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青い春など春ではない  作者: 猫屋の宿
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サボり



どうしてこんな場所に上坂が現れるのか検討もつかなかった。


「あーいや…少し気分が悪くなって…休んでたんだ」


「…そう…なんですか。てっきり蒼井君の事ですからサボってるのかと思ってしまいました」


「ははは…俺はそんな皆んなが一生懸命に働いてる中一人休んだりはしないよ〜…」


この薄っぺらい嘘は上坂にはお見通しだろう。俺の言葉を聞いても怪しんでいるような納得のいかない表情をしている。


「と、というか上坂さんはどうしてここに?」


これ以上怪しまれないようにとりあえずこの会話を終わらせ、話題の矛先を上坂に転換した。

…が、俺の質問に上坂は少し動揺しているようだった。

俺と目を合わせようとせず、こんな上坂の表情は今みで見たことがなかった。


「…上坂さん?大丈夫?」


「は…はい!大丈夫ですよ?それにしても今日は少し暑いですね〜」


「え?あ、言われてみればここ最近肌寒かったですもんね〜…」


どちらかと言うと今日はここ数日と比較して体感でも分かるほど寒いと思う…今日だって朝は布団から出るのに抵抗があったぐらいだ。

怪しい…実に怪しい。ここに来た理由を聞かれて欲しくないオーラが半端じゃない。何なら私に話しかけないでくれという雰囲気さえ感じてしまうほどだ。

いつもは動揺とは真反対の予期せぬ事態が起きても何事ないかのように振る舞っているあの上坂がこんな事で慌てるというのは何かあるに違いない。


「ですよね!ここの中庭知ってますか?春になるとこの桜の木が咲いて上から見ると綺麗なピンク色で一杯になるんです。今この桜の木たちは来年また数日咲く為だけに1年かけて準備しています。私はこの一年頑張って来年咲く桜に祝福されたいんです」


「たしかに桜を見て暗い気持ちになるのは嫌だな…」


「だから…勉強して勉強して受験に勝ってみせます。きっとその時見る桜は人生で一番綺麗に違いありません!」


熱意のこもった言葉はこれまでもこれからも努力し続ける事を決意している事を表していた。


「……で、どうして汐音さんはここへ?」


「!?」


危うく俺は上坂の巧妙な罠にかかる所であった。

もちろん普段の俺ならばこう言う時は感動しているに違いないが、今日の俺はこの理由を聞かずには次の話題には進めなかった。


「え…その…笑わないでくれますか?」


ようやく諦めがついたのかここへ来た理由を教えてくれるそうだ。

でも…どうしてだろう。

上坂の表情は今から告白でもするかのような好きな人が目の前にいるかのような…何だかただ事じゃないのは分かった。

…もしかすると?

これは本当に言葉の通り告白をするんじゃないだろうか?

そう…この場にいるのは俺だけである。

つまり!そう言う事という把握でよろしいだろうか。

よくよく考えてみると、こんな人気のない場所で二人きりなのだ。

側から見ると彼氏彼女と見られてもおかしくはないし、少なくとも仲の良い男女と捉えてしまうのは自然な事だ。

上坂は勉強熱心ではあるが大人さと可愛さを持つ恵まれた容姿である事からそういう経験もあるに違いない。経験があるなら知識もあるたろう。

二人きりでいつも冷静な彼女が動揺している。

これはもう確定事案ではないだろうか!!


「もちろん。笑ったりなんかしない」


そう言うと上坂は大きく息を吸って吐き、俺の目を見て口を開けた。


「…サボりに来ちゃいました」


「…まじ?」


あー告白じゃなかったかーと過去一番悔しながらも顔には出さず平然さを貫いた。きっとこの後悔は受験に落ちても越える事はないだろう。


「……はい」


上坂は顔を下に向け頷いた。今の彼女は涙が出そうなほど恥ずかしさに襲われていたのだろうか…顔はりんごのように真っ赤に染まっていた。


「…俺も…ごめん!実は俺も体調悪いのは嘘で準備に疲れて…サボってました!!」


キョトンとした顔をして俺を見つめていた…が、段々とその表情が俺を睨むものに変わっていた。


「蒼井君もだったんですか!?」


「ま…まぁ」


「でしたら…私たち一緒ですね!」


満面の笑みを向け心の底から喜んでいた。


何だか不思議な気分になっていた。

誰もいない放課後の中庭で、上坂と話しているこの状況が。


「て言うか…上坂さんがサボるなんて意外すぎてびっくり」


「私にもサボりたい時だってありますよ」


「サボりたい程準備大変だったの?」


「大変…ではないんですけど……他の皆さんとの共同作業に苦戦してまして…」


「なるほどね〜。確かに顔も名前も分からない人ばっかりだもんね」


「…周りは私の事知っているみたいでしたけど…その私の方は何も皆さんの事知ってなくて…」


相手は興味を持って上坂の顔と名前を覚えてくれているのに上坂はそんな相手のことを全く覚えていなかった。その事に悔しんでいるのだろう。


「私、今まで話しかけられても皆さんと同じ様に笑ったり喜んだりする事ができなくて…友達と言うのを作った事がなかったんです。そんな私だから周りもその自然に距離を置く様になって…気づけば私に話しかけてくる人はいなくなってました…」


