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「どうすっかなあ……」
心の声が口から洩れた。
古城への道を歩きながら、オレは天を仰ぐ。
今日は一日、村を回り、昨日の事について村人たちから話を聞いていたのだ。
ミルドレッド先生がやはり一番冷静に語ってくれた。彼女は襲ってきた吸血鬼の為人まで分析するほどだった。
他の村人たちは、とにかく怒っていたり、また吸血鬼が来るのではないかと恐怖を抱いていたりと、冷静ではなかった。
(そう、皆、怖がってる……)
ステアをあんなふうに追い出したことに後悔している人もいた。ただ、ステアに対して悪いと思っているのではなく、村からはじき出された怒りで、吸血鬼たちが村を襲いに来るのではないかと、心配しているのだ。
ステアはそんな奴じゃないとだけは言っておいたが、どこまで信じてくれるやら……
クレイの存在についても心配する声が上がった。クレイは魔法を使える。そして、ステアが大切にしていた子供だ。
クレイとステアがこっそりと連絡を取り合う事で、また、この村が吸血鬼の標的にされるかもしれない。
(あーなるかもしれない、こーなるかもしれないって……予想だけで不安が大きくなっているんだよなあ……)
襲われた次の日だから、という事もあるのだろうが、村人たちは心配しすぎだ。
ステアが村を襲うメリットなど、どこにもないことに気付かない。
ステアが子吸血鬼の暴挙を止めたこと、村人たちに頭を下げて出て行った事を、ほとんどの人が注目していない。
みんな、襲われたときの恐怖に縛られ、冷静になれないでいる。
(もう少し時間を置くべきかなあ……でも、ステアと離ればなれなんて、クレイがかわいそうだし……)
ケビンとしては、できるだけ早くステアを村へと呼び戻したかった。
今は混乱している村人たちも、話し合えばわかってくれるはずだ。
なんなら、定期的にクレイとステアを会わせる時間を作るだけでもいい。クレイがステアになついている様子をみせれば、村人たちもきっと冷静になってくれる。
ステアは何一つ、悪いことはしていないのだから。
(ウォルバートン先生にも相談してみっかな。あの人なら、いい知恵貸してくれそうだし)
そこまで考えたところで、古城に着いた。
キッチンの扉が開いており、そこから子供たちの声が聞こえている。
「クレイ?帰っているのか?」
「あ、ケビンおじちゃん、おかえり!」
キッチンにはクレイだけでなく、ジェナとマーテル、ローワンとミッチとジャックがいた。
全員、勉強でもしているのか、大きな本を開いて、目を皿のようにして必死に読み込んでいる。
「なんだ、お前たちが勉強なんて珍しいな。明日は雪でも降るんじゃないか?」
「しっ!邪魔しないで!」
マーテルが厳しい声でそう言った。
子供たちが読んでいる本を覗き込むと、そこには古代文字がびっしりと書かれていた。
「え!?これ、魔導書か?」
「そうよ。邪魔しないでってば!」
「この文字を見つけなきゃいけないんだよ。おじちゃんも一緒に探してよ」
ミッチが片手に持っているメモ用紙をオレに見せた。
そこには、三つの古代文字の単語が書かれている。
見ると、全員がその紙を片手に持ち、魔導書の文字を指で追っていた。
「……これ、なんて書いてあるんだ?」
クレイに聞くと「手紙」「連絡」「離れた場所」という答えが返って来た。
「……もしかして、ステアに連絡取ろうとしてるのか?魔法で?」
「うん」
「できるのか?」
「…………呪文が読めれば……」
クレイが自信なさそうにそう言った。
「大丈夫、できるって!」
「ステアさんに教えてもらったんでしょう?」
マーテルとジェナが本から顔を上げて言った。そして、二人して目をこすって再び本に目を落とす。
「……お前ら、あんまり根詰めるなよ。目ぇ悪くなるぞ」
「そう言うなら手伝ってよ」
ミッチがオレに本を投げてよこす。
普段、本なんか手にも取らない悪ガキ三人も、目しぱしぱさせながら、本に書かれた文字を追っている。
「……お前ら、ステアが怖くないのか?」
オレの言葉で、全員が顔を上げた。
「それ本気?」
マーテルが怖い声を上げた。どうやら滅多に怒らない彼女が怒っているようだ。
「ステアさんは怖くないよ。かっこいいよ」
ローワンが言った。その言葉に、ミックとジャックが頷く。
「それに美人だ」
「でも、牙はちょっと怖いかな」
「おじちゃん、血を吸われているんでしょう?痛い?」
ジャックの質問には、その場にいた全員が興味津々らしい。オレの答えをじっと待っている。
「……まあ、注射みたいなもんだ」
「注射きらーい」
「うえええ」
子供たちは嫌そうに肩をすくめる。
「血はケビンおじちゃんから吸ってる。クレイをスラムから助けて養ってる。クレイがこんなに難しい文字を読めるようになるなんて、すごい先生ってことだわ。お金持ちの家庭教師並み。村の皆を古城に招待して、美味しいご飯をごちそうしてくれた。あの子供の吸血鬼を止めて、私たちを助けてくれた。怖くないわ。良い人よ」
マーテルは真剣な目でオレを見る。
「ケビンもそうでしょう?ステアさんの事、信用しているんでしょう?そうじゃなきゃクレイを彼女に任せたりしないわ」
「まあ……ね」
「吸血鬼を怖がる気持ちはわかるわ。私もあの子供の吸血鬼はすごく怖かったもの。でも、ステアさんを追い出すのは間違ってる。ステアさんはクレイのお母さん替わりなのよ。なのに、問答無用で追い出すなんて……」
マーテルは悔しそうにそう呟いた。
ジェナと悪ガキ三人組は、そんなマーテルを心配そうに、少し恐れるようにして見ている。
なるほど、彼らが文句も言わずに、こんな根気のいる作業をしている理由がわかった。
「ステアさんに連絡を取って、戻って来てもらうの。この村にいられるように、なにか考えるの。ケビンも何か考えて。村長さんや皆を説得するの」
マーテルはやる気をみなぎらせた目で、オレを見てそう言った。
クレイを見ると、泣きだしそうな顔をしていた。しかし、すぐに表情を引き締めると、本に集中した。
「わかった。考えるよ」
オレはそう答えた。




