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倭鏡伝  作者: あずさ
8話「過去と未来の狭間に眠れ」
68/153

4封目 日比谷瀬名

 朝目覚めると、香ばしい匂いが微かに鼻腔をくすぐった。ぼんやりした頭でのろのろと起き上がる。


(……そういや今は城じゃなかったな……)


 いつもと違う光景に、葉は欠伸混じりに独りごちた。

 ベッドから抜け出るのは少々名残惜しかったが、いつまでも寝ているわけにはいかない。

 ただでさえ今日は来客がいるのだ。


「お、春樹」

「おはよう、葉兄」

「はよう……」


 台所に立つ春樹に苦笑する。誰よりも早く起きて朝食の準備なんてさすがだ。主夫は大変だな、と他人事のようにしみじみ思う。


「今日のメニューは何だ?」

「いつもは洋食が多いんだけどね。今日は典型的な和食メニュー」

「何でまた?」

「いつもは大樹に牛乳飲ませようと頑張ってるけど……今日はそんな余裕ないでしょ?」

「……なるほどな」


 大樹が牛乳嫌いなのは昔からだ。そのことに関して春樹と大樹が言い争っているのも何度か見たことがある。昔から春樹は大樹の母親役に近かったのだ。ちなみに当の母親は、そんな彼らを微笑ましく見守っていることが多かった。彼女もまたマイペースな人である、昔から。


「そういや、拓真の奴は?」

「もう少しで起きるって言ってたよ。かなり眠そうだったけど……。大樹は?」

「ぐっすり。ありゃ当分起きねえな」

「任せて」


 言うなり、朝食を作り終えた春樹が大樹の寝る部屋へ向かった。料理の盛られた皿を一つ手に持って。

 何をするんだと怪訝に思っていると、すれ違うように拓真がやって来た。やはり眠いのか目をしきりにこすっている。


「あ」

「おっす。よく眠れたか?」

「まあ……ボチボチ」


 意地悪く尋ねた自分に、拓真が気まずそうに目を逸らす。しかしここを訪ねた用件が用件だ。ぐっすり眠れなくてもむしろ当然だろう。


「……あの」

「ん?」

「……信じます」


 やけに改まった様子で、拓真がポツリと呟いた。葉はわずかに目を瞠ってしまう。


「昨日の話……信じる、から。だから……」

「拓真―!」

「わあっ!? ……大樹!」


 さっきまでの真剣な雰囲気はどこへ行ったのやら。

 唐突に大樹が拓真に飛びつき、とたんにその場の空気が一変した。無駄に騒がしくなり始める。


「拓真おはよっ!」

「お、おはよう……。どうでもいいけど後ろからは遠慮してほしいな。俺、もう少しで食卓にダイブしちゃうかと思ったよ」

「すいません! こいつ、いつもこうで……! 大丈夫ですか!?」

「え、いやあんたが謝らなくても……」

「春兄ってばいつも謝ってるもんな? もう癖ってゆーか」

「誰のせいだと思ってるの、誰の」

「へっ? 誰?」

「~~~~」


 ――全く。

 遠巻きに眺めていた葉は堪えきれずに小さく吹き出した。本当に騒がしい奴らだ。呆れるやらおかしいやら、もう訳がわからない。


「おいチビーズ」

「誰がチビだっ!」

「え、それってやっぱり僕も入ってるの……?」

「まさか俺も?」


 反応は三者三様であった。だが、一人一人に返事をしていたらキリがない。それ以前に面倒くさい。


「とりあえず飯食おうぜ? その後でゆっくり、話の続きをしてやるからよ」


 不敵に笑い、さっさと席に着く。その案に反対する者はいなく、みんなもゾロゾロと各自の席に着いたのだった。



◇ ◆ ◇



「話す前にもう一つだけ補足説明な。倭鏡の人間には何らかの“力”があるってことを覚えといてくれ」

「……何らかの“力”?」

「そうだ。チビ樹は動物や色々なものの声が聞けるし、春樹は特殊な生き物を召喚出来る。そして俺は……未来を視ることが出来る」


 一つ一つ説明すると、拓真は驚いたように大樹、春樹を見やった。大樹は肯定する意味でうなずき、春樹も困ったように笑うことで否定しない。それを確認してから、拓真は小さくうなずいてみせた。おそらく「了解」の証だろう。

