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 「あなたよ、クレイ君。私も、あなたみたいな子に魔法を教えてみたいの」

 メイヤーはクレイと視線の高さを合わせて、そう言った。

 「え、でも、俺には師匠がいます」

 クレイは「そうだよね?」と言うように、ステアを見た。ステアは頷いた。

 「もちろん、私はお前の先生だ。それは変わりない」

 「そ、そっか……」

 クレイは困ったようにステアと、メイヤーを見る。

 クレイにとっては、魔法の先生が増えることは、悪くない話だろう。

 しかし、この村に吸血鬼が増えるというのは、大問題だ。

 「あー……ええと、メイヤーさん。クレイに教えたいってのはわかったけど、どうして、この村に住みたいんですか?しかも、ご家族総出で来るなんて……」

 オレの質問に、メイヤーはさらに目を輝かせた。

 「私、人間の魔法使いにとっても興味があるのよ!ちょっと前まで、交流があったんだけど、それが最近突然禁止になっちゃったの。7官が勝手に交流禁止を決めちゃってね。あ、7官って言うのは、私たちのお偉方の事なんだけど……それで、マーリークサークルの入学者も軒並み退学になっちゃうし……でも、人間の魔法使いって、私たちと違った魔法形式を使うし、それがそこそこ発展しているから、私としては是非とも習得したいと思っているの。でも、危険だからってそれも禁止になっていて……」

 メイヤーさんは、しばらく一人で熱く語っていたが、所々にオレの知らない単語が出てきて全てを理解することはできなかった。とりあえず、彼女が人間の魔法使いにとても興味津々で、吸血鬼の世界では交流ができないから、人里に降りてきた、ということらしい。

 「ステアが良い場所を見つけたって言うし、人間の文化まで勉強してるって聞いたら、羨ましくなっちゃって。うちの旦那も魔法の教師としては優秀よ。せっかくならメーラにも人間について勉強させたいわ。もう、あんなことをさせないためにも」

 メイヤーは楽しそうにそう話した。

 メイヤーの話は終わりそうになかったが、ステアが「とりあえず、そういう事だ」と言ってぶった切った。

 「彼らはひとまず帰らせる。この村にいられるかどうかは、これから村の皆と話し合う。結果は私が責任を持って連絡する」

 「あ、そうね。あんまり長居するとご迷惑よね。皆さまはこれから眠るんですよね。私たちとは真逆。うふふ」

 メイヤーは何がおかしいのか、クスクスと笑いながら集会場を出て行った。男とメーラも一緒に。(メーラは少し退屈していたらしく、あくびしていた)

 吸血鬼たちが出て行って、集会場のなかにため息があふれた。

 「……良くしゃべるおばちゃんだな……」

 村の男性が呟いた。

 その声が引き金になったように、誰かが吹きだす。

 「本当に。ふふふ……」

 「なんか、普通の人だったね、ははは……」

 「緊張して馬鹿みたい」

 笑い声はだんだんと大きくなり、みんな笑いだした。

 オレはその様子をぽかんと見ていた。

 笑い声に驚き、慌てて戻って来たステアも、同じようにぽかんとしていた。

 「何故、彼らは笑っているのだ?」

 「オレにもわからん」 

 笑いが一息つくと、村長が皆を見て口を開いた。

 「さて、この村に住みたいと言う吸血鬼が三人増えた訳だが……どうだい?絶対に嫌だという者はいるかい?」

 手を挙げるものはいなかった。

 「それじゃあ、不安だって者は?」

 大半の人間が手を挙げた。

 「それじゃあ、賛成だって者は?」

 数人が手を挙げた。

 「まあ、そういうこった。ステアさん、ケビン、彼らの事はあんたたちに任せるよ。この村に住んでも問題ない吸血鬼かどうかを見極めてほしい。それで、今まで通りに話し合いを続けたい」

 村長の言葉に、村の皆は頷いた。

 オレとステアとクレイは、ぽかんとしたまま、村長の言葉に頷いた。


 オレとステアとクレイは、古城に帰り、キッチンに集まって腰を落ち着けた。

 「どうして、村の者は反対しないのだ?」

 「なんでだろうな?」

 「……みんな、笑ってたね」

 クレイの言葉に、オレとステアは顔を見合わせる。

 笑いが起きた時、一瞬、村の皆の気がふれてしまったのかと思った。

 しかし、村長も、他の皆も落ち着いていた。

 三人の吸血鬼たちの受け入れを、仕方なく受け入れるのではなく、かといって、頭から拒否するのでもない。

 まずは、ステアとオレに、彼らを見定める時間をくれたし、不安なところがあると口に出して言ってくれた。

 その上で、この村に迎え入れるかどうかを考えてくれようとしている。

 「……メイヤーさん、だっけ?あのひと、人当たりが良さそうだったからなあ……危険はないと思ってくれたのかなあ……」

 「……しかし、私が言うのもなんだが、タロルの顔は怖いだろう?」

 「タロルって、旦那さんの方?」

 「そうだ」

 「うん、怖いな。あれは怖い」

 オレの言葉に、クレイもこくこくと頷く。

 「あの顔を見るだけでも、反対意見が上がりそうだが……あ、タロルは顔は怖いが、とてもいい吸血鬼なんだぞ。すごく良い人なんだ。魔法の教師としても優秀だ。私は彼から魔法薬について学んだ。お前にも教えてくれると思うぞ、クレイ」

 ステアの言葉に、クレイは期待に目を輝かせる。

 「そうかあ……でも、なんでだろうなあ……なんで、皆、あんなに怖がらずにいてくれたんだろう?」

 オレは、そう呟きながらも、頭の中がぼんやりしている事に気付いた。

 よほど緊張していたのだろう。古城に返って来てから、疲れがどっと出てしまった。

 しばらく、椅子から立ち上がれそうもない。

 「……いいや、考えるのは明日からにしようぜ。オレはもう疲れた。寝たい」

 「そうだな。ひとまず、時間がもらえたわけだし……今日はもう寝るか。クレイ、お腹が空いているだろう?」

 「……あんまり。お昼の残りがあるので、それを食べます」

 「オレもそれでいいや。スープがあったよな?」

 オレとクレイは、スープとパンの残りを分け合って食べると、すぐに自室に引き上げた。

 寝る直前、メイヤーがステアの師匠だったと言っていたことを思いだした。

 (あのメイヤーって人、何歳なんだ?)

 人間で言えば、30~40代にしか見えなかったが、吸血鬼は外見だけでその年齢を判断することはできない。ステアも200年は生きていると言っていた。

 それに、人間の魔法使いと吸血鬼が交流をしていたなんて話、聞いたことが無い。それが、ある日突然禁止になったってことも。

 (わからねえことだらけだな……また、隠ぺい工作してやがるのか?政府は……)

 そんな事を考えていたら、いつの間にか眠っていた。

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