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米農家、異世界で豊穣神になる  作者: コガネシキ弐玉
第三章 五月

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52話 〈五月中旬〉神の秘密

 夜、夕食を終えた村では、焚き火の周りでそれぞれが思い思いに休んでいた。

 そこから離れた場所でヤナギは竹筒に入った水を飲みながら、焚き火の側で話している稲夫とタケルをぼんやり眺めていた。


「豊穣“神”ねぇ……」


「どうしたの?」


 ぼやいた言葉に、たまたま通りかかったヒナタが、不思議そうに首を傾げる。


「あー、いや、別に?ただ、稲夫さんってどんな人なのかなーって思ってさ」


「それならヒナタ知ってる!教えてあげる!」


 ヒナタは嬉しそうに身を乗り出した。


「稲夫様はね、ほうじょーの神様なの!田んぼのこといっぱい知ってるんだよ!それにとっても優しいよ!」


「へぇーそうなんだー」


 ヤナギは愛想笑いを浮かべながら頷く。


「でもでも!たまに変な事してる!うんこ集めたりとか!」


「えぇ……そういう趣味?いや、流石になんか目的があるんじゃないか?」


 ヤナギの表情が微妙に引きつる。

 豊穣神というより、何か別の怪しい集団の気配を感じ始める。


「他にはなんかこう……怪しい儀式とかしてたりしない?供物捧げたりとか、何か崇めてたりとか」


「うーん?よく分かんない!」


「だよねぇ……」


 ヤナギは苦笑しながら竹筒に入った水を飲む。

 するとヒナタが「あっ!」と声を上げた。


「そういえば前、稲夫様とタケルさんが裸で抱き合ってた!」


「ぶふっ!?」


 ヤナギは盛大に水を吹き出した。


「げほっ!ごほっ!?え!?何て!?」


「本当だよ!前ヒナタが川で溺れちゃった時に見たよ!」


「い、いや……それはきっと何か理由があったんじゃないかな!?寒くて体温温めるとか!?」


 必死に取り繕うヤナギに、ヒナタはきょとんと目を瞬かせる。


「そうなの?」


「そう!きっとそう!というか、そうであってくれ……」


 ヤナギは自分に言い聞かせるように、祈るように口にする。


「ヤナギさん?どうしたの?ヤナギさんもタケルさんと裸で抱き合いたかったの?」


「違う違う!どうしてそうなる!」


 ヤナギはぶんぶんと首を横に振りながら、全力で否定した。


「他には!他に何かなかったかな!?抱き合ってた以外で!」


 ヒナタは「えっとねぇ……」と少し考え込む。


「あ!最近、稲夫様とタケルさんが二人で人のいないとこに行ってたりする!」


 ヤナギの顔から、すっと表情が消えた。


「……ヒナタちゃん、そういうのは人に言わないもんなんだぜ」


「えっ!?そうなの!?」


「そうそう。そっと見守ってあげてね」


「分かった!そっと見守っとくね!」


 ヒナタは素直に頷く。

 その時、少し離れた場所からアキの声が飛んできた。


「ヒナター!ちょっとこっち手伝ってー!」


「はーい!」


 ヒナタは勢いよく返事をする。


「じゃあね、ヤナギさん!」


「おう、頑張ってこいよー」


 ヤナギは手を振りながら去っていくヒナタを見送った。


「なんか疲れた……なに聞いてんだオレは……」


 ヤナギは両の手で頭を抱える。

 妙な情報ばかり流れ込んだヤナギの思考は、完全に混乱していた。


「随分と楽しそうだな」


「うおぁっ!?」


 いつの間にか側に立っていたタケルに、ヤナギは飛び上がった。


「な、なんですか急に!?というかいつからそこに!?」


「……何故、尻を押さえている」


 ヤナギは慌てて手を離す。


「い、いや!?ちょっと厠行こうかなって!」


 ヤナギは愛想笑いを浮かべながら足早に立ち去ろうとする。


「そっちは厠と反対側だ。どこに行く気だ?」


「えっ……あー!そうでした!こっちじゃなかった!まだ場所うろ覚えだったんで間違えました!」


「……村に残りたいなら、怪しまれる行動は取るな。おとなしく過ごし、村に尽くせ」


「は、はい!そうさせてもらいます!」


 ヤナギは勢いよく頷くと、今度こそ本当に厠の方へ逃げていった。

 その背中を見送りながら、タケルは深く息を吐く。


「兄様、ここにおられましたか」


 その後ろからミズキが歩いてきた。


「ミズキか。どうした?」


「お告げがありました。明日は雨が降ります。いえ、もしかしたら、嵐になるやもしれません。今夜のうちに備えた方がよいかと」


「……分かった」


 タケルは静かに頷く。

 そして一瞬だけ、ヤナギが消えていった暗がりへ視線を向けた。

 夜風が吹き、焚き火の火が揺れる。

 その火がタケルの険しい表情を僅かに照らした。

※ヒナタの発言は11話と17話と47話参照

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