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私は息を止めていたのかもしれない。
「お嬢様」
とメアリーに言われ、ハッと息を吸い込んだ時、むせかえるような血の匂いが鼻腔を満たし猛烈な吐き気がした。
「うっ…………」
よろめく私をメアリーが支える。
いつしかカミラは血溜まりの中にうつ伏せに倒れていて、すっかり動かなくなっていた。
「あぁ……なんて、こと…………」
言葉もない。
残ったカンテラは、私とメアリーのふたつだけ。
ぼうっと心細く照らされる城内からは、大勢の何かが私たちを決して逃さないように見ている気配がした。
メアリーがかちゃりとカンテラを掲げ、静かに言った。
「行きましょう」
「どこ、へ……?」
「祭壇です。儀式を終わらせませんと」
「ああ……そう、そうね…………」
赤いワイン、白ヤギの毛、一対の緑のヒスイ石。
きちんと揃った捧げ物。
私たちは足元をカンテラで照らし、薄暗い回廊を無言で歩いた。
何度も足元に気配がする。何度もつまづきそうになる。
* * *
祭壇は変わらず、静かに闇に沈んでいた。
けれど、カンテラの光がわずかに届くその台座には、先ほどはなかった何かが載せられている。
私とメアリーは、互いに黙ったままそれらを見つめた。
――赤い液体がたっぷり詰まったワインの瓶
――あれは、アロルドルフの血。
――真っ白で長い髪
――それは、クラリッサの頭、なくなっていた上半分。
恐怖のためか髪は真っ白に変わっていて、両目は潰れてどこかわからない。
それから、
――緑の一対の丸い玉
――そう、カミラの緑の両目。とてもきれい。
「そろっています」
とメアリーに促され、私は祭壇に近づき祈りの言葉を唱え始めた。
三つの捧げ物を前に跪いて、ずっと祈り続けた。
夜が明けて、朝が来るまで、ずっと。




