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訪れるもの  作者: 須永独歩
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第五章 出会い

 彼は、私に仕事のことについて丁寧に説明してくれた。

「パソコンで分かることは、遺産と家族構成それから寿命です。」

「寿命なんて分かるの、これ。」

「はい。あっ、でも個人的に調べるのはダメらしいです。」

「なんで。」

「よく分からないんですけど、なんか捕まっちゃうらしいです。」

この天国という場所の守備範囲の広さに恐ろしく思いふと周りを見回してしまった。

「どうしたんですか。」

「いや、なんでも。」

いよいよ、彼が出発する時がきた。

「井上さんには、色々と迷惑をかけてしまいました。なので、プレゼントを渡そうと思います。」

彼は突然、私にらしくないことを言ってきた。

「急にどうしたの。なに、プレゼントって。」

「50年待ってください。」

やはり、彼は変だ。最初の印象から何一つ変わっていなかった。

「50年も待つってどういうことよ。」

それはもはや、プレゼントではないような気がする。

「まぁ、とりあえず50年待ったら、とてつもなく井上さんに嬉しいものが訪れます。」

「そうなの。じゃあ、待つけど。」

彼は私に、笑顔を見せながらコンビニを去って行った。

 それから、私がこのコンビニで働いていると色々な人がやって来る。老衰で亡くなったおじいさんや病気で亡くなってしまった高校生。そして、私と同じように突然の事故で亡くなってしまったサラリーマンなど色々な人に出会って、色々な人の話を聞いて、いよいよ彼の言っていた五十年の月日が経とうとしていた。


 彼が去って五十年が経ったある日。外では雨が降っていた。"天国でも雨って降るんだ"とどうでもいいようなことを思っていた。そんな時、突然自動ドアが開く。訪れたのは、雨で少し濡れた老衰で亡くなったと思われるおばあさんだった。

「いらっしゃいませ。ようこそコンビニエンスストアヘブ・・・。」

よく見ると、おばあさんは私の顔を見て涙ぐんでいる。

「あの、どうかなさいましたか。」

「憶えてないですかね。私のこと。」

「すいません。ちょっと憶えてないですね。申し訳ありません。」と頭を下げる。

ふと、おばあさんの手を見ると左手の薬指に私と同じ結婚指輪がしてあった。

「あの、間違ってたらすいません。ご結婚されてますよね。」

「はい。でも、私の旦那は事故で50年前に亡くなりました。」信じられなかった。

「あなたの旦那さんの名前はなんですか。」

私も少しづつ涙ぐみながら質問をする。

「私の旦那の名前は・・・優斗です。井上優斗です。」

その名前を聞いて涙が止まらなくなった。初めて、自分の名前を聞いて涙を流した。

「ごめんね、急に死んじゃって。ごめんね。」

手で口を押さえながら私は大粒の涙を流す。二人で話すと出会った頃に時間が戻って行く気がした。

「何か、買うものとかある。ここさ、なんでも売ってるんだ。しかも、遺産で買うんだよ。」

「そうなの。じゃあ、新しい結婚指輪買う。」

「何で、結婚指輪なの。」

「えっ、忘れたの。あなたが死んだ日、結婚記念日だよ。」

忘れていた。私が死んだあの日は結婚記念日だった。

「そうか。ごめん、忘れてた。」

「やっぱし、こういうの憶えてないと思ってた。」

ハニカミながら言うその姿に、止まったと思った涙がまた溢れそうになる。

「じゃあ、今から遺産調べるね。」

「へー、そんなパソコンで調べるんだ。」

彼女と普通に会話をすることがこんなにも幸せで嬉しいだなんて。

「ありがとうね。今まで。」

「もう死んでるのに、今さら何言ってるの。」

「そうだね。」

彼は知っていたんだろう。私の遺産を調べた時に妻の寿命を見たんだろう。彼には感謝しかない。パソコンの画面を見つめる私は、涙で画面が見えなくなるほど涙を流していた。


 人は何かが訪れることを待っている。転校生として眼鏡ををかけた地味な女子が訪れること、雨宿りをしに家に訪れること。彼は、好きな人に想いを伝えることができたのを伝えに訪れる。そして、私に最後訪れたのは"死"ではなく"愛する妻"だった。



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