02-23 魔物侵攻2
石壁の上だけではなく、突破したラージスパイダーは石壁の内側にも入り込んできた。大砲の準備をしていた兵士に対して襲いかかる。幸いにも攻撃は鎧を貫通することが出来ず、大きなダメージは与えられなかった。兵士は反撃し剣でラージスパイダーを切り裂く、ラージスパイダーの表面は柔らかいため、楽に切り裂く事が出来た。ただその一匹を倒してもひっきりなしに次から次へと襲い掛かってくる。
そのため大砲を放つことが出来なくなり、同様に火縄銃や矢による攻撃が出来なくなったため、オーク達が木を使って歩廊の上に上がりやすくなってきた。
「石油をばらまけ! 煙玉も使え!」
敵を倒しながらも隙を作り指示に従って石油をばら撒いたり、煙玉をあちこちに投げ込んだ。オーク達は煙にむせてバランスを崩して下に落下したり、落ちないように必死にしがみついているため、歩廊まで到達出来ずにいた。
ゴブリンは落ちてきた煙玉を拾うとそれを歩廊の上に向かって投げ返す。投げ返していると幾つかの煙玉が石壁の内側に落ちていく。
「おい! こっちに煙玉を落とすな! 気をつけろ!」
「ちがう! 彼奴等が投げ返しているんだ!」
「嘘だろ!」
石壁の内側で戦っていた村人から文句が出たが、歩廊の上からゴブリン達の仕業と聞いて驚く。
「投擲弾は気をつけて落とせよ」
「分かっている」
投擲弾は陶器の中に火薬が詰められており、導火線に火をつけて投げ込む爆弾である。投げる側で爆発すると危険であるため導火線がついているのだが、爆発前に相手から投げ返されたり、誤って引火すると自身に危険が及ぶ兵器である。
火が放たれるとオークやゴブリン達は火に包まれ、悶え苦しんでいる。また有害な煙により行動が阻害された。ラージスパイダーも臭いは辛いようで、動きがおかしくなり臭いが濃い場所から逃げようとして、木製の壁側に向かう物も多数出てきた。
歩廊の上の兵士や村人にも同様の弊害は起きているが、あらかじめ想定しているため慌てることはなく落ち着いて周囲の魔物を倒し始める。村人達も強く、攻撃が当たりさえすれば致命傷を与えることが出来た。村人達は自身の強さに気がついていないため及び腰で戦っており、殲滅速度は早くはなかったが、着実に数を減らすことが出来ていた。
「今だ! 投擲弾を投げろ」
「火薬樽も投げちまえ! もう火薬樽から大砲に弾込めとか出来ないだろ」
「こんな混戦じゃどうにも成らない。全部入れちまえ!」
少しだけ余裕が出来たことから、歩廊の上から悶え苦しんでいる魔物の群れに投擲弾や火薬樽が落とされる。小さな爆発や大きな爆発が数十回連続して発生する。爆発で体が吹き飛び、多数の魔物が命を落とした。
そんななか、ラージスパイダーに突進され兵士の一人が歩廊から落ちた。石壁の階段や途中数カ所にぶつかりながら、最後はラージスパイダーの真上に落ちたことで即死を免れたが瀕死状態になっていた。
「大丈夫か? しっかりしろ!」
周囲の兵士や村人が落ちた兵士に近寄って、傷薬を何個も使うと骨折や傷も治った。
「嘘だろ、死んだと思ったのに」
落ちた本人さえ死を覚悟していたほどの怪我なのに、傷薬の効果により一命をとりとめた。
「おお、良かった!」
「傷薬があれば安心だよ!」
「これなら勝てるぞ!」
ラージスパイダーの数に押されていたが、自分たちにはとてつもない力を与えてくれる様々なアイテムがあることを再認識して士気が若干上がっていた。
石壁の内側、砦の木製の壁側にもラージスパイダーが接近してきた。矢や火縄銃による攻撃が行われるが、一本、一発が当たったくらいでは倒れず接近してくる。木製の壁側には大砲が設置されていない。ぶどう弾を発射すれば石壁の方にも弾が届いてしまい、同士討ちが発生するのを避けるためであった。
「駄目だ! もう無理だ!」
「チクショウ!」
兵士達は剣を振り回してラージスパイダーを始末するが、数が多すぎること、ラージスパイダーは壁を容易に登ってくることから、村の中への侵入を許してしまった。
