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 「よし、それじゃあ、首をだせ」

 そう言って、ステアがのしかかってきた。

 「え?ああ、吸うのね……」

 オレが大人しく、首を差し出すと、ステアはいつものように噛みついてくる。

 チリリとした痛みが走るが、一瞬だ。その痛みだけ我慢すれば、後は何も起こらない。

 ステアは立てた歯をいたずらに動かすことは無いし、ゆっくりと吸ってくれるせいか、貧血になる事も無い。

 ぺろりと首筋を舐められると、終わりの合図だ。

 「うん、美味かった。ごちそうさま」

 「どういたしまして」

 血を吸った跡は残らない。

 魔法でも使ってくれているのか、傷は一つも見つからないのだ。

 「おい、もう、クレイと私に隠し事はするな。グラグラと迷っていてもいいから、私たちに関することなら、全部話せ」

 ステアはそう言って、オレを見る。

 「お前の意見は貴重だ。クレイにとっても私にとっても。黙り込まれると困る。いや、腹が立つ。まるで私が話を聞かない暴君のようではないか」

 「え?」

 「私はたしかに、人間の事を知らず、クレイを餓死させるところだったが、その点は反省した。それ以降、お前の意見やクレイの意見を無視することはしなかったと思っている。なのに……」

 「え!?あ、いや、違うぞ!言わなかったのは、全部オレが……」

 「わかっている!でも、お前がクレイに何も言わず、私にも言わなかった事を知った時、私はものすごくショックだったんだぞ!そんなに信用されていなかったのかと……私はお前と二人三脚でクレイを育てていると思っていた。引っ越し先を決める時も、お前がいつでも遊びに来れるようにと、お前用の部屋がある物件を探したんだ。クレイがいつでもこの村に遊びに行けるようにと、移動の魔法を先に教えようと、修行のやり方を考え直した。なのに、お前は私に何も相談せず一人で悩みやがって……」

 ステアは怒りがぶり返してきたのか、またもや怒りで頬が赤くなっている。

 「ああクソ!腹が立つ!遠慮などする人間か!?お前は!いつも通り突っかかってくればいいのだ!私の間違いを指摘すればいいのだ!回らない頭で悩みやがって、この優柔不断が!」

 「…………わ、悪かった……」

 「悪かった、で済むか!私は怒っているのだ!村人たちから偏見の目で見られるから何だ!吸血鬼として人里に降りると決めた時点で、それくらい覚悟している!お前の目から見れば、甘いかもしれないが、それでも私は真剣なのだ!」

 「わ、わかってるよ。それはわかってる!」

 「お前はクレイの親だ!私はそう思っている!私とクレイを助けてくれる人間だ。お前とクレイを引き離すことなど、私はしない!」

 ステアの言葉と、強い視線にオレは思わず泣きそうになってしまった。

 「……うん、ありがと……」

 「……礼を言われることじゃない。当然の事だ」

 ステアはそう言うと、部屋の扉を開け、外へと出て行こうとした。

 しかし、扉を開けた瞬間、クレイが飛び込んできて、ステアに抱き着いた。

 「ありがとうございます、師匠!」

 そして、オレのところにもやって来た。

 「俺、ケビンの事大好きだよ!親ってよくわかんないけど、一緒にいたいよ!」

 そう言って、抱き着いてきた。

 まっすぐな瞳でそう言われ、小さな手なのに、思いのほか強い力で抱き着かれ、オレは気恥ずかしさに顔が赤くなりそうだった。

 「俺は師匠がいて、勉強できる場所ならどこでもいいです。ケビンや皆と離れるのは悲しいけど、俺、魔法をもっと勉強して、いつでも会えるようになります!だから……」

 クレイは気持ちが高ぶったように、声を詰まらせた。目には涙が浮かんでいる。

 「あ、ありがとうございます。たくさん考えてくれて……俺、どこでだって勉強できます」

 クレイの言葉に、部屋の外で話を聞いていたらしい子供たちも、泣きそうな顔をする。

 ステアがクレイをそっと抱き締める。

 「礼など言う必要はない。お前がケビンやあの子たちやこの村を好きな事はわかっている。私の方こそ、簡単に村を出ると言いだしてすまなかった。お前には大切な場所だというのに……お前の故郷も……」

 「?故郷?」

 「私は何も聞かずに、お前をあの場所から連れ出した。いくら酷い環境とはいえ、あそこはお前の家だった。もう少し話を聞くべきだった。すまない」

 「そ、そんなこと……あそこにはもう、俺の家族はいません。だから……師匠は謝ることないです」

 「うん、お前があまり気にしていないのはわかっている。しかし……」

 ステアはクレイの顔を見ながら、何かを考え考え、言葉を紡いでいた。

 「お前を故郷から連れ出し、新しい土地に来て、お前がどんな気持ちで新しい生活を始めたかなんて考えもしなかった。私はお前に教える魔法の事ばかり気にして、それ以外見てもいなかったんだ。もう少し、お前と話をして気遣ってやればよかったと、今とても後悔している。人間は飛べない。お前は子供だから、歩ける距離も限られている。そんなお前をこんなにも遠くの場所に連れ出してしまった……」  

 「そ、それは……」

 「そう、私はお前を助けたかった。魔法の勉強をさせたかった。だが、私にもう少し人間への理解があれば、もっと違った行動ができたはずなんだ。もっとお前に寄り添っていればと、後悔している」

 ステアは少し自嘲気味に微笑み、クレイの頬を撫でた。

 「こんなこと言ってもお前は困るだけだろう。しかし、聞いてほしかっただけなのだ。これが懺悔というものだな」

 オレは我慢ならず、ステアとクレイを二人いっぺんに抱き締めた。

 「おい、苦しいぞ」

 「悪い。でも……もう、お前ってやつは……」

 オレが半泣きで二人を抱き締めていると、後ろから衝撃が来た。

 部屋の外で聞いていたはずの子供たちまでもが、オレ達に抱き着いてきたのだ。

 「ケビンおじちゃん、泣かないでよ!」

 「俺たちもいるよ!」

 「一緒にこの村に住もうよー!」

 「ねえ、脅したりしたくないってのはわかったけど、最終手段にしてもいいんじゃないの?」

 「ああもう、ステアさんかっこいい……」

 子供たちに抱き着かれ、ステアは少し驚いていたが、嬉しそうに微笑んだ。


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