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突然ですが、ローワン(村の子供たちの一人。大抵ミックとジャックと行動している。いたずら小僧)の視点となります。
「腹が減った。食わせろ」
そう言って、ステアさんがケビンを引っ張るようにして部屋を出て行った。
俺(=ローワン)は、ミックとジャックに目くばせする。赤ちゃんの頃から一緒に過ごしている二人は、すぐに俺の考えを読み取り、目をきらりと輝かせた。
「覗きに行くぞ」
「おう」
「うん!」
俺達三人は、こっそりと二人の後を追う。
「ちょっとあんたたち、のぞき見とか最低よ」
そう言いながら、ジェナがついて来る。
注意したくせに、ジェナも小声で足音を忍ばせている。一緒に覗く気満々のようだ。
「だって、気になるじゃん!吸血鬼が血を吸うところ、見てみたいもん」
「首に噛みつくのかな?」
「なんかエロいよな」
俺達三人は目を見かわし、頷く。
ステアさんという吸血鬼が来て以来、村の男たちは少しだけ浮足立っているように見える。それは若い男だけでなく、妻子持ちの中年から、年寄りにいたるまでだ。
ステアさんが綺麗な事がその理由の一つだろう。
そして、彼女が血を吸う生き物であることも、その理由の一つだと思う。
「ステアさんに、あなたの血を頂戴♡とか言われて迫られたら、オレ、断る自信が無い」
近所に住む独身の兄ちゃんがそう言っていたのを、少し前に聞いた。その言葉を聞いた男たちも揃って首を縦に振っていた。全員、まるで怖がっておらず、むしろ、満更じゃないと言った表情だった。
その会話をこっそり聞いていた俺は、彼らがステアさんに夢を見ているような気がしないでもなかったが、ここで何かつっこみを入れようものなら怒られる気がしたので黙っていた(少なくとも、ステアさんはそんなに可愛い仕草では頼んでこないだろう)。
ただ、その時の兄ちゃんたちの表情や言葉から、吸血するという行為がなんとなくエロティックなものに分類されることを感じた。
そして、その勘は当たった。
ケビンとステアは部屋を出て行ったのだ。隠れてこっそりとするもの=エロいものだ。
ローワンはそう判断した。仲間たちもそう思っていたようだ。
「お前も来いよ、クレイ。見たことないんだろう?」
「うん、まあ……」
クレイは戸惑ったように頷いて、こっそりとついてきた。
(なんだよ、こいつ、気になんねえの?一緒に住んでるのに)
ローワンはそんな事を考えながら、二人が消えた部屋の扉に近づく。
しかし、扉の隙間から覗こうとした時「答えろ!」という、ステアさんの怒鳴り声が聞こえてきた。
「ひょっ!?」
ミックが驚いて声を上げた。
ローワン達は大慌てでミックの口をふさぎ、自分の口も閉じる。
中の二人は気づかなかったようで、ステアさんの怒りの声が外に漏れ出ていた。
クレイが慌てたように扉に手を伸ばすのを、ローワンは止めた。
「ばか、大人の喧嘩を邪魔しちゃダメだよ」
「で、でも……」
「大丈夫、もし、殴り合いになりそうだったら、人を呼びに行きましょう」
マーテルの冷静な声に、クレイは落ち着いたようだ。伸ばしていた手を引っ込めて、二人の声に耳を傾ける。
どうやら、ケビンがステアさんに怒られているようだった。クレイに引っ越しの事を伝えていなかった理由を問いただされている。
(隣の家のおっちゃんが時々、おばさんにこんなふうに叱られてるよなあ……)
ローワンの隣の家のおじさんは農家なのだが、物忘れがひどいのだ。おかみさんからの頼まれごとを忘れて帰って来ては、こんなふうに叱られている。
しかし、今回ケビンは忘れていたわけではなく、どうするかを迷っていたらしい。
「優柔不断が過ぎる!!」
ステアさんに一喝されていた。
「本当、決断力無いわねえ、ケビン」
マーテルが唇を尖らせて、そんなことを呟く。マーテルはまだ、ケビンが村人を脅迫まがいに説得しなかった事を怒っているようだ。
ステアさんの怒りはすぐに収まったようだ。静かな声が聞こえてきた。
「村人たちを説得するのは難しいぞ。そろそろ、私が軟弱な吸血鬼の仮面をかぶっていると見抜いている人間も出てきているだろうし」
ステアさんの言葉に、俺達は目見交わし「やっぱりか」と目だけで頷く。クレイの目がちょっとだけ泳いでいた。
ステアさんが最初に村に来たときは、すごく綺麗で、そして、驚くほど弱そうな吸血鬼という印象だった。
しかし、その印象はクレイが学校にやって来た時にすぐに消えた。
初めて会った時の弱弱しい感じはすっかり消えていて、学校と子供たちを見るその目には強い光が輝いていた。なにより、魔法をみせてとせがまれて困っていたクレイを助けた時のステアさんは、ちょっと怖かった。
そして、突然やって来て突然暴れだした子供の吸血鬼をお縄にした時のステアさんの魔法、あの魔法を見て、ステアさんが外見とは裏腹にすごく強い魔法使いなのだと気づいたのは、ローワン達だけではないはずだ。
吸血鬼の中にも弱っちそうなのがいるんだな、と、ちょっと余裕をぶっこいていたおっちゃんたちが、とても大人しくなったのを見ている。
(やっぱり、外見に騙されちゃダメだな)
ローワンは、ステアさんの一件でそのことを学んだのだ。