「侵入警報を鳴らせ!」
守備隊長の指示で、先程の鐘よりも高音の鐘の音が鳴り響いた。
「倉庫に避難よ!」
「分かってる!」
「どうしよう!」
村人達は侵入警報の鐘の音を聞いて倉庫、兵舎などに避難を始める。避難中に蜘蛛に襲われるが装備の助けも有り、なんとか避難所に集中しはじめている。
ただ人が集まれば敵も集まり、集会場や倉庫の周りには百を超えるラージスパイダーが集まっていた。入口をあえて開けておくことで、そこから侵入しようとしてくるラージスパイダー達を槍や剣で切り裂く。直撃すれば一撃で倒すことが出来ていた。入口には死体が積み上がり侵入しにくくなっていく。
ラージスパイダーの群れが密集しているのを見て、避難場所ではなく近くの家の中に避難する者も居た。
「隊長! どうすれば、どうすればいいですか?」
兵士の中にはこの状況に打開策が見つけられず、焦っている者も出ていた。隊長は少し考えたあと口を開いた。
「落ち着け! 出来ることをするしかない。まずは死なないこと。次に敵を倒すことだ。今は守勢に回っているが、この状況が続く訳では無い。ラージスパイダー一体一体の脅威度は低い。数が多く村への侵入を許してしまったが、彼奴等には倉庫の壁を壊すほどの力は無い。数が減れば打開策は見つかるはずだ」
「おお、確かに!」
「そうだ、彼奴等は弱い」
「倒すぞ」
兵士や村人の士気が一時的に回復した。ラージスパイダーを次々と倒し死体が入り口付近に残る。ラージスパイダー達は死体を外側に運び出しては入口に近寄るが、打開策は見つけられず中に入ることは出来なかった。
石壁の方ではラージスパイダーが門の閂を開けようとし、兵士たちがそれを阻止し続ける。門は二重化されており、内側の門は金属で補強した木製で外開き、外側の門は鉄製で持ち上げて開くようになっている。
内側の門の前にはラージスパイダーの死体の山で足の踏み場もなくなり非常に戦いにくくなっていた。また他の場所への移動も困難な状況になる、最悪死体の山で圧死する恐れもあった。
「このままだと孤立するぞ、どうするんだ」
「まだ内側が開いても外側の門もある。ここは諦めるぞ」
兵士達は内側の門の守備を諦めて持ち場から離れた。ラージスパイダー達は死体をどけて、閂をひとつずつ外していく。全ての閂を外したところで、門を外側に押し内側の門が開いた。
外側の門は鎖で巻き取って上に持ち上げる仕組みになっているが、その仕組は門の側面にある石壁の中に存在しており、ラージスパイダー達は仕組みを使って開けることは出来なかった。
外側と内側から門を持ち上げようとするが重くて持ち上げることが出来ない。
歩廊の上では混戦状態が続いており、また守備兵が足りていないため、歩廊へのオーク侵入を許してしまう。オークは歩廊の上に放置されている投擲槍を拾い、力いっぱい兵士の一人に叩きつける。
兵士は咄嗟に剣で受けるが大きく弾かれて体勢を崩してしまう。
「なんだよ、強すぎだろ!」
悪態をつきながらも直ぐに体勢を整えて剣で反撃を加えて片腕の肘から下を切断した。痛みで姿勢を崩したオークの腿を切りつけたあと、蹴りを加えて下に突き落とした。
「一昨日来やがれ!」
兵士は落ちたオークに捨て台詞を浴びせかけるが、別のオークが投げた槍が腹に刺さる。槍は鎧を貫通して穂先が腹に刺さった。
「ぐはぁ」
痛みで声が漏れる。直ぐに槍を抜いて、力いっぱい投げ返すとオークの近くにいたラージスパイダーに深く突き刺さり絶命する。直ぐに傷薬を使って治療を行うが、再度槍がオークの手に渡り再び投擲をしてくる。兵士はなんとか剣でそれを弾くが傷が治りきっておらず、このままではジリ貧だと考えていた。
「傷薬が切れた!」
「俺もだ!」
「もうここは無理だ」
「塔まで避難するぞ」
「撤退しろ! 撤退だ!」
歩廊の上の兵士や村人達は歩廊での防衛を諦めて、石壁にある幾つかの塔に避難をし始める。避難が完了した後は扉を閉め、魔法で石を生成して防御を固めた。




