婚約者との向き合い方
アリスさんは割とポンコツな所あったりします。
アリスは少しだけ頬を赤らめると、照れ隠しをするように勢いよく顔を上げた。
「それは、勿論!キスよ!!キス!!男なんてこれでイチコロよ!」
アリシアは飲みかけの紅茶を吹きそうになった。
すると、その様子を見ていたエレノアが呆れたように額へ手を当てた。
「あぁ、そうだったわ。アリス、初手でそんな事をするのは貴方だけよ」
エレノアは即答した。
どうやらアリスは、アリシア以上に王都で色々と伝説を作っていたらしい。
エレノアの話によれば、アリスは王都で今の夫と交際を始める際、相手の返事を待つどころか、自分の気持ちを伝えた勢いのまま、気分が高まってしまい、その場で口づけまでしてしまったのだという。
しかも、それは舞踏会の帰りでも、人気のない庭園でもなかった。王都の人通りがある場所で、周囲の目などほとんど気にせず、相手が何かを言うより先に行動へ移したらしい。ある意味、数週間前のアリシアが取った行動はまだまだ序の口だったのだ。
当然、相手の男性は完全に固まった。
何が起きたのか理解するまでしばらく動けず、ようやく我に返った頃には、アリスの方が先に「これで私の気持ちは分かったでしょう?」と言い切っていたという。
普通なら、そこで相手が困惑して拒絶して終わってもおかしくない。
けれど、その男性も以前からアリスへ好意を寄せていたため、結果として二人はそのまま交際を始めることになった。
つまり、アリスの大胆すぎる行動は、偶然にもきれいに成功してしまったのだ。
そのせいで本人は今でも、自分の方法は間違っていなかったと信じているらしい。
「普通はもっと段階ってものがあるのよ」
「でも、結果的には上手くいったでしょう」
アリスは悪びれることなく微笑んだ。
「それは否定しないけど……アリシア、参考にしちゃ駄目だからね?」
エレノアは今度はアリシアへ向き直り、念を押すように言った。
「ローゼン様にいきなり飛びついたら、きっと気絶するわよ」
その言葉に、アリシアは思わず想像してしまい、小さく吹き出した。
「そうねぇ。現実的な話をするなら、一緒の屋敷で暮らしているのだから、夜に一緒に温かい飲み物を飲んだりとか、それか婚約者なら一緒に寝るとかがありなんじゃないかな?」
エレノアがそう言うと、アリシアは「なるほど!」と言わんばかりに目を輝かせた。
「そうね!それが良いと思うわ。流石ね、エレノア!」
「何で付き合っていない私がこうもアドバイスをしているのかしらねぇ、アリス?」
エレノアは隣へじとっとした視線を向ける。
当のアリスはというと、肩をすくめながら「へへへ」と悪びれた様子もなく笑っていた。
「だって、恋愛って見ているだけでも楽しいじゃない」
「貴方の場合、自分の経験談が濃すぎるのよ……」
エレノアは呆れたようにため息をついた。
そんな二人のやり取りを見て、アリシアは思わず笑ってしまう。
この二人と話していると、恋愛というものが難しいものではなく、とても身近で楽しいものに思えてくるのだった。
すると、アリスはふと思い出したように人差し指を立てた。
「後は、意中の相手の事も詳しく知っておくのもありよ。こういうのはね、後々役に立つのよ」
「詳しく知る……?」
アリシアは首を傾げる。
「好きな事とか、どんな時に笑うのか、何を大切にしているのか。そういう小さなことを知っていると、自然と距離は縮まるものよ」
「なるほど……」
アリシアは小さく頷いた。
そういえば、自分はローゼンのことをまだあまり知らない。婚約者だというのはのに、知らないことばかりだった。
「うん!そうするよ!二人ともありがとうね!」
アリシアは明るくそう言うと、残っていた紅茶を飲み干した。
席を立つと、アリスとエレノアへ改めて礼を告げる。二人も笑顔で手を振り、また近いうちに集まろうと約束した。
そうしてアリシアは、ローゼンについてもっと知るという新たな目標を胸に、二人へ別れを告げたのだった。




