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 男の姿になったステアを見て、村人たちはぽかんとしていた。

 「?どうして化けたんだい?」

 「隠し事って?」

 村人たちは不思議そうにステアを見る。

 「今まで騙して申し訳なかった。この姿では村の者が怖がるからと、弱弱しい姿に化けていたのだ。私の本来の姿がこれだ!」

 ステアは胸を張って、そう言ってのけた。

 一瞬の沈黙ののち、驚きの声が上がった。

 「え!?それじゃあ、ステアさんは男だったのかい?」

 「その姿が本当の?」

 「え……ケビンは知っていたのかい!?」

 村の皆がオレを見る。

 「あ、うん。ステアが女の姿に化けたのは、オレのせいなんだよ。オレが言ったんだ。男の姿だと怖がられるかもしれないから、弱そうなふりしろって……騙しててごめん」

 突然のステアのカミングアウトに、オレはかなりビビっていた。今にも、村の皆が悲鳴を上げて逃げ惑い始めるんじゃないかと、気が気じゃなかった。

 オレは、しどろもどろになりながら村の皆に謝った。

 ウォルバートン先生も前に出てきて、謝ってくれた。

 オレの予想に反して、村の皆はそれほど怒っていなかったし、怯えてもいなかった。

 「なんだ、知っていたのなら、まあ、いいか……」

 「一瞬、ステアさんにケビンが騙されていたのかと思ったわよ。いくらなんでも、独身の男を騙すのはよくないわ」

 「ってことは、ケビンにはまだ相手はいないわけだね。やっぱりあのお見合い話進めようか?」

 どうやら、村の皆はオレとステアの関係を、色々と勘ぐっていたらしい。オレへの見合いの話があちこちで勃発しそうになっているが、それについては聞かなかった事にした。

 (この姿を見てパニックを起こさないでくれて助かった……)

 その時、くすりと笑い声が聞こえた。

 見ると、マックスが口元を抑えて、クスクスと笑っている。

 「何がおかしい?」

 ステアが不機嫌そうに聞いた。

 「いえ、何か魔法を使って隠していると思っていたのですが……そうですか、弱い姿をしていたのには理由があったのですね」

 マックスはそう言って微笑むと、村の皆の方を見た。

 マックスの視線を受け、ざわめいていた村の皆が静かになる。

 「皆さん、私は教会に仕える身です。教会は神をまつる場所、沢山の人が神と話をする場所、そして、魔のものから人々を守る場所としてあります。私は、人を襲うものから、多くの人を守るべく聖なる力を磨いてきました」

 ここでいう聖なる力というものは、魔法の一つだ。教会は、聖職者が使う魔法を聖なる魔法白魔法、魔族たちが使う魔法を邪悪な魔法黒魔法として区別している。そこには、魔法を使う上でのはっきりとした系統の違いというものがあるらしいのだが、オレにはわからない。

 マックスは続ける。

 「そのため、魔族と呼ばれる者たちの事も、皆さんよりは知っています。人間を襲う魔族の中には、あえて弱弱しい姿に化けて、人里に入り込んでくる者がいます。子供の姿だったり、愛らしい動物に化けたり。ですので、ステアさんを見た時から、私は彼女が、いえ、彼が何か邪な考えを持っているのではないかと勘ぐっていました。明らかに、そんな姿でしたから」

 マックスはそう言ってステアを見る。

 村人たちは、マックスの言葉で不安を抱いたのように、ステアを見た。

 「ですが、先ほどの言葉で納得しました。彼は人間について詳しくないようですね」

 「今、勉強中だ」

 ステアは胸を張って答える。

 マックスはにっこりと微笑んで、本を手に取り、村の皆を見る。

 「ここに書かれているのは、すべて創作、作り話です」

 マックスの言葉に、オレも村の皆も驚いた。ステアは一人「当たり前だ!」と叫ぶ。

 「確かに、魔獣に襲われて壊滅した村はあります。魔獣が人を襲う事もあります。しかし、ここに書かれているように人間を殺してやろうと、縄張りから出てきてまで襲う魔獣はいませんし、人間にその存在を気づかれていながら、人里の傍に住まう魔獣もいません。生贄を要求する魔獣は本の中にしか存在しません。ステアさんのように、自ら魔獣であることを明かし、人里に降りてくる魔獣は、本当に稀です」

 「吸血鬼と呼べ。魔獣とはお前たち人間が付けた呼び名だ」

 「失礼。改めます」

 マックスはステアに頭を下げる。

 「この本の中の物語を書いたのは、すべて人間の創作家たちです。実際にあった出来事を聞きかじり、書いたのでしょう。特にこの、吸血鬼が人間の死体を串刺しにしていたという話ですが、これを実際にやったのはとある国の王様です。人間の」

 「え!?」

 村の皆が驚きの声を上げる。

 「こんな残酷なことをやってのけたのは、魔獣ではなく人間です。戦争時、領土に侵入してきた敵対国の兵士の気力を削ぐためにやったといわれています」

 「…………」

 魔獣ではなく、自分たちと同じ人間がしでかした事に、村の皆はショックを隠し切れないようだった。  

 「私たち教会関係者は、こういう物語には信ぴょう性が無いと結論付けています。そのほとんどが、事実を捻じ曲げて都合のいいように作り替えられ、読み手がいかに楽しめるかを考えて書かれています。まあ、全てのファンタジーはそうやって作られているものですけどね」

 マックスは本を持ち主に返す。

 「このような本について書かれていることは信じるに値しません。娯楽として楽しんでください。教会の者でさえ、魔獣の生態についてはわからないことだらけなのです。こうして、人間の子供を助けて育てようとする吸血鬼がいるなんて、初耳ですしね」

 マックスはステアを見る。

 「こういう情報には惑わされず、ステアさん自身と話をされることを勧めます。もちろん、不安になるようなことがあればご相談ください。私はいつでも力になります」

 マックスの言葉に、村の皆は神妙な顔で頷いた。本を持って来た人々は「申し訳なかった」とステアに頭を下げた。

 「いや、いいのだ。これは、情報の偏り、教育の不足が招いた事だ」

 ステアはそう言って、気を静めた。


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