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 クレイは満面の笑顔で村中を駆け回り、子供たちにステアが帰ってきたことを告げて回っていた。

 大人にばれないように、こっそりと話をしていたはずなのだが、クレイのその様子を見た大人たちは、すぐにピンと来たようだ。

 そりゃあ当然だろう。

 昨日まで何かに憑りつかれた様な顔をして、目を血走らせていたクレイやマーテルたちがニコニコ顔で古城へと駆けて行ったのだ。

 気づかない方がおかしい。

 子供たちの後を追うように、大人たちが古城へと集まりだした。

 クレイと子供たちは、まさか自分たちが広告塔になっているとは思わなかったようで、大人たちが集まって来るのに気づくと大慌てし始めた。

 「師匠!隠れてください!」

 「この城、隠し部屋があるの!この前見つけたのよ!そこが良いわ!」

 「やばい!村長さんまで来たよ!」

 子供たちが真っ青になって大騒ぎしているのをよそに、ステアは落ち着いたものだった。

 「そう焦るな。隠れないぞ。隠れてしまったら、彼らを怯えさせてしまう」

 そう言って微笑み、クレイと子供たちと手をつないで外へと出た。

 古城の庭には村人たちが集まっていた。

 ステアと、ステアにくっついて不安そうな顔をしている子供たちを見て、困ったような顔をしていた。

 「お茶会の続きをしよう」

 ステアが呪文を唱えると、城の中にあった大きなテーブルと白いテーブルクロスが現れた。

 大きなポットにお湯が沸き、ティーカップが沢山並ぶ。大きな皿が数枚現れ、その上にパンやお菓子が並ぶ。

 「どうぞ、食べて飲んでくれ。お菓子もお茶も美味しいぞ」

 ステアは村人たちににっこりと微笑んで、そう言った。



 お菓子には子供たちが真っ先に食いついた。それに押されるように、大人たちもお茶を飲み始めた。 

 この村では珍しいお茶の味に、いっとき、和やかな雰囲気が流れた。

 ステアの傍には子供たちがいた。ステアを守るように、ぴったりとくっついている。 

 大人たちはその様子を見て、特に不安を感じていない。ステアが危険なものではない事を十分に理解しているからだ。

 ステアは子供たちを傷つけたりしない。

 そして、村の大人たちを傷つけたりもしない。

 ステアが怒って復讐してくるんじゃないかと言っていた村人も、そんな事は忘れたような顔をしている。

 全員がお茶に口をつけたところで、村長が口を開いた。

 「その……ステアさん……君は、この村に戻って来るつもりなのかな?」

 村長はかなり慎重に言葉を紡いでいるようだ。顔が強張り緊張している。

 ステアはそんな村長に穏やかな笑顔を浮かべて、首を横に振る。

 「いいえ、ここに来るのはこれで最後です。私とクレイはこの村から出て行きます」

 ステアのこの言葉を聞いて、一番驚いたのは子供たちだった。

 「えー!?」

 「なんで!?」

 「戻って来るんじゃないの!?」

 ステアは子供たちの言葉に嬉しそうな顔をするも、「いいや、出て行く」ときっぱり言った。

 「この村の皆には迷惑をかけた。吸血鬼の私が何を言っても、不安は残るだろう。恐れを抱いたまま暮らすなんて、嫌に決まっている。なによりクレイにそんな環境で勉強してほしくない」

 「…………」

 クレイは何か言いたげに口を動かしたが、言葉にはしなかった。ただ、うつむいてしまった。

 「安心してほしい。ここに私以外の吸血鬼が来ることは無い。あの子供の吸血鬼も今は親に叱られ反省している。二度とあんな真似はしないし、させない」

 ステアの言葉は良く響き、村人たちは一様にほっとした様子をみせた。

 クレイも子供たちも、大人たちのそんな様子に気付き、声をあげにくそうな顔をしている。

 ステアはクレイの傍にいる子供たちに向き直った。

 「お前たち、クレイの傍にいてくれて本当にありがとう、感謝する。お前たちの手紙をもらってとても嬉しかった。吸血鬼の私に優しい言葉をかけてくれてありがとう」

 「……当然よ。クレイは友達だもの。ステアさんのことだって、私たち大好きなの」

 マーテルが顔を上げ、大きな声でそう言った。

 マーテルの瞳には強い光が宿っている。

 (こいつ、何か言うな……)

