02-24 魔物侵攻3
兵士たちが歩廊の上から撤退したため、少しずつオークの数が増え始めた。塔からは撤退をした旨を告げる鐘の音が鳴り、状況を知らせる旗が外に向かって立てかけられた。
「撤退の鐘?」
「もう駄目か」
「俺達も逃げるぞ、集まれ! 集まるんだ!」
石壁や門の付近で戦っていた兵士や村人達は、石壁に用意されていた避難場所に向かって集まり始める。
「これで全員か?」
「分からん!」
「じゃあ、もうしばらくだけ踏ん張るぞ」
避難場所の扉の前で戦い続けて避難してくる者を待つ。相手よりも兵士たちの方が圧倒的に強く死体の山を築くが、その死体の山を超えて攻撃してくる。段々と動ける場所がなくなり、また敵の数が多すぎて捌ききれない。
「もう無理だ!」
「分かった。閉めるぞ!」
兵士たちは何とか扉の中に逃げ込み扉を固く閉じた。扉が激しく叩かれるが、魔法で入口を石で完全に閉じてしまう。
「とりあえず助かった」
「でもこの後どうする?」
「休憩してから考えよう、夜になってから討って出ても良いんじゃないか」
石壁の下にある扉は緊急次の避難用であって、他の場所には続いておらず閉じ込められたような状態であった。水やビール、食糧、傷薬、武器や火薬などが保管されており、しばらくは生き続けることが可能である。
「とりあえず俺はこれで戦うわ」
火縄銃を見せつけた兵士が少し高い位置に用意された狭間から外を覗いて、他の避難扉を叩いているラージスパイダーを撃つ。同様に避難した場所から他の避難場所が補完出来るように狭間が用意されており、互いに互いをカバーする。
侵入した数体のオークが門の内側に集合して、力を合わせて門を持ち上げる。少しずつ門が上がりはじめると隙間に木材などを挟んで簡単には門が落ちないようにした。少しずつ空間が確保されて、ゴブリン達は難なく入れるほどの高さまで門が開いた。体中が火に焼かれながらも、オークやゴブリン達が侵入してくる。
「ゴォーー」
侵入したオークは雄叫びをあげて威圧をかける。呼応するように後から侵入してきたオークたちも雄叫びを上げた。
木製の壁の歩廊で戦っていた兵士達はその声に視線を石壁の門の方に向けた。
「門が突破されたぞ」
「もう無理だ!」
「皆は無事なのか?」
「どうするんだ」
村の中にも魔物が侵入され、石壁の門まで突破されており魔物の数が少しずつ増えていくのが見えた。
「村の中に戻るのも自殺行為だろ。外にもいけない。ここで戦うしか無いぞ」
「そうだな。やるしかない」
木製の歩廊の上で戦っていた兵士や村人達は腹を括って、この場で戦い続ける事を決めた。近くに避難場所も無く、現状ではこの場所が一番マシであった。
戦いから三時間が経過し状況は硬直していた。石壁の内側に入ったオークやゴブリン達は少し離れた場所で休息を取っていた。村の中に侵入したラージスパイダー達も住民達の避難場所から離れた場所に潜んでいる。
守備側の兵士達は射線に敵が居ないため、敵を攻撃することも出来なかった。
「夜になったから休憩か?」
兵士達はそのように考えていた。魔物であっても休息は必要である。
「とりあえずは、助かったけど。これ援軍来たらどうなるんだ?」
「援軍と言っても数十人とかだろ、死ぬだけじゃないのか」
「マティアス様なら何とかしてくれるかも」
「ああ、マティアス様なら。マティアス様なら何とかしてくる」
多くの者達はこの劣勢を覆すためには想像を超える何かが無いと難しいと感じていた。そしてマティアスであれば、それが可能だと信じていた。
守備隊長は今後の対応を考えていた。ラージスパイダーが居る限り簡単に壁を突破できてしまう。オークやゴブリン、狼だけなら壁があれば何とか戦うことが可能である。幸いにも木製の壁にある門は破られたという報告は無く、まだ守られているはずであった。
村内にまでオークたちが侵入されたら、もうどうしようも無くなる。倉庫の中に閉じ籠ればしばらくは生きられるが、救援に来た者たちは逃げる場所がなく殺されてしまうかも知れない。万が一マティアスが死ぬようなことがあれば人類の損失でありそれだけは避けたかった。
「活路はラージスパイダーの殲滅しかないな」
守備隊長は方針を定めた。しばらく休憩の後、ラージスパイダーを倒すために討って出ることにした。
「みんな聞いてくれ。このままオーク等に村内まで侵入されたら、被害が甚大になる。あとから来てくれる援軍もそのまま倒されてしまうかも知れん。
今ならまだ助かるすべがある。ラージスパイダー以外の魔物は簡単には壁を超えることは出来ない。なので今村にいるラージスパイダーを一掃することで、防衛がしやすくなるはずだ。皆の力を貸してくれ」
「おう!」
「あたしゃやるよ」
隊長からの要望に兵士や村人達は同意し、皆武器を持ち戦いに備えた。しかしここに居る村人達は老人や女性、子どもばかりで正直戦力としては乏しかった。しかし、被害が出たとしても戦い抜き結果を出す必要がある。
守備のために大人数人と子どもが残り、他の者達は十人毎に三チーム別れて倉庫から出る。周囲を見渡すが生きた魔物は見当たらなかった。
三方向に別れて進んでいく。一組の兵士達は二百匹程のラージスパイダーの群れが密集して休んでいるのを見つけた。腰につけていた投擲弾を取り出し導火線に火をつける。そしてタイミングを見計らって一斉に投げ込んだ。投擲弾が体に当たり、ラージスパイダーは起き上がり周囲をキョロキョロと見回すが、何が当たったのかは理解していなかった。しばらくすると爆発が起き、十体のラージスパイダーは死亡し、突然の出来事に驚き混乱していた。
そこに魔法が放たれ、さらに数匹のラージスパイダーが火に包まれた。
「うぉおお」
掛け声と共に兵士と村人はラージスパイダーに斬りかかる。最初の数匹は容易く倒されたが、しばらくすると混乱から立ち直り反撃を開始する。
煙玉を使い相手に百%の力を発揮させず、少しずつ倒して数を削って行く。
「こいつ!!」
おばさんが剣で薙ぎ払うと簡単に腹が切り裂かれ、一太刀でラージスパイダーを倒した。
「あれ? 弱くない?」
相手の弱さに驚くが他の村人達も同様に強かった。十分も戦うと数は半減し、敵わないと考えたラージスパイダー達は、その場から離れていった。前回の襲撃で村人含め死線をくぐり抜けており、自分たちが想像するよりも遥かに強くなっていた。
他の場所では、数十匹のラージスパイダーを見つけ、擲弾を用意しようとしていたところ、別の場所で起きた爆発音により、休んでいたラージスパイダーの目が覚めた。
「駄目だ! もうこのまま戦うぞ」
投擲弾による奇襲を諦め、ラージスパイダー達に切りかかっていく。村人達は同様に強く、数回の攻撃であっという間に敵を殲滅させていった。当初村に侵入したラージスパイダーは五百程居たが現在は二百程度まで減っていた。生き残ったラージスパイダー達は村から逃げ出し木製の壁を超えてオークたちの部隊に合流しはじめる。




