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 部屋を移ると、ステアはオレから手を離し、椅子に座って何やら考え込み始めた。

 「……吸わねえのか?」

 オレが聞くと、ステアはじっとオレの首筋を睨んできた。

 「……あのさ、なんか、怖いんだけど」

 吸うなら早く吸ってくれ、という気分だ。

 「お前、どうしてクレイに私の言葉を伝えなかった?」

 「それは、悪かった……言おうと思ったんだけど、クレイがここにいたいって言うのを聞いて……それで、オレもそうなって欲しいと思って……」

 「では、どうして私にも知らせなかった?手紙が来たのは、あれから数日後だ。書けただろう?」

 「まあ、ね……」

 オレが黙り込むと、ステアは苛立たし気に立ちあがった。

 「ちゃんと答えろ!私が話を聞かないとでも思ったのか?クレイの意思をないがしろにするとでも?」

 「いや、そんなことは無い。お前はちゃんと考えてくれると思っていたよ」

 「じゃあ、何故だ?」

 ステアはオレのシャツの襟首をつかんで、うつむいていたオレの顔を無理やり上げさせた。

 嫋やかな女性の姿であっても、ステアの怒りの表情は迫るものがある。

 「クレイがここに居ることを望むのなら、私はもっと動けた。村人たちを説得できる材料を揃えることもできたかもしれない。なのに、お前は何も言わず、村人たちを混乱させている。クレイだって不安がってる。お前はいたずらにこの場を乱している。違うか?」

 「……うん、そうだと思う。悪かった」

 「謝るな!ちゃんと言え!私は謝罪ではなく理由を知りたいんだ」

 ステアはオレを乱暴に揺すぶる。

 「わかった、言うよ。でも、その前に血を吸った方が良いんじゃないか?お前、腹減ってんだろう?」

 「うるさい!今、お前の血など飲みたくない!先に言え!」

 ステアはオレをがくがくと揺すぶる。

 額に血管が浮いている。相当頭に来ているようだ。

 「わ、わかった。オレがお前にもクレイにも何も言わなかったのは……どうなるかわからなかったからだ」

 ステアはオレの襟首をつかんだまま、無言で続きを促す。

 「クレイはここにいたいと言ったが、それを村人たちが受け入れてくれるかどうかわからなかった。お前は次の街をさっさと決めちまって、この村に未練は無さそうだったし、次の街の環境はここより良さそうだったし、クレイにとってはその方が良いんじゃないかって思った」

 「……それで?」

 「それで……でも、オレはお前たちに居てほしかった、この村に。オレがここを出て行くことは考えられなかった。ここは、この村はオレの居場所だし、ここが好きだ。お前にもこの村を好きになって欲しかったけど、村の皆を説得するには時間がかかるだろうし……お前に絶対嫌な思いさせるだろうし……」

 「…………」

 「お前の準備はもう少しかかりそうだったから、その間に村の皆と話ができないかって思ってたんだけど、駄目だった。皆、本当に怖がってた。みんなが怖がるのはわかるんだ。オレはお前たち魔獣や魔族と闘ってきたから、なおさら……魔獣の暴走で壊滅した村は一つや二つじゃない。ここがそうならない保証はない。みんなの様子を見たら、このままお前たちと別れるのが正解なんじゃないかって思って……そんな感じで悩んでたら、クレイが手紙を出すことに成功した」

 「…………」

 「悪かった。この混乱は、全部オレの優柔不断が招いたことだ。クレイにも後で謝る」

 ステアはオレから手を離し、椅子に座りなおした。

 「……そんなに怖がっているのか?村人たちは」

 「ああ、まあ……でもさ、今日のみんなの様子見たら、そうでも無いのかなあって……日が経つにつれて落ち着いてきた様子ではあるんだよ。お前の姿を見ても、誰も騒ぐことは無かったし。だから……もしかしたら、上手くいくかも……」

 「優柔不断がすぎる!!」

 ステアの拳がとんできた。

 顎に強烈な痛みが走り、涙が出てきた。

 「どっちなんだ!お前はどうしたいと思っているんだ!?」

 「わかんねーんだよ!クレイにとって、お前にとって、何が一番いいのか……」

 「私が望むのは、クレイが落ち着いて勉強できる環境だ!それならば、この村であろうと、他の村であろうと構わん!クレイの望みは、さっき聞いた!この村にいることだ!お前の望みはなんだ!?」

 「……お前たちにとって一番いい場所を見つける事……できればオレも一緒にいたい……でも、村のみんなに怖い思いをさせたくないし、お前たちにも身の狭い思いを感じてほしくない……」

 「多いな。お前は我が儘だ」

 「うるせー!そうだよ!我が儘なんだよ、オレは」

 オレは頬を抑えて、うつむく。

 クレイには楽しく過ごしてほしい。勉強も生きることにも頑張り屋のあの子が、存分に頑張れる環境で生きてほしい。

 ステアはクレイの成長を誰よりも望んでいる。吸血鬼でありながら、人間の社会を学ぶほどに、クレイのことを大切に思っている。ここまで努力してくれている彼に、偏見のなかで過ごしてほしくない。ステアは気にしないと言うかもしれないが、オレは嫌だ。

 オレはそんな二人と過ごす時間が好きになった。特にクレイの成長を見届けたい。せめて、あの子が仕事のできる年になるまで、親代わりになりたい。ステアにだってできるとは思うが、まだ心配な部分があるのだ。

 できる事ならこの村で、オレの信頼する人たちの中で育ってほしい。

 しかし……

 「村人たちを説得するのは難しいぞ。そろそろ、私が軟弱な吸血鬼の仮面をかぶっていると見抜いている人間も出てきているだろうし」

 「……まあ、そうだな」

 「よし、それじゃあ、首をだせ」

 そう言って、ステアがのしかかってきた。

 「え?ああ、吸うのね……」

 オレは大人しく首を差し出した。


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