48
百聞は一見に如かず、という言葉がある。
使い方は間違っている気がするが、オレは「実際に目の当たりにする事」が、どれだけ人に衝撃を与える事かわかった気がした。
オレとステアと、村の皆は何度も話し合いを重ねた。
お互いに、どんどん理解が深まり、良い関係が築けそうだと実感できるまでになった。
しかし、大勢のコウモリを率いた吸血鬼が三人現れただけで、その積み重ねてきた時間が全て吹っ飛んだのがわかった。
(ああ、もうダメだ。もう、話し合いもしてくれないかもしれない……)
オレは、空を覆い尽くすようなコウモリたちを見上げて、そう思った。
吸血鬼と少しは渡り合えるオレでさえ、この光景には、足が震えるほどの恐怖を感じた。村の皆が、この世の終わりのような恐怖を感じても、誰が責められようか……
圧倒的な力の差を見せつけられると、人はもう、その場に踏みとどまることしかできなくなる。
吸血鬼の三人がゆっくりと降りてくる。
コウモリたちは空に留まり、降りてくる様子は無い。こちらを監視しているように見える。
降りてくる吸血鬼の元に、ステアが駆け寄るのが見えた。
さすがのステアも、顔を強張らせている。
目が合うと、口を引き結ぶのが見えた。口惜しそうに、目を伏せる。
(そうだよな……これはもう、諦めるしかないよな……)
気が付けば、クレイとジェナがオレの傍にいた。クレイはステアと同じ表情だった。
オレはクレイの手を握り、何か声をかけようとしたが、何も言えなかった。
ジェナは震えていた。
「あの人たちは、ステアさんの知り合いよね?そうよね?」
今にも泣きそうな顔でそう聞いてくる。
「たぶんな、あの子供、メーラって奴もいるし、そうなんだろう……」
ジェナの肩を撫でてやると、少し落ち着いたようだ。
村人から距離を置いて、吸血鬼の三人は地に降りた。ステアと何か話をしたあと、吸血鬼の一人が天に向かって手を伸ばした。
すると、それが相図だったかのように、コウモリたちが四方八方へ飛び去って行った。
いつもの空が戻って来た。
一番星が姿を見せ始めた、いつもの薄暗い空だ。それだけで、これほど安心できるとは思わなかった。
ステアは吸血鬼たちを連れて、古城へと向かった。
オレは集会場へ行く。
村の皆は、オレについてきた。
「これは、どういう事なんだ?」
村長がオレに聞いた。
この場全員の疑問だろう。
オレも同じだった。
「わからない。ステアも知らなかったはずだ。知っていたら、皆にちゃんと言うはずだ」
こんなバカげたサプライズをするような奴ではない。これまでは何より、村の人たちの不安を取り除いて、吸血鬼に不要な恐怖を感じないように努めてきたのだ。
村の皆は不安そうな顔で、お互いを見る。
どうして、吸血鬼たちがいきなりやって来たのか?その目的は?
ここ数日の話し合いで、吸血鬼の悪い噂のほとんどを否定してきた。
しかし、それが何だというのだろう。
コウモリたちを従えて空を飛ぶという、ただそれだけの事で、これほどまでに圧倒的な力を感じさせる生き物に、むやみに恐怖を抱くなという方が無理なのだ。
恐れて当然。
住み分ける方がお互いのためだ。
オレでさえそう思った。
村の皆も、そう思っているはずだ。
「あのさ、みんな……」
オレが口を開いた時、集会場の入り口が開いた。
「みんな、いるか?」
顔を出したのはステアだった。
その後ろには、見知らぬ顔が三人いた。
集会場の空気が一瞬にして張り詰めた。
ステアもそれを感じたのだろう。中に入ってこようとはせず、その場に立ち止まった。
「紹介したい。私の同胞だ。以前、話をしたメーラの家族だ……どうだろうか?」
それは入室の許可を求める問だった。
オレは村長の顔を見る。
村長の顔は、ものすごく強張っていたが、それでも落ち着いていた。
「ステアさんのご友人、なんだよね?」
村長の言葉に、ステアは「そうだ」と頷く。
村長は一度、村の皆を振り返り、彼らと目を合わせてから、「どうぞ」と言った。
ステアはほっとした顔で、中に入って来た。




