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マックスが十分に離れてから、オレはステアに近づき、手を見た。
手には傷一つなく、ステアは余裕の顔で微笑んでいた。
「大丈夫みたいだな」
「ふん。あんな小物の術などに私が引っかかる訳なかろう」
ステアは鼻高々に、髪をかき上げる。
「……お前、耳尖がってるぞ」
「なんだと!?」
たっぷりとした髪のおかげで、隠れて見えなかったが、ステアの耳は吸血鬼の耳になっていた。
「くそう、あの若造……なかなかやるじゃないか」
ステアは悔しそうに歯噛みした。
「ふん、まあいい。このお返しはいずれたっぷりと……」
「お前、何するつもりだ?」
「失礼、ステアさん」
いつの間にか、傍にマックスが来ていた。
「なにか?」
耳を人間のものにして、ステアはにっこりと微笑み、マックスを見る。
「魔法使いのあなたにお願いがあるのです。吸血鬼の探索と捕獲にご協力願えませんか?」
「まあ、私には無理ですわ。吸血鬼を捕まえるには、私の力では足りませんもの」
「いやいや、あなたの力は素晴らしいものだとお見受けしました。ミッシェルの呪いを解いた術も素晴らしかった。私には知らない系統の魔術を使われているようですね」
「まあ、さすが聖職者様。そこまで見破るなんて、ご慧眼に感服いたしますわ」
「どちらかと言うと、魔に近い魔術式のようですね。きっと吸血鬼の捕獲方法も良くご存じなのでは?」
「知っているのと、使えるのとは別ですわ。私の術では、足止めもできません。聖職者様方の邪魔をするだけになってしまいます」
「……そうですか」
マックスはそれでは仕方ないと、微笑む。
「それでは、また被害者が出てしまった場合は、ご協力を」
「ええ、もちろんです」
ステアはそう答えると、部屋を出た。オレも慌ててついていく。
一緒に来ていた領主とウォルバートン先生に先に帰ることを告げて、ミッシェルの家を出た。
「吸血鬼の事、どうするんだ?話をつけに行くのか?」
「ああ、行ってくる。騒ぎに巻き込んですまなかったな。私が責任を持って、この町から連れ出すから心配するな」
ステアはそう言うと、立ち止まり、呪文を唱えた。
ステアの体が光に包まれ、空気に溶けるようにして消えた。
気配を感じて空を仰げば、上空に大きな蝙蝠らしき影が見えた。
蝙蝠は空を舞い、遠くにある森へと進路を定めている。
(オレが行っても意味ないよな……)
ここはステアに任せる他ないだろう。
相手は子供だと言っていたし、ステアがてこずるとも思えない。
オレは村へと続く街道に目をやり……
「あ、どうやって帰ろう……」
少しだけ困った。
領主とウォルバートン先生と一緒に、馬車に乗せてもらって村に帰った。
古城のパーティーは、村長と手伝いに雇った人達に任せてきたが、そろそろお開きモードになっているかもしれない。
いや、もしかしたら、吸血鬼騒ぎが耳に入って、大騒ぎになっているかもしれない。そうなった場合、クレイが肩身の狭い思いをしている可能性がある。
オレはちょっとそわそわしながら、馬車が古城へと向かうのを待った。
村人がクレイを非難することは無いと思うが、クレイが不安を感じていないかが心配だった。
オレは馬車が止まるのと同時に飛び降り、古城へと走った。
不思議と静かだった。
(みんな、村に帰ったのか?)
いや、ここに来る道中、村の真ん中も通って来た。村にはほとんど人がいなかったはずだ。だから、ここにいると思っていた。
「?」
その時、何かが爆発する音がした。
城の中からだ。
「ステア?」
空気のふるえと、古城のあちこちに埋められた魔法の術式の震えから察するに、先ほどの爆発は魔法によるものだとわかった。
しかし、ここで爆発を起こす理由がわからない。何かがおかしい気がして、オレはキッチンに置いておいた剣を掴んでから、爆発の聞こえた方へと駆け出した。
オレの勘は正しかった。
城の一番広い広間で、爆発は起こっていた。
広間には村人たちが集まり、透明な魔法の結界の中で一塊になって震えていた。
村人たちを守るようにクレイが仁王立ちになり、魔法の杖を掲げて震えていた。
そのクレイとにらみ合っているのは、黒い翼を生やした吸血鬼の子供だった。
灰色の髪をなびかせ、にやにやと笑いながらクレイの杖とそっくりの杖を手にして、魔法を使おうとしている。
「クレイ!」
オレは剣を鞘から抜き放ち、吸血鬼に向かって駆け出した。