 最後の確認を終えたところで、葉はそっと息をついた。


「俺と瀬名が会ったのは中三のときだった。といっても同じクラスってだけで、最初は全く話すことはなかったんだ。全然タイプが違ったし、俺はその頃、あまり他人に関心がなかったからな」


 そもそも自分は顔やオーラだけで恐れられていたし、それに反し、瀬名は真面目で大人しかった。先生に要注意人物としてマークされていた自分と先生のお気に入りであった彼に接点などあるはずもなかったのだ。


「俺は別に構わなかったし、そのまま淡々と一日を過ごしていた。けど……ある日、視えちまったんだよな」

「何を……?」


 拓真が真剣そのもので尋ねてきた。葉はそれに、皮肉げに笑って答える。


「――学校が火事になるところを、な」

「え……」

「正直迷ったな。学校なんてどうでもいいと思ったりしたしよ。でも自分だけ逃げて他の奴等が焼け死んでも後味最悪だろ? ……だから言ったわけだ、火事になること。教師の奴らは半信半疑で俺の言う火元に向かい……そして火事はボヤ程度で無事に防がれた」


 火事も防がれ、みんなも無事で、めでたしめでたし。――そう簡単に済むはずがなかった。


「そのすぐ後でどっかの馬鹿が言い出したんだ。火をつけたのは俺自身じゃねえかって」


 何の前触れもなかったのに火事がわかるはずはないと、その噂はあっという間に広まった。

 そこに生じるのは非難と恐れ。


「何となくそうなるんじゃねぇかって思ってたから別にどうでも良かったんだけどよ。その頃には、もうこっちの人間には嫌気がさしてたんだ」


 そんなときだった。瀬名が話しかけてきたのは。



☆     ☆     ☆



「日向くん」


 ふいに呼ばれ、屋上でウトウトしていた葉はうっすらと目を開けた。あまり見慣れない少年が覗き込んでいることに気づき、思わず顔をしかめる。


「……何だよ」


 せっかくの心地良さを邪魔されて面白くなかった。大儀ながらも上半身を起こす。わずかに睨みつけ、葉はそれが自分のクラスメートであることを知った。


(確か……)


