02-05 猜疑4
父ティーモ、母ハンナ、兄ニコラス、姉ミア、主人公マティアス(マティー)
姓アイヒェンドルフ
原木放り投げてた六人、率先して下に降りて戦った兵士、マティアスの護衛
兵士:アベル
兵士:バメイ
兵士:エアニー アベルの弟、ルイーサの彼氏
兵士:イエーガー 弓が上手い
兵士:ルイーサ バメイの妹、エアニーの彼女
兵士:ウルマー 狼の征服者という二つ名を持つ
「明日くるの? 再度口裏合わせとかないとな」
マティアスは伝令から受け取った手紙を読み終えた後、それを守備隊長に渡した。止めていた作業を再開し、狼の死体の格納と配置しては移動を繰り返しはじめた。
「明日は昼から夕方頃に来ると思うから、明日の解体作業は中止しよう。十分確保したしね」
マティアスは移動しながらも守備隊長に対して指示をだす。そして日も暮れ始めたため本日の作業を終了とした。
「皆、聞いてくれ! 明日領主様と王家からの使いがここにやってくる。狼の討伐方法は、打ち合わせした通りに話してくれ。また、マティアス様の力は絶対に口外しないように。王家に目をつけられたら、奪われて、二度とマティアス様からの恩恵が受けられなくなることを肝に銘じて欲しい」
守備隊長が兵士及び村人全員に対して注意事項を伝えた。
「もちろんでさ。マティアス様が居なかったら俺らは狼の腹の中だったかもしれん。命恩人に対して恩知らずなことなんて出来ん。なあ、みんな」
村人の一人が口火を切った後、全員が同意して、マティアスを褒め称えていた。
「みなの衆! 子供含めてよーく言い聞かせるんじゃぞ!」
老人の一人が徹底を促し、みな口々に「勿論さ」などと同意をしていた。
翌日の昼過ぎ、ティーモ一行がベシュッツァー(砦の村)に着いた。ティーモが門の中に入ってくると、マティアスはトコトコと駆け出して、ティーモの足に抱きついた。
「え? マティアス?」
ティーモはマティアスらしくない挙動に驚いていた。
「んー、んーんんんー」
マティアスは言葉がうまく喋れない風を装っていた。感情を込め涙ながらに足に抱きつくその姿は、離れていた親に久しぶりに会えて感極まったとしか見えなかった。
「寂しかったか? ごめんな」
ティーモはマティアスを両手で抱きかかえて自身の顔の側まで持ち上げた。マティアスはティーモの顔に抱きついて自身の顔をスリスリと押し付けた。
「うわぁ、あざといなぁ」
エアニーは少し離れたところで、マティアスの演技をみて小さく呟いていた。
「もう。しぃー!」
ルイーサがエアニーの背中を軽く叩いたあと、口の前に一本指を建てて黙るようにジェスチャーしていた。
「分かってるって。ただマティアス様って凄いなって」
「だから、その評価も駄目なんだって、良いから黙ってなさい」
エアニーとルイーサは小さな声で会話していた。それを見ていたアベルは後でエアニーに注意しようと思っていた。
「皆、控えるように!」
ティーモは大きな声で周囲に知らせた後、片足を着いて頭を下げた。ティーモの姿を見た兵士や村人達は皆同じ様な姿勢を取った。
「この方はフランク王国第三王子タビー様である」
「皆、顔をあげてくれ。立ってくれて良い。よろしくね」
ティーモに紹介されたタビー王子は、まだ若く少年と言っていい見た目であった。実際十三才であり仕事の経験も浅かった。第一王子と第二王子は東の開拓作業に従事しており、第三王子は王都で実務経験を積んでいる最中であった。
今回は闇の森と守備の要であるベシュッツァーを見学するために派遣された。
タビーがマティアスに視線を移すと、マティアスはティーモの体に隠れて、少ししてから恐る恐るタビーの方を見た。タビーは笑顔を見せるが、マティアスは再びティーモの体に隠れた。
「(あざといな。恐ろしいほどの演技力だな)」
エアニーは声には出さないものの、マティアスの演技力に感心もしていた。ちなみに兵士や村人達も同様な事を考えていた。
「すみません。まだ小さいためよく分かっておらず」
「いいや大丈夫だよ。まだ一歳だっけ? 仕方ないですよ。しかし一歳の子供を砦に置いて行ったのはどうしてですか? 寂しかったよね?」
タビーから問われたマティアスは、父親の太ももに手を回してお尻に顔埋めてスリスリしていた。
「まだ安全とは言い切れなかったことと、一刻も早く問題が解決した旨を共有すべきと判断したので、息子を砦に置いていきました。本当ならもう少し早く戻るつもりだったのですが」
「ああ、それは悪かったね。申し訳ない。ただあまりにも信じられない話しであったため確認が必要だったんだ」
「滅相もございません」
ティーモは恐縮した後、こっそりと近づいてきた守備隊長に視線を移した。守備隊長から差し出されたメモを読んだ後メモを守備隊長に返した。
「それでですが、まずは休憩なさいますか? それとも魔物討伐の証拠をご覧になりますか?」
「まずは討伐の証拠を確認したいな。案内してもらえる?」
「隊長、狼の死体はどのようにしているか?」
「はい。死体が大量にあり放置すると疫病の恐れもあるため、一部は焼却処分しています。ただある程度魔石は回収しています。魔石の保管場所にご案内します」
隊長に案内されて少し歩くと広場に出た。その広場の一角に急ごしらえで作成した石製の倉庫があった。倉庫の中には樽が縦に三列、横に五列、奥行き三十三列ほど格納されていた。
兵士や村人の手によって倉庫の中に積んでいた樽を広場に持ち出して並べていった。そして樽の蓋をバールのような物を使って、どんどんと開けていく。四百九十五樽を並べるのには時間が掛かるので、最初に置いたもののいくつかの樽を覗くと、こぶし大くらいの魔石が沢山入っているのが見えた。
「一樽に四十個程の魔石が入っております。これは黒色狼の物になります」
「え? これ全部が!?」
タビーは驚き、開けられた樽の一つ一つを見ていく、二十樽ほど確認したところで作業を止めさせた。
そして既に広場に運び出したもののなかから、無作為に五樽を開けさせると、同様の魔石がぎっしりと入っていた。そして倉庫内に残っている樽を十樽選んで開けさせるも、そちらにも魔石が入っていた。
「これは全部で何樽あるんだ?」
「四百九十五樽です。黒色狼一万九千八百匹分の魔石になります」
タビーの問いに隊長が応える。
「これは信じるに値するな?」
タビーは同行した文官に声を掛けると文官も同意した。タビーは魔石の一個を取り出しまじまじと眺めた。
「この大きさ、確かに黒色狼の魔石として疑う余地は無い。黒色狼の群れが国内に侵攻していたら、一体どれほどの被害が出ていたことか。国王に代わりお礼を伝える。皆のもの良くやった! この村の偉業は国の歴史に刻み、永遠に語り継がれるだろう!」
タビーが兵士や村人を褒めた。それを聞いた兵士や村人達からは大きな歓声があがった。




