとイチゴで一杯に甘味が広がっていた。

一瞬の隙だった。返答に悩んでいる間、そして返答しようと口を開けた瞬間だった。


「どうですか?美味しいですか?」


「…ああ美味しいよ。ありがとな」


「…先輩…好きです」


「っは!?」


「え、こんなに美味しそうに食べてくれたのに嫌いなんですか!?」


「あ、クレープの事ね…こういう甘いスイーツは避けてたからさ、実際に食べて見るとすげえ美味しいんだな」


「ですよね!!先輩、また一緒に行きましょうね!」


驚きのあまり、一瞬呼吸をする事さえ忘れてしまっていた。

断片的に聞き取ったせいで、変に勘違いをしてしまいそうになっていた。

先輩クレープ好きですか?と、聞きたかったのだろう…危うく今後の人生に支障をきたしてしまうほどの勘違いを犯してしまいそうになっていた。


次行く時は、クレープを頼もうと思った。






続く。










最後まで読んでいただきありがとうございます!

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