第四章 提案
僕は全てを話した。誰にも話したことがなかった過去を会って間もないこの人に。
「そんなことがあったんですね。すいません、変なこと聞いて。」
「いいんです。僕も、誰かにこのこと聞いてもらって楽になりました。」
僕が笑顔を交えながら井上さんにそう話すと、井上さんも少しずつだが笑顔を取り戻してきていた。
「あっ、そういえば井上さんって家族いるんですよね。奥さんとの出会いとか聞かせてくださいよ。」
僕は井上さんのことを詳しく聞き出した。
「奥さんとの出会いかー。」
少し上を向いて考えて、照れくさそうに話し始める井上さん。
「奥さんは中学二年の時に、転校してきたんですよ。僕のいる学校に。最初は、眼鏡をかけてる地味な女子だなーって思ってたぐらいで。」
「へー、そうなんですね。じゃあ、どうして付き合うみたいになったんですか。」
こうなったら色々と聞いてしまおうという、悪い自分が出始めた。
「たまたま道で会ったんですよ。中学三年の時に、曲がり角でばったり。しかも、家が近くだってそこで分かって。途中まで、一緒に帰ってたんですけど。その日たまたまゲリラ豪雨が降ってきて、急遽私の家で雨宿りして。そこから仲良くなって付き合ったっていう感じですかね。」
「そこから付き合ったんですか。じゃあ、結婚はいつしたんですか。」
「結婚は、大学卒業してからです。」
井上さんの話を聞いて僕はある提案を思いつく。
「井上さん、奥さんに遺書を書くのはどうですか。」
井上さんは僕の突然の提案に驚いた表情を見せる。
「遺書なんて書いても、見せれなきゃ意味がないんだから。」
と井上さんは正論を言っているようだが、なんせここは天国なんだ。なんでも出来ると言っても過言ではない。
「実は、奥さんとかに遺書まではいかなくても手紙を書いて現世に送ることはできますけどどうしますか。」
井上さんは少し考えているようだった。ただ、もう一つ僕は井上さんに提案したい事があった。
「あと、もう一つ提案したいことがあるんですけど。」
「なんですか。」
僕はすぐさま頭を下げてお願いした。
「お願いします。僕の代わりに、この店で働いてください。」
「ちょっと、急に何言ってるんですか。無理ですよ、そんなの。だいたい、なんで私なんですか。」
「僕は、また彼女を探そうと思います。まだ、待っていてほしいんです彼女に。自分勝手な願いだっていうのは分かっています。でも、井上さんと話してて思ったんです。まだ僕は彼女のことが好きで、伝えたいことが山ほどあることに気づいたんです。だから、お願いします。」
僕は思いの丈を全て話した。これでダメなら諦めよう、でも井上さんなら。
「分かりました。遺書も書いて、ここの店員もします。ただ、一つ私も提案します。」
「なんですか。」
「必ず、会って告白してください。提案というより、条件です。私がここで店員をすることとあなたが告白をすること、これは条件です。いいですね。」
「はい。絶対会って、告白します。」
初めに出会ったときの威勢だけの返事ではない。今出た返事は井上さんとの関係性を表すかのような返事だった。
井上さんは僕の最後のお客さんとして、遺書とシャツとペンを買ってくれた。
「合わせて、12万2050円です。」
「高っ。いや、高いでしょ。」
「そうですか。でも、遺書は現世に送れて12万円ですよ。安いでしょ。」
「そうかな。」
「そうですよ。だいたい、井上さん5000万から12万引かれたってそこまで減らないですよ。」
「そうなの。じゃあ・・・じゃあ、買うか。」
若干、井上さんは不服そうだったがしっかりとお金は頂いた。