 オレだけでなく、傍にいた子供たちもマーテルを緊張した顔で見つめている。

 マーテルの声の強さに押されたように、クレイも顔を上げる。

 「師匠、俺、この村が好きです。師匠はどうですか?」

 クレイの声は震えていたが、力強かった。

 ステアは不思議そうな顔でクレイを見る。

 「もちろん好きだ。嫌いなわけはない。ここは良い村だ」

 「そ、それなら……それなら、ここに……俺、ここにいたいです。みんなと一緒に……師匠も、一緒に……」

 「え?待て、クレイ。お前はここにいたいのか?そんなこと……」

 ステアは慌てたようにクレイの顔を覗き込む。

 「それならどうして、もっと早く言わなかった?手紙にだって書けただろうに……」

 「え、でも……」

 「ケビンから聞いていただろう?私が引っ越しの準備をしていることは」

 クレイが驚いた顔でオレを見る。

 オレは思わず目を逸らす。

 「おい、こら、ケビン。お前まさか……」

 ステアが怒った顔でオレを睨む。

 「クレイに伝えていないのか?」

 「ええと、その……ごめん」

 「ふざけるなよ!この大馬鹿者!手紙には何もなかったから、てっきりクレイも引っ越しに賛成だと思っていたのに!!」

 「しょうがなかったの!」

 突然、マーテルがオレとステアの間に割り込んできた。

 「しょうがなかったのよ!ステアさん、わかって!ケビンもすっごく悩んでいたの!」

 マーテルはそう言って、オレを見る。

 その表情は何故か生き生きとしていた。しかし、すぐに悩まし気な表情を作り(絶対に作った)、ステアに向き直る。

 「ケビンはね、悩んでいたの。クレイと別れたくなかったから。だから、言えなかったの」

 「……そうなのか?」

 「え、いや、まあ……」

 ステアは驚いた顔でオレを見る。

 マーテルの言葉は嘘ではない。クレイがこの村にいたいと言ってから、オレはずっと悩んでいた。

 村人たちを説得できないかと、子供たちと一緒に真剣に悩んだ。

 オレもクレイが好きだったから、この村で健やかに育ってほしいと思ったからだ。

 ステアと一緒ならクレイはどこでだって問題なく生きていけるし、勉強もしっかりできるだろう。

 それでも、この村にいてほしいと思った。

 「……オレはクレイが……」

 「だって、ケビンはクレイのお父さんなんだもの!!」

 「いや、ちょっと待て!!」

 マーテルの突然の言葉に、オレばかりでなく村人全員が驚いた。

 「え!?そうなの!?」

 「ちょっといつの間に!?」

 あちらこちらで、驚きの声が上がる。

 「違う違う!それは違う!」

 「いいえ、そうなのよ!ケビンはクレイのお父さんなの!だってそうでしょう?ケビンはクレイの面倒見てるじゃない。お父さんよ、これって!」

 「いや、それはそうだが……でも、お父さんってのは……」

 「お父さんは子供と一緒にいるものだわ。そうでしょう?ケビンはクレイと一緒にいたいと思ってる。でしょう?」

 マーテルが詰問でもするようにオレを見る。

 その目は「そうだと言え!」と訴えてきた。

 「ま、まあ、そうだな。一緒にいたい。でも、実の父親ってのは違うぞ」

 「わかってるわ」

 マーテルがオレにだけにわかるように、にやりと笑って見せた。

 (こいつ、何を言うつもりだ!?)

 マーテルが何かを企んでいるのを感じたが、オレには止めようがなかった。

 「ほら!聞いたでしょう?クレイとステアさんを追い出しちゃったら、ケビンもいなくなっちゃうわよ!!」

 マーテルの言葉が古城の庭に響き渡る。

 一拍の後、村人たちが驚きの声を上げた。

 「え!?ちょっと待てよ!ケビンも出て行くのか!?」

 「それは困るぞ!」

 「冗談じゃない、考え直してくれ!」

 村の大人たちがこぞってオレの周りに集まって来た。

 「……へ?」

 オレは驚きの展開に頭が付いていかず、間抜けな声をあげてしまった。



 「どうしてケビンまで出て行くのよ?」

 「それは困る。考え直してくれ」

 「まさか、本当にクレイのお父さんなの?そうなの!?」

 村人たちに詰め寄られ、ジェナに服を掴まれ揺さぶられながら、オレは何と答えるべきかと迷う。

 マーテルにわき腹をつつかれ、彼女を観ると、キラキラした目でオレを見上げていた。

 彼女の目はは「今だ。これを機にクレイとステアをこの村にいさせるように言え!」と言っていた。

 「…………」

 オレもそのチャンスだと思っていた。

 しかし、何かが違う気がした。

 (それを言ってしまっていいのか?)

 そんな躊躇いが、オレの頭に浮かんだ。

 このまま、オレが「そのつもりだ。ステア達と一緒に出て行く」と言えば、村人たちは考え直してくれるかもしれない。

 しかし、それは危ういと感じた。

 「ちょっと!なに悩んでんのよ!」

 マーテルがオレの足を踏んづけて、そう囁いてきた。オレが何も言わない事に苛立っているようだ。

 村人たちはすがるような目でオレを見ている。

 畳みかけるなら今だ。

 弱みに付け込んで、ステアとクレイの移住権を勝ち取ることができる。

 しかし……

 「なあ、みんな!みんなはステアの事が怖いか?」

 オレは大声で聞いた。

 村人たちはぽかんとした顔でオレを見た。

 (よし、聞いてくれる)

 オレは拳を握りしめて、更に続ける。

 「ここにきて、こうしてお茶を飲んでるってことは、怖い訳じゃないんだよな?そうだろう?」

 「……まあ、そりゃあ……」

 「ステアさんは、怖い人じゃないし……」

 「だよな!」

 (ありがとう!答えてくれて!)

 ここで沈黙が支配してしまったら、話し合いもクソも無いのだ。

 マーテルがオレを「何を言ってんのよ!?」という目で見上げてきているが、こちらは見ないふりをする。

 「オレはクレイの事が好きだ!ステアの事も、良い奴だと思っている。クレイはステアの弟子になったけど、生きるためには吸血鬼の世界じゃダメなんだ。ステアはそれを考えて、この村にクレイと一緒に来た。でも、ステアははっきり言って、人間の事がまるでわかってない!最初の頃はクレイを餓死させるところだった!」 

 村人たちが驚いた顔でステアを見る。

 ステアは渋い表情をしたが、特に何も言わなかった。

 「オレはこの二人が心配なんだ。少なくともステアがもう少し人間ってものを理解するまでは一緒にいたいと思っている。そんで……」

 オレは一つ深呼吸する。

 「この村は、すごく良いと思うんだ。オレの故郷だし、クレイもステアも気に入っている。だから、二人をこの村に迎えてほしい。この通りだ!」

 オレはそう言って、頭を下げた。

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