下の名前
眠い目を擦りながらカーテンを開けた。
「朝からほんと眩しいやつだな」
既に空高く昇っていた太陽に向かいボソボソと独り言を言っていた。
俺は朝が嫌いだ。一人一人体調の変化やその日の活動などにもよって睡眠の質が異なるというのに皆んな同じ時間に学校へ行く事は理不尽ではないだろうか。
けれど、こんな屁理屈を言っても何も変わらないのだが。
仕方なく重い身体を無理にでも目覚めさせ学校へ行く支度を始めた。
「おはよう。今日は早いな」
「……」
リビングに降りると既に学生服であるセーラー服を着ていつでも準備万端なひなが居た。
「…あれ、母さんは?」
「知らないわよ」
俺に目線をやる事なくひなは冷たい声音で返事をした。
俺に構う事が無駄だと思わせるみたいに。
ひなは俺がリビングに来た途端に学校バッグをからい玄関の方へ向かってしまった。
明らかに避けられてるな……。
「いってらっ……しゃーい」
俺の言葉など聞こえてないかの様に構う事なく玄関から飛び出した。
はぁ〜。昨日はあれだけ笑ってくれてたのにな…。
どうしてここまで俺は嫌われてしまったのだろう。
こんなに嫌われているのに原因が何一つ思い浮かばない。
それとも……よく理由も根拠もないけれど身体が受け付けないパターンのやつか?
かれこれこうして反抗されてもう半年程経つのだ。
もし、そのパターンならばひなに悪い事をしてしまった。俺が無理して近づこうとすればするほどひなにとってはストレスになってしまうのだから。
少し、距離を置くしかなさそうだな…。
朝から辛い現実を知りやるせない気持ちになってしまった。
いかんいかん。今週からは本格的に体育祭の練習も始まるんだ。気を引き締めていかないと!!
一人きりのリビングで気合を入れ直し、朝食は母さんが作ってくれていた料理を食べ学校へ向かった。
「お兄ちゃん?今日の夜ご飯私が作るんだけど…何食べたい??」
「妹の作る手料理なら全て世界一美味しいよ!」
「ほんと?嬉しい!!お兄ちゃん大好き!!」
一人で登校中そんな会話が耳に聞こえてきた。
なにが全て世界一だよ…妹も妹だ。そんな薄っぺらい兄の言葉を真剣に受け止めるな!!あんたは兄に騙されてんだよ!!あーもう!
「羨ましい…」
「よ!…ってどうしたんだー?何かいつにも増して暗くねぇか」
背後から軽く背中を叩かれ後ろを向くと朝から元気そうな和人がいた。
「いーや。ちょっと眠くてな…」
「なるほど…な。そんな冗談に俺が騙されるとでも?」
「いや、冗談じゃない冗談じゃない。マジだ」
「まー眠いのはマジかもしんねぇけど?他にも何かあるって顔してるぜ」
今日の和人はいつにも増して勘が冴えているようだ。
俺の表情で気づいたのだろうか?それとも声?よく分からないが長年付き合いがあるだけ些細な変化にも気づいてしまったのだろう。
「…。和人って姉がいるよな?」
「ああ、いるけど…それがどうかしたのか?」
「姉との付き合いって難しくないのか?」
「付き合い?…昔はよく喧嘩もしてたが最近は全くないな。昨日は久しぶりに出かけにも行ったしな」
順調な姉弟の関係を築いている様で驚いた。和人の性格的に言い合いが絶えないかと思っていたが…姉が大人だったのだろうか?
