32
古城に帰ると、子供たちが学校から帰って来ていた。
何故か、部屋の隅っこにはいつくばっている。
「何してるんだ?何か落としたのか?」
「髪の毛だよ!おじちゃんも探して!」
「ステアさんの髪の毛がいるの!」
「髪の毛?」
ローワンとミックは、床から一本の髪の毛をつまみあげ、それを観察しだした。
「違う、茶色だ。これ、ケビンおじちゃんのだよ」
そう言って、床に捨てる。
「おいおい、なんで髪の毛がいるんだよ?っていうか、汚いぞ。よごれるぞ」
「魔法のページが見つかったんだよ。今、クレイが訳してる」
「え!?本当か?やったな、お前たち」
「でも、『連絡する対象の身体的一部』ってやつがいるんだよ。血とか髪とか皮膚とか」
ジャックが隣の部屋から顔を出した。
「見つかったか?」
「だめ、クレイとケビンおじちゃんのはあるんだけど、金髪の髪の毛が無い」
ミック達は首を振り、更に別の部屋へと駆け込んでいった。
「ちょっと、ケビン!どうしてステアさんはヘアブラシを持ってないのよ!」
マーテルが洗面所から顔を出して、そう聞いてきた。
「え?さあ?」
「女の人なら絶対に持ってるでしょう?なによ、あのサラサラの髪の毛も魔法仕立てなわけ?」
マーテルは感心したようにそう言うと、洗面所の床にしゃがみ込んだ。
ステアの部屋の扉が開いていたので覗き込むと、そこにはジェナがいて、クローゼットの中にあった服を数着引っ張り出して、襟元の辺りをチェックしていた。
「無いわねえ……一本くらいひっついてないのかしら?ああ、それにしても素敵な服……」
うっとりと黒のドレスに魅入るジェナから離れ、クレイの元に向かう。
クレイは自分の部屋で、一心に魔導書を見ていた。
「見つかったって?ステアと連絡が取れる魔法」
「うん!見つかったよ!これ!」
クレイは嬉しそうに魔導書の一ページを開いて見せた。
そこには古代文字がびっしりと書かれており、魔法陣の図画描かれている。
「呪文も読めるよ。これで師匠と連絡を取れる」
クレイは嬉しそうに微笑む。
その顔には疲れがにじんでいた。
ここ数日、ずっと魔導書を捲っていたのだ。クレイは特に、夜も遅くまで頑張っていた。
「そうか……あのさ、クレイ……」
やっと魔法が見つかったのに、ステアの事を言うのは水を差すようで気が引けるが、伝えないわけにもいかない。
「あのね、ケビン!今日、マーテルのお父さんとジェナのお母さんが、ステアが戻って来てくれることに賛成してくれたんだ!」
クレイが嬉しそうにそう言った。
「え?そうなのか?」
「うん!マーテルとジェナがずっと話してくれてたみたいで、二人とも師匠を追いだしたのは悪かったって思ってるって言ってくれて……」
クレイは嬉しさのあまりか、目に涙を浮かべていた。
「これで、俺が師匠と連絡取れたら、他の皆も説得できるかもしれない!俺、この村で師匠と暮らしたいんだ。ここはみんないい人たちばかりだから!」
クレイはそう言った。
不安の残る表情ではあった。しかし、大人が二人理解を示してくれたことで、希望を見出したのだ。
「……この村、好きか?」
「好きだよ。ここにはローワン達もいる。マーテルとジェナもいる。パン屋さんのおじさんもおばさんも、雑貨屋のおばさんもみんないる。ケビンもいる。俺、ここが好き」
クレイの言葉に、オレは不覚にも泣きそうになってしまった。
「師匠もきっと、ここが好きだと思う。だから、俺、皆を説得できるようにがんばる」
クレイはそう言うと、魔導書に戻った。
ほどなく、子供たちの必死の捜索により、ステアの髪の毛が見つかった。
ステアが本当は銀髪だとオレが言うと、「もっと早く言え!」と怒られた。
「銀髪か白髪か判断に迷うけど、この長さなら絶対にステアさんよね」
「だよね!」
「……わかんねえぞ。もしかしたら、ケビンが連れ込んだ他の女の人の髪の毛かもしれないし……」
ローワンの不用意な一言に、子供たちから疑惑の視線を向けられた。
特にジェナとマーテルに詰め寄られ、「この村のどこにそんな女の人がいるってんだよ!」というオレの言葉と、クレイの「師匠以外で髪の長い女の人は来たことないよ」という言葉でようやく信じてもらう事が出来た。
クレイを中心に、子供たちはステアと連絡を取るための魔法の準備を始めた。
ステアの髪の毛以外にも必要なものがあり、子供たちはそれを探しに森の中へと入っていった。
クレイはその間に、紙に魔法陣を描き始めた。円の中に古代文字や図形が組み込まれているもので、オレには図柄にしか見えない。
「魔法陣は綺麗に描かないといけないんだ。ゆがんだり間違えたりすると、それだけ失敗の確立が上がるって言ってた」
クレイは文字の練習用紙を使い、何度も魔法陣を描き、練習していた。(ステアが用意してくれた文字の練習用紙は魔法がかかっていて、何度も書き直せる仕様になっている)
魔法に使う材料を揃えた後は、もう、オレにも子供たちにも手伝えることは無い。
あとはクレイの手腕にかかっているのだ。
クレイもそれをわかっているからこそ、必死で魔法陣の練習をしている。
オレはその背中を見ながら、ステアの事を伝えるべきかどうかを悩んでいた。




