表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄をしたがっている北国の孤独な彼に、愛をたくさん注いでみた  作者: 入多麗夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/23

初めてのお誘い

湿度高め注意

「えっ、そんなに驚くことだった?」

「ごめんね。あまりにも突然だったから、びっくりしたよ。でも、どうして?」


 ローゼンはそう言いながら、アリシアの顔をまじまじと見つめた。冗談を言っているのか確かめようとしているのだろう。


 けれど、アリシアは本気だった。


「もー!そんなの寂しいからに決まってるじゃない。それに、ローゼンの徘徊癖も、抱きしめていれば治るんじゃないかと思って」


 言ってから、少しだけ頬が熱くなった。


 勢いで言えば平気だと思っていたのに、いざ口に出してみると、思っていたよりもずっと照れくさい。抱きしめて眠るところまで想像してしまい、アリシアは誤魔化すように視線を逸らした。


「でも、私達はまだ夫婦では……」


 ローゼンはそういうところに拘りを持っていた。


 婚約者と夫婦は違う。正式に結婚式を挙げ、誓いを交わしてから夫婦になる。彼の中では、その順番をきちんと守るべきなのだろう。


「そんなの時間の問題よ。いずれ私が貴方の部屋に行くことになるなら、それがちょっと早くなるだけでしょう?」

「そう……だったんですね」


 ローゼンは少し困ったような顔をした。


 納得したわけではなさそうだったが、強く否定することもできないらしい。アリシアが自分を心配して言っていると分かっているからこそ、断り方に迷っているのだろう。


「朝に会って、おはようって言えるのは嬉しいけど、本当は眠る前にも、貴方の隣にいたいの」


 アリシアは続けて話す。


「貴方がどんなふうに眠るのかとか、朝はどんな顔で起きるのかとか、寒い夜にちゃんと布団をかけているのかとか。そういう、小さなことを知りたいの。悩み事だって話したいし、私にも打ち明けてほしいのよ?」


 アリシアは、自分の言葉が少し子どもっぽいかもしれないと思った。けれど、言い始めた以上、ここで引っ込める方が恥ずかしい。だから彼女は、頬の熱さをごまかすように、少し早口になった。


「……女性が男性の部屋に入る意味を分かっているのですか」


 ローゼンは、先ほどまでとは違う真剣な顔でアリシアを見た。

 その問いかけに、アリシアの表情が固まる。

 次の瞬間、頬が明らかに赤く染まった。


「そ、そんなの分かっているわよ! 私だってそれなりの覚悟をしているのよ」


 言い切ったものの、最後の方は少し声が上ずっていた。


 勢いのまま一緒に寝ようと誘ったが、改めて意味を問われると、さすがに平然としてはいられない。けれど、ここで引き下がれば、ローゼンに本気ではなかったと思われてしまう。


 それだけは嫌だった。


 アリシアは赤くなった顔を隠すように少し俯きながらも、ローゼンから目を逸らさなかった。


「私と寝るのは、そんなに嫌なの?」

「い、いえ。そういう訳ではないのですが……」


 ローゼンは慌てて否定した。


 だが、その顔もアリシアに負けないくらい赤くなっている。暗い廊下を照らすランタンの灯りでも分かるほど、頬から耳まで熱を持っていた。


 アリシアはそれに気づくと、少しだけ目を丸くした。


 自分ばかりが恥ずかしがっているのだと思っていた。けれど、ローゼンも同じように戸惑っているらしい。


 アリシアは一歩近づくと、両手を伸ばしてローゼンの頬へ触れた。


「顔、赤くなってるじゃない。お互い様ね」


 触れた頬の熱ははっきりと伝わってきた。


 アリシアも、自分から触れたくせに、急に何をしているのだろうと思った。


 ローゼンは、しばらく何も言わなかった。

 照れくさそうに視線を逸らし、それから小さく息を吐く。まるで観念したような表情だった。


「……分かった。君がそこまでいうのなら……」

「もう……なんでそう遠回しに言うのよ。ちょっと期待していた癖に」


 アリシアはくすりと笑った。

 その表情は、どこか嬉しそうだった。

 断られるかもしれないと思っていたからこそ、ローゼンの返事が素直に嬉しかった。


「私からの誘いを受けてくれてありがとうね。これはお礼よ」


 そう言うと、アリシアは背伸びをした。

 そして、ローゼンの頬へそっと口づける。

 ほんの一瞬の、軽いキスだった。


 まるで時間ごと止まってしまったみたいに、頬へ触れられたまま、しばらく瞬きすらしない。


 その反応を見たアリシアは、急に自分のしたことが恥ずかしくなった。


「……あ、今のは、その、ありがとうのキスだからね」


 慌てて説明すると、ローゼンはようやく小さく瞬きをした。


「そ、そうよ!な、南部では、親しい人にすることもあるの。と、とりあえず細かいところは気にしないで。今もの凄く恥ずかしいから」


 アリシアは真っ赤になった顔を両手で隠した。


 勢いでやってしまったものの、改めて思い返すと、自分でも信じられないくらい大胆なことをしてしまった気がする。


 一方のローゼンは、口づけられた頬へそっと手を当てたまま、呆然としていた。


「……本当に、君には敵いませんね」

「でしょう?」


 アリシアは少し照れくさそうに笑う。


「じゃあ、行こ?」

「……どこへ?」

「それは勿論、寝室よ」


 アリシアは当たり前のように答えた。


「ほら、今日はちゃんと眠るんでしょう?廊下を歩くのは終わり。約束ね?」


 そう言って、ローゼンへ右手を差し出す。

 ローゼンはその手を見つめ、小さく苦笑した。


 そうして、アリシアはローゼンの部屋へと足を運ぶのだった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