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…………ぁぁ、ゔあああああああああああっ
すぐそばで獣のような呻き声が響き、何かが私を掴む感触がして、私は思わずバッと手を振り払った。
「あ……カミラ…………?」
私にすがろうとしたのはカミラだった。私は呪いの正体を見たようにゾッとした。
カミラはいつもの綺麗な緑の目で私の方を見ていたけれど、もうすっかり正気ではなくなって、焦点は定まらず、口からは不規則な呻きとよだれがボタボタと落ちた。
…………あ”あ”っ、あ……、ぅぁ、ぁぁ………ああ、あああああああっ………!!
メアリーがとっさに私を庇うように、私の腕を引いた直後、カミラはつんざくような叫びを上げ、手にしたカンテラを床に叩きつけた。
ひとつ灯りが減る。私たちの周りは少し闇が濃くなり、割れたガラスの破片が飛び散った。ピリッとした痛みを手と頬に感じる。ガラスの破片がかすめていったのだ。メアリーが私をカミラから離してくれていたおかげで、その程度ですんだけれど、怪我などほとんどしたことがない私は、すっかり怯えてしまった。
けれど、それも直後に起きた出来事にかき消され、私は自分が怪我をしたことをすっかり忘れてしまう。
カンテラを叩き割ったカミラは、大きめのガラスの破片を素手で拾うと、ぐうっと力を込めて両の手で握りしめた。
ポタ、ポタッ、パタタッ……
ふくよかな手のひらにガラスが食い込み、あっという間に血が勢いよく床に落ちた。緑の目は狂気に満ちて、自分の痛みなど全く気にしていないようだ。
「カミラ、もうやめて! 手が……手が血まみれになるわ。ああ、指もちぎれちゃう……」
私がそう言ってもカミラには何ひとつ届いていない。
ヒッ、ヒヒッ、アハ、ハ、アハハハァッ……ァァ!!!
狂った笑い声がけたたましく城内に響く。
それからカミラは手にしたガラス片を、思い切り自分の目の上に突き立てた。ブワァッと噴き上がる鮮血。城の中は暗く、色はほとんどわからなかったけれど、明るい場所ならばカミラが一瞬で真っ赤に顔を染めたのがわかったに違いない。
「なっ、なにしてるの……」
思わず口にしてしまったけれど、答えが返ってくるはずもない。
カミラは突き立てたガラス片で、右目の周りをなぞるようにグリグリとえぐりはじめた。
血が恐ろしい勢いで顔から床に流れ落ちて、
ボトッ ビチャッ……
右目が血溜まりに落ち、小さく血飛沫を散らしてゴロリと転がった。
そしてカミラは続けて左目にガラス片を突き刺し、同じように目玉を抉り出した。
ヒ、ハハッ…、ハハぁっ、ヒャハッ、キャハハハハハァ…………
カミラはずっと、ずっと笑い続けていた。
グチャッ、グチャ、グチャ、グチャッ……
二つの目玉が床に転がり落ち、暗闇へ消えていった後も、笑いながら自分の顔をガラス片でかき混ぜ続けた。
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