自分で話しながらさらに辛く悲しい表情になっていく上坂に耐えられなかった。


「でも…俺は上坂さんの友達だよ。今なんてこうして一緒にサボってる仲じゃん。俺は最高に楽しいよ」


「え…?」


目に溜まっている涙を堪えるように俺の顔を見つめていた。


「俺はまだまだ上坂さんのこと分からない事ばかりだし、お話しする様になってまだ少ししか経ってないけど、話していてすごく楽しいし上坂さんって自分じゃ自覚してないかもだけどさ…すげぇたくさん笑ったり喜んだりしてるしもう、その時の表情といえばそれはそれは!」


()()()()()()からさ、皆とも絶対仲良くなれるよ」


「…」


「…」


二人の沈黙を破るかの様に陽翔がこちらに駆け寄ってきた。


「あ!凪!いたいた!もう…急にいなくなってどこに行ったかと思えば…え!?凪がネイビー少女と会話してる!?」


「ネイビー少女…??」


俺と隣に想像し得ない存在がいた事に陽翔が目を丸くして驚いている。


「ごめんなさい。俺、凪の友達やってます陽翔って言います」


「こちらこそ驚かせてすみません。上坂汐音です」



「凪はこんな所で何してました?どうせ、だるいとかきついとか言ってサボってませんでした?」


「いえ。蒼井君は体調が悪いと言っていてここで休んでました。その間たまたま私がここへ寄ったので付き添っていました」


「蒼井君!?…あ、あぁそうなんですね。お手数をおかけしてすみません。ここからは俺が見とくんで上坂さんは仕事の方に戻られて下さい」


「わ…分かりました。蒼井君をよろしくおねがいします」


陽翔が俺を探してくれていたのだろうか。そう感じる様なセリフを上坂に言っていた。

先程までテント設営を一緒に行うていたのだから…急に姿が見えなくなれば確かに心配するのかもしれないが…。

俺は体調が悪い人なのだから、懸命に演技に励んでいる。


「…凪大丈夫?」


俺の体調を気遣ってくれている。これは演技成功ではないだろうか。

完全に騙し切れている。


「…まぁな-」


「って言うと思った?体調悪い演技バレバレだよ」


「え?あ、いやいやマジ体調が良くねぇんだよ」


なんだ?これは陽翔の罠だろうか。あえて演技してるのバレてますよーと言うことを伝え俺にボロを出させようとしているのだろうか。


「はぁ…上坂さんは騙せても俺は騙せないよ?」


「いや!俺は上坂さんを騙しているわけじゃ……」


「ふーん。ね、もしかして…お二人ってそう言う事なのかなー」


陽翔はニヤニヤと含みがありすぎる怖い表情をしていた。


「違うからな!上坂が言っていたたまたま通りかかったのは本当だよ。それだげた。だから…」


「何、必死に弁明してるんだよ。そんなに真剣な凪久しぶりに見たな〜。でも、まぁ上坂さんがそう言ってたならこれ以上は意地悪しないけど!」


「お前なぁ……」


「だって幼なじみの仲でしょ?それに恋愛、さらに凪の!凪の恋愛話なんて今まで聞いた事ないからさ?つい。ちょっとからかいすぎた。ごめんごめん」


「俺は陽翔の恋愛話は死ぬほど聞いたよ。いいじゃん俺たち二人で恋愛の釣り合い取れてるじゃん。だから俺の恋愛話なんていらない」


「そう言ってるけどね?俺からすると凪ってそこそこかっこいいから全くモテないって事はないと思ってるんだけどなー」


「俺の事を好きな人は世界中探してもいないさ。いたら、会いたいぐらいだわ」


俺は陽翔と会話をしている最中何か考え事をしているようなハッキリとしないモヤモヤ感が体を縛っている様だった。

先程陽翔がここへくる直前に俺と上坂との間に沈黙が生じていた。

あの時の上坂はどこか気まずいというか恥ずかしいというか嬉しい?というか感情を読むことが難しかった。

何か変な事を俺は言ったのだろうか?

会話の冒頭は思い出せるのだけれども、その途中から最後までのやりとりがどこかへいってしまった。


思い出そうとしても特別変わった事は言ってない、と思っているが……

思い出す事は到底出来なさそうだった。




続く。















最後まで読んでいただきありがとうございます。

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