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 ステアに続いて、吸血鬼の三人も入って来た。

 そのうちの一人、おそらくメーラの父親である男性の吸血鬼の顔を見て、オレは思わずうめいた。

 背はステアと変わらないくらいで、細身なところも似ているが、その顔はステアが可愛らしく見えるほど恐ろしいものだった。

 鋭い目、とがった鷲鼻、裂けたように大きな口、その口から覗く犬歯は、オレが今まで見たどんな吸血鬼のものよりも太く鋭い。髪と眉は黒々としており、その額には大きな傷があった。

 村の女性たち数人が、悲鳴を飲み込むのがわかった。

 「ごめんなさいね、この人、顔が怖いでしょう?」

 その場の空気にまるでそぐわない、陽気な声があがった。

 女性の吸血鬼だった。

 メーラの母親であると思われるその吸血鬼は、男性とは対照的に、驚くほど人間っぽい外見をしていた。

 一般の吸血鬼とは違い、小太りな体形で、肌も人間でいう健康的な色をしていた。丸い目に丸い鼻、微笑む口元にはえくぼまでできている。  

 「でも、安心して。いきなり噛みつくような真似はしないから。突然押し掛けてしまってごめんなさい。ステアには手紙を出していたんだけど、この人読んでなかったらしいのよ」

 そう言って、ステアの背中をばしんと叩く。

 そのしぐさは、どこにでもいるおばちゃんのようで、オレは少々面食らった。

 「すまない。少し前に手紙を受け取っていたのだが、読むのを忘れていて……」

 ステアは村の皆に頭を下げた。

 「そんな事だろうと思って、返事を待たずに来ちゃったの。この人、すーぐ手紙を溜め込んじゃうのよ。しかも筆不精でなかなか返事を寄越さないし」 

 女性はそう言ってあははと笑う。

 「ええと、ごめんなさいね。コウモリたちで驚かせちゃったってステアに聞いて。悪かったわ。怖がらせる気は無かったの」

 女性はそう言って頭を下げた。女性の後ろで、男性とメーラもぺこりと頭を下げる。

 それを見て、村の皆から少しだけ緊張が取れたのがわかった。

 村長が一つ咳払いをして、前に出る。

 「初めまして、私はこの村の村長をやっています。あなた方は、どういった理由でここへ?ステアさんに会いに来たのですか?」

 「それもあるんですけど、実はお願いがあってきました。私たちをこの村に住まわせてくれませんか?」

 女性は、目を輝かせながらそう言った。

 

 「こっこの村に、ですか?」

 さっきまで落ち着ていた村長の声も、さすがにひっくり返っていた。

 「ええ、そうなの」

 女性はそんな村長の様子に気付かないのか、楽しそうに続ける。

 「先日、うちの子がこちらで失礼を働いたでしょう?その時に、こちらの様子をステアに聞きましてね。学校に通う子供たちが沢山いらっしゃるって。あ、その前に、謝らないといけませんわね。メーラがあんなことをしてしまって、本当に申し訳ありませんでした」

 女性は頭を下げ、メーラも一緒に「ごめんなさい」と頭を下げる。男性も同じく頭を下げ「申し訳ない」と言った。男性の声は、まるで地獄から響くような低い声で、一瞬、何を言ったのかわからなかった。

 「その時、怪我をされた方はいなかったと聞いていますけれど、本当に申し訳ありませんでした。少ないですけれど、お詫びの品も持ってきましたの。本当はもっと早く来たかったんですけれど、ステアから皆様を怖がらせるからと言われていましてねえ」

 「…………」

 「あ、この後、隣の村の女性の所にもいこうと思っているんです。錯乱の魔法なんて危ないものをかけてしまったんですもの、魔法の後遺症が無いか確認しておかないと、心配ですしね」

 「それは問題ありませんよ。私が見ましたから……」

 ステアが横から口を挟む。

 「でも、あなた、ああいう魔法は下手でしょう?昔から、治癒や回復の魔法が苦手だったじゃない」

 「それは昔の話です。今は誰よりもうまくできます」

 「あら、誰よりも?」

 「いえ、師匠よりは下手ですが……」

 「あら、ごめんなさいね、こちらの話です。ええと、何だったかしら?ああ、そうそう、この村にはステアが住むことになっているんですよね?それで、良かったら、私どももその仲間に加えてほしいんです。この村の子供たちは、どの子も賢くて、勉強熱心でいらっしゃるんですって?」 

 女性が集会場の中を見回すが、ここには今、子供たちはいない。全員親が家の中に押し込んだのだ。

 しかし、クレイはいる。

 オレの隣にいるクレイを発見して、女性はぱあっと顔を明るくした。

 「もしかして、あなたがクレイ君?ああ、やっぱり!初めまして、私はメイヤーよ。ステアの魔法の先生だったの」

 「し、師匠の師匠?」

 「そうよお。あら、あなた、良い魔力を持っているのね。あなたの魔法をみせてもらったわ。あの魔法陣はよく描けていたわねえ。こんなに小さいのに、偉いわあ」

 メイヤーがクレイに近づいてきて、手を差し出してきた。

 クレイは逃げることは無かったが、戸惑ったようにオレとステアを見る。

 「クレイ、彼女は私の魔法の先生だ。ご挨拶を」

 「クレイです。よろしくお願いします」

 クレイはメイヤーと握手を交わした。

 (えらいぞ、クレイ)

 この緊張状態の中、クレイの一挙手一投足が村の皆から見られている。ここで、クレイが逃げ出そうものなら、村の皆はクレイ以上に怖がってしまうだろう。

 「メイヤーさんは、この村に住みたいんですか?どうして?」

 クレイが聞いた。 

 誰もが聞きたかった核心の部分を、クレイが聞いてくれた。

 「あなたよ、クレイ君。私も、あなたみたいな子に魔法を教えてみたいの」

 メイヤーはクレイと視線の高さを合わせて、そう言った。


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