02-04 猜疑3
父ティーモ、母ハンナ、兄ニコラス、姉ミア、主人公マティアス(マティー)
姓アイヒェンドルフ
ティーモは王城にある会議室に通された。そこには王をはじめ、宰相、将軍、第三王子、文官、武官など三十人程の人が詰めていた。そのためティーモは入室した瞬間に圧を感じていた。会議室には長机があり、そこには王と宰相、将軍、王子、書記が座っており、王と対面の位置にティーモは座らされた。
「アイヒェンドルフ卿よ、よく来てくれた。先日の魔物襲来の件について説明して欲しい。まずは攻めてきた魔物の数や種類についてだ」
宰相が進行役として話を進めた。
「はい。灰色狼の群れで、数は多すぎて正確に数えるのは困難でした。推測になりますが約三十万匹は居たと思います」
会議室内がざわめく。責任ある者が三十万という大群が攻めてきたと話したことで信憑性が増して驚いたり、数の多さに再認識している者もいた。
「その後魔物が凶暴化し、凶暴化が終わった後は一旦森に下がりました。その翌日、戦っている最中にそれは起こりました。共喰いをした狼は灰色から茶色に変わったのです」
「「おお」」「本当なのか」「魔物が進化したのか」「本当なら、魔物が進化するという話に裏付けが出来たのでは?」
会議室内が再度ざわめいた。少し落ち着くのを待ってからティーモは話を再開する。
「そしてしばらく戦ったあと、茶色狼も凶暴化しました。凶暴化解除後、夜になると狼は森に帰り、翌日、放棄していた死体を喰って茶色から黒色に変わったのです」
「少し宜しいか? 黒狼二万、茶色九万、灰色三十万との見立てだが、それはどうやって算出したのか?」
将軍が話を割って質問を行った。
「黒色狼二万は戦った死体の数から推測しました。茶色から黒に進化するのに必要な数、食べられる狼の数が約三匹と仮定して九万とし、灰色から茶色に進化するのも同様に二~二.五匹程度で考えました」
「であれば、黒二万、茶色八万、灰色二十八万じゃないのか?」
将軍との質疑応答が続く。
「うまく言えませんが茶色は八万以上いたように見えました。茶色の数が九万の場合、必要となる灰色の数は二十七~三十一.五万となります。死体も多く食べられてしまったので正確に報告することは難しく、切りよく三十万としました」
「それだけの大群であるし正確に報告は無理だろう。そこは多少異なっても良いとは思う。ただ、それだけの大群を何人で倒したんだ?」
「兵士が六十人、村人は老人子供含めて百人です」
「それだけで三十万匹を倒すのは無理だろう。三十万なら一人あたり千八百七十五匹だぞ?」
「いえ狼は共喰いを行ったので、私たちが倒した数はそれよりも少ないです」
「仮に黒狼二万匹でも一人あたりで百二十五匹を倒したことになる。ちょっと考えにくい」
「相手が砦に攻めてきてくれたおかげとしか言いようがないです。特に凶暴化した際には動きが単純になり、より一層砦に攻めてきたような気がします」
「仮に砦に攻めてきたことが有効に機能したとして、灰色狼一匹に矢が二本必要だったら六十万本くらいは必要だぞ、砦にそれだけの在庫があったのか?」
「はい。それ位はあったと思います。デル・ドゥンクレ・ヴァルト(闇の森)から来る魔物に備える最前線です。備えていました」
「矢は例で言ったまでだ。実際どうだったんだ、狼を倒すのに必要な矢の量は」
「灰色なら二本程度で当然必ず当たるわけではないので三本位かと、ただ当初敵は物凄い数がいたので外すほうが難しいくらいでした。狙わなくても打てば当たる状態です。
茶色は最低五、六本位、黒だと十本以上必要だと思います。矢だけではなく、石、木、槍や剣も投げました。ぎりぎりな戦いでしたがこちらも色々と備えていたので何とかなりました」
「遠距離攻撃だけで倒せたのか?」
「いえ。狼は門を破って侵入してきました。あえて門の一部に隙を作って入ってきた狼を少しずつ倒しました。また、戦っている最中に自分たちが強くなっていることを自覚しました。死線をくぐり抜けたんだと感じました。最後、数が少なくなってからは外壁から降りて戦っています」
「死線をくぐり抜けたという感覚は私も何度か経験したことがある。なので納得はするがその自覚はどうやって感じたんだ?」
「矢や投擲の威力だったり、重いものが持てるようになったり、力が強くなったことを感じました。また今まで使えなかった魔法が使えるようになる者もでました。魔法を扱えるものが増えたので魔法攻撃も有効に活用しました」
「つまり、灰色狼が多数攻めてきた。砦に籠って優位に戦った。死線をかいくぐって兵士や村人が強くなった。茶色狼でも戦えたのは強くなったから。敵の数が多くて戦う都度強くなり、黒色狼でも近接攻撃で戦える程強くなった。こういうことか?」
「概ね、その通りです」
「うーん、筋は通っていそうだな。後はその多くの敵を倒した証拠が欲しいな」
将軍から証拠の証跡提示を求められたため、ティーモは入口付近に置かれた袋の中から黒色狼の毛皮三枚と拳大よりも少し大きい魔石十個を取り出した。それを長机の上に置くと、それを見た出席者達は感嘆の声が漏れていた。
「すばらしい毛皮に見事な大きさの魔石だ。これは黒狼を倒したという事は間違いないと思うが、これほどの物が二万もあるというのか?」
「いいえ。損傷が激しく、燃えてしまって使い物にならない物も多かったです。危険が解除された旨を早く知らせる必要があったので、討伐した翌日にはオッフェンブリュッケン(ティーモの館がある街)に向けて移動したため、討伐した狼の処理がどのようになったのかは把握出来ていません」
「うーん、死体を放置すれば疫病が流行るかも知れないから燃やしているかも知れんな。
魔石を取り出す位はしそうだが、二万の死体を回収して魔石を取り出す?
抽出した狼と未抽出の狼が近いと整理がつかなくなりそうだな、死体は砦付近に集中していそうな気がするし、それらの死体を砦から少し離してから魔石を取り出す。また砦に戻って狼の死体を少し離れた場所まで移動する。全部の魔石を抽出するのも困難そうだな」
将軍は他人には聞こえない程度、音として発せられたかどうかも怪しいくらいに小さな声でぶつぶつと言いながら考えを巡らせていた。
「アイヒェンドルフが移動した後のことは分からんだろう。アイヒェンドルフ卿よ、これから砦に戻って証拠を見せてくれないか? 誰か同行して証拠を確認してこい」
王は現地まで人を派遣して確認させることにした。
「御意。またこちらの毛皮と魔石は王家に献上致します」
「おお。これほどの物を献上してくれるとは非常にありがたい、感謝するぞ」
王は思わぬ贈り物に対して喜んでいた。
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