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米農家、異世界で豊穣神になる  作者: コガネシキ弐玉
第三章 五月

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49話 〈五月中旬〉流れを作る者

 翌朝。

 稲夫が竪穴式住居から外へ出ると、拠点の隅で何やら作業しているタケルとヤナギの姿が目に入った。

 ヤナギは地面に溝を掘り、半分に割って節を取り除いた竹を埋め込んでいる。

 その横でタケルが、大量の竹を抱えながら無言でヤナギを見張っていた。


「朝から何してるんだ?」


 稲夫が声を掛けると、ヤナギは振り返り、にっと笑った。


「排水路っすよ。なんか、村の堀が雨で崩れたみたいなので」


 そう言って、埋め込んだ竹を軽く叩く。 地面に埋め込まれた竹は村の中を通って、堀の外へ繋がっていた。


「タケルさん、水流してもらっていいっすか?」


「……俺を便利使いするな」


 若干不満げに言いながらも、タケルは水の入った土器を傾ける。

 土器に溜められていた水が地面へ流れ出した。

 水は拠点内の緩やかな傾斜を流れ、やがて竹の排水路へ入る。そのまま細い水の流れは拠点の外まで続き、堀の向こうへ抜けていった。


「おぉ!凄いな!ちゃんと排水できてる!」


 以前、村の水が排水できるように自分たちでも溝を掘って排水路を作ったが、上手く排水出来ずに水が溜まってしまっていた。

 だが、ヤナギは昨日今日の間に村の勾配を見極め、竹を加工し排水路を作ってみせた。


(すげぇな……昨日までナンパして殴られてた奴とは思えないな)


 稲夫は感心したように排水路を見る。


「よし、ちゃんと流れるな。後は杭打って補強して、草でも植えときゃ、堀も崩れにくくなるだろ」


「排水路だけじゃなくて、そこまで考えてたのか」


「いやー、これくらい大したことないっすよ。前いた村でも、こういう作業はよくやってたんで。それに、こいつらもありますし」


 そう言いながら、ヤナギは腰に差していた道具を取り出す。

 見せられたのは、鉄製の鋸とミノだった。


「鋸にミノか!しかも鉄製!?」


 稲夫は目を見開く。

 石器とは比べものにならない。 鉄器があるだけで、加工の精度も速度も段違いだ。


(そりゃ、作業も早いわけだ……)


 だが、それだけではない。

 排水路の角度、水の流れ、竹の組み方。  どれもちゃんと考えられて作られている。


(木工の技術自体も高いな……)


 稲夫は感心しながら、ふと昨日作った弩を思い出した。


「なぁヤナギ、実は作ってほしいものがあってさ。弩っていう――」


「稲夫様、少しよろしいですか」


 ヤナギに弩を作ってもらおうと頼もうとした時、タケルに呼び止められる。

 真面目な声色だった。

 タケルは稲夫を連れて、ヤナギから少し離れる。


「どうした?」


「身元も割れていない者に、あの武器を見せるのは危険です。それに、鉄器を持ち、高い技術力まで持った流れ者など怪し過ぎます」


「あぁ……確かに……」


 稲夫は思わず頷く。確かに不自然だった。

 鉄器は貴重品だ。 流れ者が持ち歩くには、あまりにも出来過ぎていた。


(鉄製の道具とか、この世界だとSSR装備みたいなもんだな……)


 そもそも、高度な木工技術まで持っている者が、流れ者になっている時点で何か訳ありの可能性もある。

 

「急にどうしたんっすか?何か頼みたかった様子でしたけど」


 ヤナギが怪しそうにこちらを見ていた。


「い、いや!?別に!?」


 稲夫は慌てて取り繕う。

 何とか誤魔化し方を考えながら視線を逸らす。 その時、地面に埋め込まれた竹の排水路が目に入った。


「その、水門って作れるか?」


「水門って、田んぼの水を調整するやつっすよね?」


 あっさりとした返答だった。

 稲夫は内心ほっと息を吐く。実際、水門を作ってほしいのは本当だった。

 今の田んぼは、石と土を掘り返して水の流れを変える原始的な方法で灌漑している。

 水門ができれば、水の管理はずっとやりやすくなる。それに、水の管理を担っているミズキの負担も減るはずだ。


「じゃあ、頼むぞ。かなり助かると思う」


「任せてくださいって。木工は得意分野なんで」


 ヤナギは軽い調子で笑った。

 その笑顔を見ながら、稲夫は思う。

 この男、本当にただの流れ者なのだろうか、と。

 頼もしさと不安が、少しずつ同じくらい大きくなっていた。

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