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婚約破棄をしたがっている北国の孤独な彼に、愛をたくさん注いでみた  作者: 入多麗夜


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4/7

婚約者らしい事をしましょう!

「ねぇ、婚約者らしい事をしましょう!」


 アリシアは、ローゼンと熱い握手を交わした後にそう言った。


 結婚式は延期になったが、婚約そのものがなくなったわけではない。二人は今も正式な婚約者であり、いずれ夫婦になる可能性を残したまま、同じ屋敷で暮らしている。


 けれど、ただ同じ場所で朝と夜を迎えているだけでは、互いの距離はいつまで経っても縮まらない。


 ローゼンはアリシアを丁重に扱い、困らないよう気を配ってくれている。部屋を暖め、南部の菓子や花を用意し、食事の時間にも必ず顔を合わせる。けれど、それ以上のこととなると、彼は途端に一歩引いてしまう。


 婚約者というより、遠方から訪れた大切な客人を迎えているようだった。


 このままでは、春が来てもローゼンのことを何も起こらずに終わってしまうかも知れない。


 それでは困る。


 結婚式を待つと決めた以上、その時間を何となく過ごすつもりはなかった。ローゼンが自分から結婚を望めるようになるまで、ただじっと待つのではなく、こちらから積極的に近づいていくべきだと考えたのだ。


 知ってほしいのなら、自分から話せばいい。

 知りたいのなら、自分から尋ねればいい。


 ローゼンが距離を取るのなら、アリシアの方からその距離を詰めればいい。


 そう考えると、何を迷う必要もなかった。


「朝ご飯を一緒に食べているじゃないですか。それってもう十分にらしいのでは?」


 アリシアは「うーん」と腕を組み、少し考える。

 言われてみれば、その通りではある。


 毎日食事は共にしているし、同じ屋敷で暮らし、話もする。婚約者として見れば、決して距離が遠いわけではない。


 けれど、何かが違う。


「そう!そうなんだけど、何か味気ないじゃない?」

「味気ない……とは?」


 ローゼンはますます分からないという顔をした。


 アリシアは少しだけ考え込み、ふと目の前の朝食へ視線を落とした。焼きたてのパンに、温かなスープ。どれも美味しい。


「そうね。今のままじゃ、味が何も付いていない料理みたいだわ」


 そこでアリシアは、何かを思いついたようにぱっと顔を上げた。


「ねぇ! 一緒にデートしないかしら? 私ってまだ一回も北国の町とか行った事がないのよ。案内してくれるかしら?」

「町案内ですか……?確かに良いアイディアですね」


 ローゼンは少し考えた後、素直に頷いた。


 アリシアはまだ、クライゼン領についてほとんど何も知らない。屋敷の窓から雪に覆われた町並みを眺めたことはあるが、実際に足を運んだことはなかった。これから暮らしていく土地なのだから、どのような人々が暮らし、どのような店が並び、ローゼンが普段どのように領民と接しているのかも知っておきたい。


 何より、二人で屋敷の外へ出かけるというだけで、いつもの朝食よりはずっと婚約者らしい気がした。


 ローゼンは早速、近くに控えていた使用人を呼び、町へ出る準備を始めた。


「寒いので服装は厚着で行きましょう」

「初日の頃の服装じゃ薄すぎるの?」

「全然足りないですよ。風邪を引いたのではないかと心配したくらいで……」


 アリシアは目を瞬いた。


 北国へ到着した日の服装は、南部で用意できる中では最も暖かいものだった。厚手のドレスに外套を重ね、手袋も身につけていた。それでも、ローゼンから見れば全く足りなかったらしい。


 しかも、彼はあの日からアリシアが風邪を引かないか心配していたという。


 そんな様子はほとんど見せていなかったため、アリシアは少し驚いた。


「ふふふ。心配してくれるのね? 分かったわ。着替えてくるから、玄関前で待ち合わせしましょう!」


 アリシアは嬉しそうにそう言うと、返事を待つより先に椅子から立ち上がる。


 彼女は軽やかな足取りで食堂を出ると、そのまま嬉しそうに自室へ戻っていくのだった。

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