それと比較し兄である俺は…まだまだ子供だ。
「なんだぁ?お前妹と喧嘩でもしちゃったのかー?」
「いや…喧嘩って言うほどじゃないだけれど…反抗されて会話が全く出来てない…と言うより今では避けられてる…」
「そー言う事かー。そりゃあ思春期ってのもあるだろうし男…いや兄ちゃんからってなるとさ一言一言に敏感になって何か言われたりすれば余計苛立ったりするんじゃないか?」
想像と異なり真面目に答えてくれる和人を見て少し悔しくなった。
和人は俺と違い見た目も精神的にも大人である事が身にしみて感じされられるのと同時に俺がまだまだ幼いのだと痛感させられた。
「なるほど……兄としてではなく一人の男として接していけばいいと!」
「…ん?待て待て…何かおかしいな。男でも兄でも一緒だよ。と言うよりそう…そこに愛があるかが大事なんだ!!!愛があれば…君の心配事なんてチリの様に見えない、気づかないぐらいのものさ」
「愛!?ってお前俺が妹と結婚しろと言うのか!?結婚は…流石に……」
周りの目線が俺たちに集まっていた。
我にかえると俺たちはそこから歩き出す事が出来なかった。
「……悪い。調子乗りすぎた」
苦笑いをしながらごめんというジェスチャーをしてきた。
自分が妹から嫌われない様に相手の顔色気にして接していくんじゃなくて、相手に好かれる様に相手を知ろうと接していく…か。
たしかに俺はひなの事を知ろうとせず、ひなの顔色ばかり気にしていて…普段の俺とはかけ離れていた言動をとっていたかもしれない。
授業中もあまり集中できずにその事だけが頭の中をウネウネと巡っていた。
放課後
帰りのホームルームが終わると俺はすぐに係の部屋へと移動した。
「はーい。では皆さん集まったようなので設営係の仕事を始めようと思います。もう体育祭本番まで三週間あまりとなりました。今週からはここの教室とグラウンドで分けての活動となります」
今週からは基本的に女子生徒がこの教室で看板作成をし、時々用具係と共同し椅子の点検やスケジュールに合わせた実際の動きなどをするらしい。俺たち男子生徒はグラウンドでテントや放送席の設営、完成された看板の取り付けなど力仕事がメインになっている。
先程設営係のリーダー坂上さんからプリントが渡され今日の一人一人の行動表が載っていた。
夜の19時までとは部活並みの時間だな…。
せっかく上坂と話せるチャンス!だと思ったんだけどな……。
まぁ…仕方ない!!まずは仕事頑張らなくちゃな。
「蒼井君、頑張りましょうね」
うん。間違いない。彼女は天使だ。容易に一般市民以下の俺が話してはいけない存在だ。
それに、手まで振ってくれている。
彼女がいる人ってのはこんなにも幸せなんだなと身に染みて勝手に感じていた。
グラウンドに集まりテント設営が始まった。
六人で一つの班を作り設営に励んでいる。
「お!凪ー!!」
俺の名前を叫びながらこちらは向かってくる男子生徒がいた。
「よ!凪!」
「なんだ陽翔か」
「なんだって何だよー。って言うか凪も設営係だったんだね」
「まぁ半強制的にだけどな」
「そうなの?確かに凪が自主的にこう言う仕事に関わるのとか想像できない…」
「それでね…テント設営なんだけど、いま五人集まったんだけどあと一人足りないから凪に入ってもらいたくて!」
「分かった」
六人でテントを指定の場所まで運び組み立て…また運び…を繰り返していき今日の目標数のテントが出来上がった為皆んなは次の作業場所に移っている。
近くにあった時計を見ると十八時を過ぎており空は夕焼け色で視界一面一杯に染まっていた。
次は体育館から体育祭用のボードなどを取り組み立てていくと書いてあるが……。
「ちょっと疲れたから休むか」
想像以上の労働に身体が既に悲鳴を上げていた。
これは常日頃の運動習慣のなさが象徴していた。
学校の棟から取り囲まれるようにある中庭のベンチに座った。
ここならば、誰かにサボっているとバレる事はないし、バレたとしても気分が悪かったと言えば許してくれるだろう。
そもそも、中庭には何もないのだから生徒が来る理由はただ一つ。
俺と同じサボりたいからに決まっている。
だから、どうせバレたとしても同業者というわけだ。
「ふぅ〜……ずっとここでサボっておきたいな」
「……」
「何してるんですか??」
誰もいないと思っていたこの場所に声が…俺の後ろから聞こえ身体がビクッとなってしまった。
だって姿どころか足音も聞こえなかったんだ。それなのに声が聞こえていると言うのはもう一つしかない。
「幽霊-!?」
恐る恐る振り返り後ろにいたのは…
「上坂…さん??」
頬を膨らまして睨んでいるのか曖昧な表情をしていた上坂汐音だった。
続く。
明日の投稿はお休みします。