「――日比谷瀬名か」


 霧のかかった頭で相手の名前を掘り出すと、彼は小さく目を瞠った。やがて静かに笑みを浮かべる。


「僕の名前、知ってたんだね」

「名前だけはな」


 冷たく言い放ち、再びゴロリと横になる。瀬名はそのことを咎めようとはしなかった。もうすぐ昼休みも終わるというのに。


「何の用だ?」

「ううん。ただ、屋上が開いてることを知って。今まで気づかなかったから」

「そりゃそうだろ。俺が鍵壊して勝手に入り浸ってんだから」

「…………」


 あっさり言ってのけた自分に彼は目を丸くし――ふいに笑った。


「何か、日向くんらしい」

「…………」


 彼の笑顔はどうも居心地が悪かった。葉は彼から目を逸らし、代わりに視界一杯の青空を見上げる。容赦なく降り注ぐ光に、わずかに目を細めた。


「いい天気だね」

「……まあな」

「日向くん、よく授業をサボると思ったら……そっか、こんなところで空を独り占めしてたのか。いいなぁ」

「……おい。日比谷」

「え?」


 不機嫌に声をかけると、瀬名はきょとんとこちらを見た。そんな彼にため息をつく。さっきから何なんだこいつは。


「おまえ、何がしたいわけ? さっきからベラベラ喋ってるけどよ」

「あ……ごめんね。日向くんと話したのって初めてだから……」

「そもそもソレが謎なんだよ。何で俺に話しかける?」

「何で……って言われても……」


 モゴモゴと口ごもる彼に呆れ果てる。大丈夫なのだろうか、この坊ちゃんは。


「俺に話しかけてくるなんてただの物好きだぜ? あの火事の件以来は特にな」

「……でも、あの犯人は日向くんじゃないと思うよ、僕」

「へえ? 何でまた?」


 ニヤリと意地の悪い笑みを向ける。そんな自分に、彼は困ったように頬を掻いた。言いにくそうに口を開いてくる。


「中には自分で火をつけて、途中で怖くなったから白状したんだって言う人もいるけど……」

「けど?」

「日向くんはそんなことなさそうっていうか……その……やるなら絶対最後までやり通しちゃいそうっていうか……」

「……ぶっ」


 予想外の言葉に思わず吹き出す。次第に笑いが込み上げてきて仕方なかった。確かにその通りだからこそ尚のこと。


「おまえ、よくわかってんじゃん」

「そうかな」


 笑い出した自分を見て、瀬名もホッとしたように口元を緩める。それから彼は、ストンと自分の隣に腰を下ろした。


「でも、本当にどうして火事がわかったの?」

「……知りてえか?」

「うん」

「んじゃ教えてやるよ。……俺の、とっておきの秘密をな」


 ――魔が差したのかもしれなかった。もうどうでも良かったのかもしれない。この奇妙な少年を驚かせてやりたかったのかもしれない。

 ともかく、葉は自分でも意外なほどたくさんのことを教えてやった。“力”のことはもちろん、倭鏡のことまで。自分はその世界では王家なのだということも。

 しかし、話し終えた彼の反応はやっぱり変わったもので。


「僕、日向くんってどこか不思議な人だと思ってたけど……それなら納得だな」

「いや、おまえの方が十分ミステリーだよ」


 きっぱりと言ってやる。今の話をそんなあっさり「納得」で受け入れる輩なんてそうそういない。


「僕は普通だと思うけど……。それにしても、その“力”って便利だね。そのおかげでみんなが助かったわけだし」

「……まあ、な」

「でも、ちょっとつまらないかな?」

「あ?」


 つまらない?


「だってさ、未来に何が起こるかわからないからこそ楽しいわけでしょ? もちろん悲しいこととか苦しいことも多いだろうけど……突然のハプニングだからこそ嬉しかったり楽しかったりするんだし。それがなくなっちゃうのは勿体無いよ。……違う?」


