02-08 猜疑7
父ティーモ、母ハンナ、兄ニコラス、姉ミア、主人公マティアス(マティー)
姓アイヒェンドルフ
フランク王国第三王子タビー
王城の会議室ではタビーの視察結果について共有が行われていた。
「以上のことから、アイヒェンドルフ卿の申告内容は正しかったと結論付けました」
タビーからの報告内容を聞いた面々は驚きつつも、その成果について認めざるを得なかった。認めてはいるが、ただあまりにも規模が大きい話しであるため、なかなか信じきれないという者が多かった。
そして献上された魔石二十樽と灰色狼の毛皮十枚、茶色狼の毛皮十枚、黒色狼の毛皮十枚が会議室に運び込まれた。気前よくこれだけの物を献上出来るのは、本当に多くの魔石を回収できた、つまりは多くの狼を討伐出来た事を思い知らされた。
「それにしても今回の件はすごい成果であった。もしアイヒェンドルフ卿があの地を治めていなかったら、今頃王国の二割は失われていたかも知れんなあ。
何かしら褒美を与えるべきだと思います」
成果を疑っていた将軍も功績を認めており、また周りの者達からも褒美を与えることについて賛同していた。ただ現在国は東地域の開拓に注力しており、蓄えには余剰といえるようなものはなく、緊急時のための蓄えであるため簡単には支出することが出来なかった。租税免除期間延長で軽減される税収もたかが知れており、それだけでは褒美としては不足であった。
また防衛拠点に矢が不足している事は問題ではあるが、不足している理由も真っ当であるため、補充に協力するのも褒美とは異なると考えられた。
国の直轄地を譲渡するとしても隣接地にはなく、離れた場所を治めるのは難しかった。所領を再編するには領主や領民の賛同を得られにくくそちらも難しい。爵位と名誉くらいしか与えることが出来なかった。
「アイヒェンドルフ卿は進爵し子爵とする。年末の晩餐会の場で爵位を与えるセレモニーを行う、アイヒェンドルフ卿の功績を国中に周知せよ。国の歴史に刻み後世に語り継ぐ逸話となるように物語を作れ」
国王の指示により進爵が決定し、アイヒェンドルフは男爵から子爵になることになった。合わせて近隣の領主に対しては、アイヒェンドルフ家に対して矢の提供を求めた。特に被害が出ると思われる地域は、彼の対応で恩恵を得たはずなので率先して提供するように指示を出した。
王都ではアイヒェンドルフ卿の話題で持ち切りだった。吟遊詩人が詩を歌い、広場では子供たちが紙芝居の演目で楽しんだり、王立学園では息子のニコラスが周囲からチヤホヤされていた。
「ニコラス、お前の父親は凄いな国の英雄だぞ!」
「三十万の狼の大群に対して僅か百人で立ち向かって撃退するなんて!」
「何か俺らの知らない秘話とか無いか? 話を聞かせてくれよ」
「ごめん、一切話を聞いてないんだ。だからよく分からないんだ」
ニコラスに詳しい話を聞こうとするが、話は全く聞かされておらず話したくても話せない状況であった。
「じゃあ、どんな親父さんなんだ? 強いのか?」
「知りたい! 知りたい! やっぱモテるのか?」
「ニコラスと似ているのか? だったらめっちゃ格好良いだろ」
「えーと、だいぶゴツいぞ。筋肉が凄くて俺なんか全然相手にならないくらい強いけど、どれくらい強いかはよく分からないな。
モテる? いやそういう話を聞いたことが無いな。うちの母さん以外の女性と仲が良いとかは無さそうな気がする。
似てるかって? いや全然似てないよ、俺は母さん似だし。うーん格好良くは無いと思うけどなあ」
ニコラスは三年間この王立学園で学んでおり、その間実家にも帰ることも、手紙を送ることも無かった。実家に連絡したり、ましてや帰るにはお金が掛かるので控えるしかなかった。
マティアスが生まれたこと自体は実家からの手紙で知らされてはいるが、見たこともなかった。ニコラスは今年の冬の晩餐会のタイミングで学園を離れて実家に帰ることになっているので、その日が待ち遠しかった。