 そう言ったときの彼はしっかりとこちらを見ていた。葉は一瞬迷い、そっと肩をすくめる。


「ありふれた一般論だが一理はあるな」

「だよね?」


 認めてもらえたのがよほど嬉しかったのか、瀬名が柔らかく笑みをつくる。何だか丸め込まれた気分で、葉は思わず苦笑した。


「……別に俺も“力”を使う気はなかったんだよ」

「え?」

「まだコントロールがしっかりしてなくてな。勝手に流れ込んできやがった。……ま、一応努力とやらはしてやるよ。じゃないと今後、俺の人生が勿体ねえし?」


 冗談交じりに言い、軽く口の端を上げる。最初は呆けたようにしていた瀬名も、やがて楽しそうにクスクスと笑い出した。


「じゃあ、約束? もうやたら“力”は使わないって」

「おうよ」


 キーンコーンカーンコーン……


「あ……」


 とうとう昼休みが終え、瀬名は慌てて顔を上げた。腰を浮かせる。


「もう行かないと……。日向くんは?」

「俺はサボる」

「……そっか」


 苦笑した彼が立ち上がる。わずかに名残惜しそうにし、しかし、彼はそのままドアへ向かった。


「瀬名(、、)」

「……え?」

「俺のことは葉って呼べ。くんもいらねぇ。じゃないと自分じゃないみたいで気色悪い」

「……わかった」


 再び彼がクスクスと笑う。そして今度こそ向けられた背に、葉はもう一度だけ呼びかけた。


「それと」

「それと?」

「窮屈な授業に飽きたらいつでも来いよ。ここの空、お裾分けしてやるぜ?」


 ニヤリと勝気に笑みを見せると、眼鏡の奥で、彼は思い切り目を丸くした。


 流れる風。

 青。白。

 鳥。

 飛行機雲。

 そよそよ、ゆらゆら、きらきら。

 ――微笑む。


「ありがとう、葉」




 屋上での一件以来、葉と瀬名は少しずつ一緒にいることが増えてきた。最初は瀬名が一方的に話しかけてくるだけだったが、そんな彼に、葉も次第と気を許すようになったのだ。

 この奇妙なコンビは自然と注目を集めた。中にはご丁寧にも、「あいつだけはやめとけ」と瀬名に忠告する者もいた。けれど瀬名は、いつだって「大丈夫だよ」と笑ってみせたものだ。「葉は悪い人じゃないよ」と。

 少々天然の節はあるが、彼の意思は思った以上に固い。それが、葉が彼を気に入った一つの理由かもしれない。


「何かドキドキする」


 ――屋上で空を仰ぎながら、瀬名がポツリと呟いた。そんな彼に、葉は軽く肩をすくめてみせる。


「ただ授業をサボっただけでか?」

「葉は慣れてるだろうけど、僕はこれが初めてだからね」

「感想は?」

「気持ちいいの半分、罪悪感半分ってところかな」

「……真面目なこった」


 罪悪感らしきものなど何一つない葉には、彼の気持ちはどうも理解しがたかった。そんなとき、やはり自分と彼は違うんだなと改めて思う。それでいてこうして話しているのが奇妙におかしく、また、面白かった。


「葉はサボリすぎだと思うけど?」

「だってつまんねーもん、授業なんて。何がおもしろいのかわかんねぇな」


 苦笑する瀬名に投げやりに返す。しかし、瀬名が苦笑するのも仕方ないほど葉はサボリ魔として有名なのも確かだった。先生なんて呆れ、もはや小言すら言わなくなっている。そういう意味では見放されたも同然だ。かえって葉にはありがたいことである。


「高校とかどうするの?」

「行かねぇよ。……倭鏡の方に住もうかと思ってるしな」

「倭鏡に?」

「そっちの方がのんびり出来るしよ。……正直、こっちは窮屈だ」

「……そっか」


 そう言った瀬名は、わずかに笑ってみせた。その表情はどこか悲しげにも見えたが、葉はあえて触れず、ぶっきらぼうに空へ顔を向けた。瀬名も話題を変えようとそれに倣う。


「僕がサボったなんて、誰にも信じられないだろうなぁ。特に弟は信じなさそう」

「弟がいるのか?」

「うん。拓真っていうんだ。……僕のこと、お堅い人間だってよく言うんだよね」


 そう言って笑い、瀬名はわずかに目を細めた。


「もしかしたら拓真は僕のこと、嫌ってるのかもしれないって思うんだ」

「……そうか? 俺んとこにも下二人いるけど、よっく喧嘩してるぜ?」

「葉は強そう」

「当然」


 あっさり言い切ると、瀬名が楽しげに声を上げて笑った。つられ、葉も小さく笑う。


「……ほんと、信じられない」

「あ? ……サボリが?」

「それもあるけど……何て言うのかな。今の自分が、っていうか……。……こうしてサボッていることだって、きっと誰よりも驚いてるのは僕自身だよ。葉に会ってから、僕、つまらない殻を破れた気がする」

「不良になっただけとも言うけどな」


 からかうように笑い――ふいに頭が痛んだ。


「……っ!?」


 ズキリ ズキリ

 ――来る(、、)。


「……葉?」

「――――」

「ちょ……葉? どうしたの!?」

「あ? ああ……」


 一瞬呆けそうになり、葉は慌ててかぶりを振った。額に浮かびそうな汗を感じる。それから心配そうな瀬名を見やり、葉は細く息を吐き出した。


(……何だ? 今の……)


 強制的に流れ込んできた映像。それは信じられないもので。信じたくないもので。

 気のせい。そう割り切って忘れてしまいたかった。だが、そうするには自分の“力”は重すぎるのだ。あそこまではっきり視えて――気のせいで済むはずがない。


「……瀬名」

「何? 葉、顔色悪いよ。保健室行く?」

「いや……」


 首を振った葉は小さく息を吸った。真っ直ぐに彼の目を見る。こちらの真剣な様子がわかったのか、彼の瞳が一度、小さく揺れた。


「瀬名。……気をつけろ」

「え……?」

「今、……おまえの倒れている姿が視えた。しかも血まみれで……。原因まではわかんねえ。だからとにかく……」

「視たの……?」


 ふいに聞こえてきた声は、彼のものと思えないほど低かった。葉は思わず言葉をなくし、ボーゼンと彼を見つめる。その視線を受け止める瀬名は、青ざめているのか、ひどく顔色が悪かった。


「視たの? 約束したのに?」

「違う! 視たくて視たわけじゃねえっ!」

「だってコントロールは出来るようになったって言ったろ!?」

「それは……」


 確かにかなり上手くはなっていた。けれど今は、本当に制御出来なかったのだ。

 もどかしい。なぜ信じてくれない? なぜそこまで怒る?

 肝心なのは、こんなことじゃないのに。


「約束、破るなんて……」

「アホかてめえは!? そんなことより、今はおまえの無事の方が大切だろ!?」

「そんなこと? 葉にとって、僕との約束は『そんなこと』だったの?」

「だからっ……いい加減にしろよ!」


 苛々する。どうしてわかってくれない? どうしてわかろうとしない!

 自分はただ、彼の身が心配で――。


「…………」

「瀬名! 待てよ!」


 呼びかけても、瀬名は足を止めようとしなかった。バタバタと走り去ってしまう。


「いいか!? 気をつけろよ!!」


 見えなくなった背に怒鳴り、しかし返事のないことに息をつく。なぜかそれ以上追う気力は湧かなかった。それは“力”の消費のせいか、瀬名の態度のせいか。わからない。

 ただ、ひどく胸が騒ぐのを止めることは出来なかった。



☆     ☆     ☆



「……少しして、やっぱり気になって瀬名を探したが……結局見つけることは出来なかった。そしてその日の夜、俺の視たものが現実になっちまったんだ」


 そこまで話し、葉は深く息をついた。瀬名の面影が残る拓真の表情を見やる。拓真は、ひどく難しそうな顔をしていた。


「これが俺の知ってる全てだよ」

「じゃあ……あんたにもわからないの? 兄貴が何で死んだか?」

「ああ」

「……あんたの“力”を、使っても?」


 小さく尋ねられ、葉は思わず苦笑した。皮肉げに笑ってみせる。


「……生憎、未来は視えても過去は視れないんだ」

「…………」


 そう。当時はそのことでも落ち込んだものだ。こんな“力”は意味がないではないか、と……。未来を変えることが出来ず、大切な友を守れないのであれば、それが視えたからといってどうなる?

 空気が微かに重くなり始める。それを誰もが感じたとき、ふいに場違いなほど明るい声が空気を裂いた。


「調べりゃいーじゃん」

「え……」

「チビ樹?」


 みんなが一斉に大樹を見る。その反応に多少たじろいだ彼は、それでもいつも通りの調子で口を開いた。


「そんなに気になるなら調べりゃいーじゃん。誰か一人くらい何か知ってる人がいるかもしれねーし」

「でも……三年も経った今じゃ……」

「だって知りたいんだろ?」


 大樹の質問に拓真が詰まる。それは肯定しているようなものだった。


「……葉兄も、でしょ?」

「春樹?」

「葉兄も拓真さんと同じでしょ? ……僕は大樹に賛成だよ。知りたいと思うなら動かなきゃ。このままじっとしてたって何も始まらないよ」


 きっぱり言われ、葉は少々戸惑った。それと同時におかしな笑いが込み上げてくる。


「拓真、どうするよ?」

「え?」

「こんなチビらにきっぱり言われちまったら、もう引き下がれねえよな?」


 ニヤリと口角を上げ、拓真へ視線を向ける。すると、最初は呆気に取られていた彼も次第に顔を引き締めた。小さくうなずく。


「うん……。俺も、知りたい」

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